第2話 第二課
「私も残念だとは思っているのだよ。しかしだね、これも青井君の成長の為だと思えば送り出してあげるのが私達の務めだと思ってね」
「………部長、その心は?」
「赤城君の決定に反論出来なかった。すまん」
「ほら! やっぱり!! 嫌ですよ、俺……営業って汗水流しながら新規の契約取ったり、大口の会社と会食したりしなくちゃいけないんですよね? 俺、一発芸なんて持ってません!」
「うん。それは誰も求めてないし、青井君の偏見だからね」
「なんで俺なんですかー」
「私が聞いているのも赤城君直々の申し入れとしか耳にしていないからなぁ。まあ、異動なんてこの長い社畜人生の中では当たり前だから、諦めなさい」
「そんな……」
非常なまでに上司は冷たく、逆に追い出したかったんじゃないのかと疑った。だが、社畜人生と語った時の姿は真に迫るものがあった。仕方なく諦め自分のデスクに戻り、机を整理する。段ボールに荷物入れて異動ってほんとなんだなーとぼんやりと思った。
お世話になった経理部に深々と頭を下げ、5階にある営業課へ向かう。入口前で扉を見つめ、今日からここが俺の巣かと内心ごちる。経理部出る時呆気なかったなー。誰も引き止めてくれないの。
「失礼します! 経理部から本日付けで配属が替わりました、青井智陽と申します! 宜しくお願い致します!」
やりきった! と内心ほくそ笑んでいると顔を上げて硬直する。俺の方を無数の目が見ているのはいい。ただ疑問なのはみんな小首を傾げていることだ。なんで? 俺も首を傾げる。
「君……何か間違えて―――」
「青井! そっちは第一課よ。あなたの配属先は第二課。書いてたでしょ?」
「……あ」
「何呆けてるの、早く行くわよ」
「は、はい!」
振り向くとそこには赤城さんがいた。スーツをピシッと着ていて付け入る隙がない。本当にキャリアウーマンなんだな、と感心した。と、疑問になり質問をぶつける。
「あれ? 第二課って書いてましたっけ?」
「打ってくれた人が書き忘れてたらしく、右下に小さく入れたそうよ」
えー。それは気付かないでしょ。俺が老眼だったらどうするんですか。何より、やり口が借金の契約書みたい。トホホと付いていくと後ろから声がかかる。この声は、確かさっき俺に話しかけてこようとした人では? と後ろを振り向く。
「赤城ー、また大口の契約取ってきたらしいな。でも、俺ら第一課の方がトータルでは勝ってるからいい気に―――」
「行きましょう、負け犬の遠吠えよ」
「な! 仕事が出来るからって調子乗るなよ! 女の分際で!」
赤城さんは気にもとめず、歩き去る。後ろをついていきながら第一課に目をやると、第一課の女性達が冷たい目でその男性を睨んでいた。こわー。なんで敵つくるような発言しかできないわけ?
「さあ、ここが今日からあなたの職場よ。私があなたに求めるのはただ一つ。結果を出しなさい。以上」
「え―――。それだけですか? あのー? 聞いてますー?」
「駄目だよ。赤城課長に何を言ってもその一点張りだからね。もう君のことも頭から抜けてるから」
「は、はあ」
「あ、僕は
「こちらこそ宜しくお願いします! 今日から配属になりました。青井智陽と申します!」
「そんな堅苦しくなくていいよー。僕のことはそめやんって呼んでね」
「あ、ほんとですかそめやん先輩……すっげーしんどかったんで嬉しいです」
「適応するの早いね、君……」
僕って威厳ないのかな。とぶつくさと声が聞こえる。そういえば、とそめやん先輩に質問する。
「俺、何もわからなくて。誰が指導係ですか?」
「ああ、それは―――」
「私よ」
「……え」
「スパルタでいくから覚悟なさい」
なんでだ! 赤城さんキレイだけどスパルタは嬉しくない! 誰か替わってと視線を送る。見事に目線を外された。わーお。
「お、お手柔らかにお願いします」
そう答えるのが精一杯だった。
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