第4話 ヤバイという言葉しか出ない

 ダンジョンコアらしき反応に向かってしばらく移動し始める。

 移動自体は順調で、猫だからこそ通れるような細かい通路とかも順調に通過していていたので、少しばかり仕事のほうに集中していたのが悪かった、といえば悪かったのだろう。

 30分程度であろうか?気が付いた時にはかなり不味いことになっていた。

 まあ、気が付いて時にはもう手遅れだったわけだが。


 いやね、ダンジョンコアらしき反応にしか向かえないんですよ。

 なんなら引き寄せられてる感すらある。


 新宿から明らかに東に移動していたのは確かで、現在は聖域のような阻む力を感じる広い土地を迂回しながら移動している最中です。


 こんなに広くて、その上でこういった防御がされてそうな場所なんて東京では1カ所しか思いつかない。間違いなく皇居でしょ、これ。

 それから皇居前広場を経由して、大手町方面に移動していると思われる。


 なんというか、空気とでもいうべきなのか、どんどん濃くなってて逃げたいんだけど、使い魔とのリンクも切れない状態になっている。


 いやぁ、本当にヤバイ時って語彙力がなくなるもんなんだなぁ。ホントに、これヤバイとしか言うことがないんだけど…?。

 行先はさすがにわかりましたよ?あまりわかりたくもないけども。大手町で、明らかにヤバい気配。それも人の力ではとても及びそうにない力、となれば、だ。

 平将門公しかいないよね…。

 思い到った瞬間、揺らぐかのように目の前がふっと暗くなって見えなくなる。


 ふと気が付くと、暗闇の中でありつつも先に緩やかな明かりが見える。


 使い魔を自分の意識で動かすこともできないまま、緩やかにその明かりに近づいていく。門のようなものをくぐると、ドラマでしか見たことがないが、木造の古い御所のようなうな建物が見える。

 

 白い砂利の道が続き、木の階段があるが、上らずに砂利部分に平伏する。

 ふと、呼ばれたような気がして顔を上げる。

 50メートルほどはあるだろうか、階段の上、さらに奥に御簾が見えてくる。御簾の向こうにぼんやりと人影だけが見える。

 これだけの距離があるうえで、御簾越しにもかかわらずはっきりと感じとれる、とてもとても強い圧力。

 自然に再度平伏してしまう。


 いつの間にか使い魔と自身との感覚がなくなり、まるで自身がそこに居るかのような感触。

 ええと、口上として何か言うんだっけ。このお方は神でもあるはずだし、こういう言い方でいいんだっけ。

 緊張でまるで声が出せない。すでにカラカラになってしまった口で、なんとか言葉を紡ぐ。

 「か、かしこみかしこみもうす、はじめて御意を得ます」


 ふわり、と風が舞い、緩やかな声が届く。

 「さほど畏まらぬとも良い…我が一門のすえなりや」

 末裔かどうかってことだろうか?一応、父方はマイナーだけど武家の家系ではある。もちろんほとんど知られていないような武将だし、直系ですらないけど。それでも田舎の武家といえば平家の落ち武者というのはホントかどうかはともかく、伝承としてはセットだからな。

 「父母からは左様に聞き及んでおります」


 「…ならば日の本の民草の安寧のため励むがよい」

 問答無用で自身のダンジョンコアが持っていかれる。

 その代わり力が与えられていることがわかる。


 【典膳】という文字が脳裏に浮かび、消える。


 …気が付くと使い魔は皇居前広場に戻っていた。

 ぶわっと冷や汗が出てくる。途中から使い魔を操作している感はまるでなかったからなぁ。直接その場に居たようにしか感じ取れなかった。

 というか、使い魔越しなのにダンジョンコア持っていける時点で反則だよなぁ。


 ほんと、ヤバいとしか言いようがない相手で、格が違い過ぎる。高すぎる山の頂はふもと近くではわかりにくいように、どれだけ格が違うのかすらまるで分らなかった。さすがは、日本三大怨霊として千年以上語り継がれるだけはある。


 典膳ってなんだと思って調べてみたら、天皇の食事全般を司る役職のようで、従七位下にあたる官位らしい。

 この方の時代ってもう官位ってあるんだっけ?と思ったけど普通にあるというか、あったうえでいろいろと限界が見えてきた時代らしい。

 信○の野望的に、戦国当たりの称号だと思ってましたよ、正直。


 このおかげなのか、周辺100キロ程度ならダンジョンが把握できるようになっている。そのうえ、自身のダンジョンであれば使い魔の転移が可能となり、ダンジョンを広げていけば行動範囲が広がるようになった。


 その代わりに、DP収入の10%は自動的に回収されるらしい。

 DPが食事と考えると典膳というのは一応妥当なのか?

 東京ってことで大和守あたりが欲しかったと思わなくはないが、それだと従五位上相当、現在は新宿の一部をダンジョン化したぐらいで地方豪族とすらいえないレベルの実情を考えれば、従七位下ですら高く評価されているほうだろう。


 正直、先ほど平将門公の御所から自身のダンジョンコアを回収できる気なんてまるでないし、安全保障費として考えれば1割は痛手ではあるものの、格安の部類じゃないか、とさえ思わなくはない。


 とりあえず100キロ圏内にすでに3つもダンジョンがあるらしい。

 こりゃ日本だけでも相当な数のダンマス生まれてるんじゃない?世界まで広げるとどうなるかわからないな。

 さすがに一人で関東圏ならともかく、離島や九州、北海道当たりまで手広く守るのはとても辛そうなんだけど…。


 ま、千里の道も一歩から、まずは手近なところから退治していきますか。

 そのついでに主要な駅とかを一部分だけでも自身のダンジョンにしておけば以降の移動も簡単になるでしょ。


 とりあえず最も近いダンジョンへ向かい始めることにした。 

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