最奥と疑念
高い天井、広い空間、光が差し瘴気一つないまるで洞窟を出たかのような場所。ゾンビを倒しながら奥へと進みついに四人は目的の場所にたどり着いていた。
「ここが最奥」
瘴気で満たされ薄暗かった洞窟内部と違いここは、明るい。かつての龍王が住まうには十分すぎるくらいの広さがあった。
「見てあれ」
リーシャが奥のほうを指さした。
指をさした方向には火が灯された燭台と中央にリーシャの魔法陣と同じ幾何学模様が彫られた台がある。その台の上にはご丁寧に祭り上げられた光輝く大きな玉があった。
まるで、祭壇のようだ。
「あれが魔龍王のアニマか。普通のアニマとなんだか見た目が違うな」
通常のモンスターのアニマは外側が硬い殻で覆われ内部に電撃が走り魂の根源が胎動している。しかし、魔龍王のアニマはただの黒光りした玉だ。光を全て遮断する圧倒的黒、内部の根源の胎動が見えない。死んでいるかのようだ。
「じゃあ、私は魔龍王のアニマを取りに行ってくるからここで待っていて」
リーシャは魔龍王のアニマを目にすると最高の宝を目の前にした海賊のように一目散に走りだした。
「待てリーシャ、一人で行くのは危険だ」
「大丈夫平気よ、この場所にはゾンビもいないし」
けして油断しているわけではない。だがなんだ、この場所に着いてからミナトは妙な胸騒ぎがしていた。ガンスリンガーの危険察知能力が鳥肌となって現れている。
なにかとても良からぬことが起きそうな……。
「どうしたミナトそんな考え詰めた顔をしてお前らしくない」
「なんて言うかこの場所変じゃね」
どう説明していいか言葉が見つからずミナトはミクリヤに直接思ったことを吐き出した。
「変って……ああそうかここは元々ジークブルムがいた場所、ゲーム風に言えばラスボスの部屋みたいなものだからな。お前は空っぽのラスボスの部屋を見てがっかりしているんだ」
がっかり、違う。ミナトはそんなことこれっぽっちも思っちゃいない。
この場所に自分たちはおびき寄せられた気がしてならないのだ。洞窟を進んでいるときは気づかなかった。しかし、いざ最奥にたどり着くと、この場所に連れてこられたような感覚がミナトの脳内に直接伝わってくる。
この感覚は先日のエントマの件と似ている。だが、ミナトにはそれを説明できる根拠もトーク力もない。
「ギークさんはどう思いますかこの場所について」
この場所についてから一言もはっしていないギークにミナトは助言を求めた。
ヘルムの内側の表情は見えないがギークは心ここにあらずといった感じで魔龍王がいたとされる場所を放心したように眺めていた。
「ギークさん……」
「ああ、すまない。つい、考え事をしてしまっていたよ。ところで何かな、ミナト君」
「この場所何かおかしくないですか、まるで連れて来られたような感覚がしてならないんです」
ミナトがそういうとギークは黙りこむ。黙り込むというよりは黙ってしまったといったほうが正しいかもしれない。そんなギークを見てミナトは違和感の正体を吐き出すように唐突にギークに言う。
「ギークさんはこの場所に一度来たことがありますよね」
確信はない。疑いたくはない。だが洞窟に来てからのギークの様子と行動を見てそのように思っただけだ。
「ギークさんはリーシャと同じくらいにここへ来ることを望んでいたと俺は思いました」
ギークの目的は死者の灰だった。死者の灰を手に入れればこの場所に用はない。なのに、ギークは奥へ行こうとミナトたちを鼓舞させていた。協力してくれるとは言ったものの危険が伴うダンジョンの奥地にあったばかりのプレイヤースキルもままならない人に同行できるだろうか。
「ミナトいくら何でも考えすぎだ。かつて魔龍王がいた場所だからって警戒しすぎ」
「いや、そんなんじゃないよミクリヤ。ギークさんあなたは俺たちよりもはるかに強いですよね」
洞窟に入ってからのギークの動きをミナトはずっと見ていた。最初にゾンビが現れた時の対応そして、大剣を扱う身のこなしどれもこれも洗練されたものだった。
リーシャとは比べ物にならない力をミナトはギークに感じ取っていた。
「ここにきて疑いすぎだぞ、ミナト。大体お前がギークさんに頼んだことだろ失礼だろ」
「いや、ミクリヤそれでも俺は聞かなきゃならない気がするんだ。ギークさんあなた一体何者ですか。あなたの本当の目的は……」
「…………ミナト君」
ギーク何か言いかけたその瞬間だった、奥からこの空間を埋め尽くすほどの強い輝きが目に刺さった。
視界を遮る邪悪な光は魔龍王のアニマから漏れ出ているものだった。先ほどまで黒に染まっていた玉が輝きを取り戻している。
「うそっ! 一体何が起きているの」
握っていたデモンズシャフトが振動し魔龍王のアニマとシンクロし引き寄せられる。まるで、デモンズシャフトが魔龍王のアニマに呼ばれているようだ。
「いけない。リーシャ君はやくそこを離れるんだ」
突然起きた出来事にギークが叫んだ。
だがリーシャは聞こえていなく、その場で魔龍王のアニマとデモンズシャフトの綱引きに参加している。
「リーシャ君デモンズシャフトを放すんだ君も巻き込まれるぞ」
強引にデモンズシャフトを魔龍王のアニマから離すとリーシャはギークの声に距離をとって答えた。
「嫌です。この杖は私の相棒ですから、手に入れるならまだしも採られるのはごめんよ」
リーシャが魔龍王のアニマと距離を放すと四人は合流し魔龍王のアニマを見上げる。
魔龍王のアニマは宙に浮き、形を作り替えていく。
フィールド上全ての死体の骨と肉が集まりかつて英雄が倒したとされる巨大な龍の姿へと変貌した。
【魔龍王ジークブルムノヴェム】クォンタムワールド最強の龍の化身が蘇った。
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