第12話 時計がぶっ壊れた!
「青井!! ここもここもこれもこっちのやつも間違ってる! あなた何しに会社来てるの!!」
「すみません!」
「謝るよりも先に手を動かしなさい!」
「はい!! 訂正して参ります!!」
ひー!! 誰だよ。赤城課長が俺に優しくなるかもとか期待持たせたの。あ、俺の妄想か。馬鹿め!! 未来を見据える事が出来ないから現実でこんなに怒られる羽目になるんだ。あっれー。黒部さんの一件で俺に優しくなると思ってたんだけどな。謝罪もされたし。……ハッ。謝罪はもしかして黒部さんの一件だけで俺への雷落としは変わらず継続と言うことか!
なんでなんだよー、と心で泣きながら一生懸命訂正をする。よく自分の仕事を定時に終わらせておきながら部下の仕事まで見れるなーと改めて赤城課長のスペックの高さに脱帽した。
「青井くーん。お昼食べよー」
「えっ。もうそんな時間ですか?」
「うーん。どっちか言うとかなりズレた時間ではあるね」
え? っと腕時計を確認する。針はピタリと10時を指したまま。……まさか。とうとうそめやん先輩朝の10時を昼前ご飯と称してとるようになったとか?! 恐怖に戦いていると呆れた声で壁時計見てごらんと言われ、壁時計を見る。すると時刻は13時30分。え? 時間が……もしかしてこれって!
「タイムリープじゃないからね」
「あー。やっぱりですか」
「いや、そのわかってましたよ感止めよう?! 絶対考えてたよね!?」
「もーそめやん先輩時間遅いんですからさっさとご飯行きましょうよ」
「僕はそのポジティブさに驚愕だよ!!」
わーわー言ってるそめやん先輩を放置し、もう一度手に付けた腕時計に目をやる。うん。止まってる。これは電池交換かな。
「かなり年季の入った時計だね」
「えっ!?」
急に後ろから手元を覗く形でそめやん先輩がぬっと顔を出す。物思いに耽っていたからめっちゃ心臓ドキッとした! もう!! やめてよ! 俺のドキドキは女性限定なんだから!! ……まあ、今のドキドキは全然色恋沙汰関係ないんだけどね。
「これ……父の形見なんです」
「え……それは……ごめんね。そんなつもりで言ったわけじゃないんだけど」
「ああ、いいんです! もう亡くなってかなり経つので悲しむような時期超えてますし。ただ―――これは良い所に就職出来たらあんたにあげるって母に言われて必死に就活して手に入れたものなので―――ちょっと思い入れがあるものなんですよ」
「ほう。それは良い話しだな」
「―――へ? あ、黒部さんですか」
「おいおい! 俺への態度が素っ気なくないか!?」
ほら、もっと構えよって手をクイクイされるのがより腹立つ。黒部さんの扱いにも慣れたものだ。彼は適当にあしらうのが一番お気に召すらしい。マゾなのかな?
「だったら尚更早く元のように動いてほしいね」
「そうですね―――帰りに時計屋行ってみます」
俺に厳しいのは青井の愛だな! とか気持ち悪い事を躊躇いもなく発言するのは俺の先輩ではないと信じたい。俺の先輩は経理部の先輩方とそめやん先輩だけ!! 赤城課長? 課長は上司でしょ?
「―――え!? 電池交換しても意味ない!?」
「うん。そうだね」
「修理も駄目なんですか!?」
「申し訳ないがもう製造していないパーツだらけで時計本体も取り扱っている店舗がないんだ」
「そ、そうですか……」
そめやん先輩と黒部さんに話したその日の夜、仕事帰りにまだ開いている時計屋に腕時計を持ち込んだが結果は芳しくなかった。
「これだけ長く愛用してもらえてこの時計も報われると思うよ。まあ、慰めにもならないだろうけれど」
「い、いえ。そんな事ないです。ありがとうございました」
腕時計を手に時計屋を後にする。母になんて言おう。怒られるかな。取り扱いが悪いって……。遠くない未来に母親の雷が落ちると想像するだけで震えが止まらなくなった。
「青井?」
溜め息混じりに一歩前へ足を踏み出すと俺の名前を呼ぶ声。思わず顔を上げるとそこには赤城課長が不思議そうに立っていた。
「課長……あれ? 今お帰りですか?」
「ちょっとスーパーに買い物に行ってたのよ。青井の方こそ遅いじゃない」
「あ、俺は―――本屋に寄ってて」
「あらそうなの? 私はてっきり会社で話してた腕時計を直しに行ったんだと思っていたのだけど」
―――おい! 事情知らないだろうと思って本屋って嘘ついたのにそめやん先輩達と話した件知ってんのかーい!
笑顔をひきつらせながら口を開く。
「そ、そうなんですよ。知ってらっしゃったんですね」
「ええ。聞こえたから」
マジで!? 途中結構小さい声で話したから細部までは知られてないと思うけど……。
「お父様の大事な形見なのでしょう?」
ブッ―――。バレてんじゃん! ばっちり聞こえてるじゃん! マジかよ……俺の努力は無駄だったんですね。知られているならもう隠す必要ないか。事の経緯をかいつまみながら説明すると赤城課長が顎に手を当て思案顔になった。
「今週末って空いてる?」
「―――え? 今週末ですか?」
「なに? 空いてないの?」
「あ、空いてます!」
「そう―――」
え、何? また黙りこくるんだけれども! 沈黙が恐い!
「じゃあ日曜日、○○駅の時計台広場に10時集合で。遅刻は許さないわ」
「―――へ?」
「それじゃあ、お疲れ様」
「お、お疲れ様です」
取り残された俺は茫然自失。どうゆうこと? なんで週末の予定がたって……しかも女性。さらに上司。ほんとにどうして!?
それからというもの赤城課長に真意も尋ねられず、時間だけが無情にも過ぎ去っていった。
着ていく服も用意してない! 明日は土曜だから日曜に着ていく為の服を身繕いに行って―――ランチが出来る店調べた方が……いやいや。さすがに俺と食事なんて嫌だよな。ってか、服のセンスないから流行りものとかコーディネートとかわからない!
日曜なんてもうすぐだ。ど、どうしよう!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます