アンデッドハウンド

次から次へと湧いて出てくるゾンビ達を片っ端から倒していき奥へとミナトたちは進んで行く。

「それにしてもゾンビ達多いな」

 赤黒くなった槍を片手に死んだゾンビの屍をミクリヤは見て飽き飽きしていた。

「まるでエントマの時のようだな」

 大量のゾンビと先日のエントマのクエストをミナトは重ね合わせて思い出す。

「それを言うとまた厄介なモンスターが出るんじゃ……」

 ミクリヤは冷や汗をかき危惧する。

「そんな何度も危険なモンスターに遭遇するわけ……」

「ブォォォーン」

 すると、奥から重機のエンジン音のような声が響き渡り、何かがこちらに駆けてくる足音が聞こえた。

 ミナト、ギーク、リーシャが即座に警戒を強めた。ミクリヤも遅れ警戒する。

「来るぞ、三人とも」

だんだんと影が見え、姿を現す。そのモンスターは今までの雑魚ゾンビとはレベルが違った。

「ッ……」

 予想よりもはるかに醜悪でミナトは現れたモンスターに言葉を失った。

 そのモンスターもゾンビと同じアンデッドモンスターだ。しかし、ゾンビよりも大きくはるかに凶暴だ。

 腐った肉にハエがたかり、あばら骨がはみ出している。口から落ちる唾液は臭く吐き気をまき散らす。

アンデッドハウンド、ミナトたちの倍の大きさはあるゾンビ犬が現れた。

 この世ならざる醜いモンスターを見て誰もが意識が飛びそうになる。

 アンデッドハウンドは吠えて体液をビチャビチャと辺りに散らしながらこちらに迫って来た。

 ミナト、ミクリヤ、ギークが武器を構えると、リーシャが前に出た。

「ここは私に任せて」

「でも、あのゾンビ犬を一人でやるのは……」

「ミナトの言うとおりだ、ここは協力して戦った方がいい」

「大丈夫、あいつは私が倒す。それに少しぐらいかっこつけさせてよね。展開!」

 リーシャを中心に幾何学模様の魔法陣が浮かび上がった。

 向かってくるゾンビ犬に対し言葉を紡いでいく。

「光を束ねる雷精よ、紫電の槍となり、貫き光星となれ【リフィトスピア】」

 リーシャの詠唱魔法が撃ちだされた。光の星となった、雷精の槍がゾンビ向かい貫き刺す。

 しかし、ゾンビ犬は魔法の槍を横に飛んで避ける。

「なっ、速い」

 ミナトの顔に驚きの顔が浮かんだ。ゾンビだからと甘く見ていた。アンデッドハウンドは生きていた時と変わらず動ける。

 だが、リーシャは予想していた。

「かかった」

 アンデッドハウンドが着地した地面に魔法陣が浮かび、風が吹き荒れた。

 激しく獰猛な風は刃となりゾンビ犬を包み込んで腐った肉を引き裂いていく。

 まるで、精肉機の中に入ってしまったかのようにアンデッドハウンドは切り落としスライスにされた。

「すげぇ、これがリーシャの力」

 ミナトはリーシャの戦闘に感心していた。破壊力のある詠唱魔法を囮に使いトラップ魔法で相手を仕留める戦い方。しかも、ほぼ同時に魔法を発動させていた。並みの魔法使いなら詠唱魔法だけで魔力が尽きる。

 これが、『白銀の魔術師』の真の実力。

「流石、デモンズシャフトに選ばれただけはあるな。しかし、それだけの魔法を使って魔力は枯渇しないのか」

「それには心配ないはずだよ、ミクリヤ君。リーシャ君が先に展開していた魔法陣は魔力を回復するモノじゃないかな」

「その通りよ。魔法陣の中にいれば魔力はどんなに使っても回復してくれるわ。あと、魔力のブーストも兼ねている」

「それで、詠唱と同時にトラップ魔法も展開できたわけか」

「魔法陣を使い詠唱魔法で相手を誘い仕掛けられたトラップ魔法で相手を倒すこれが私の戦い方よ」

「なるほど、後衛向きな戦法だ。防衛戦ならかなり重宝される。俺とミナトが前衛で叩いている間トラップ魔法をできるだけ設置すれば大抵の敵は倒せるな」

 などとミクリヤが意気揚々に話しているがリーシャは気に入らない様子だ。

「だけど、それじゃ嫌なの。後ろから隠れて魔法を行使する戦い方よりも前に出て魔法を使いたい。ずっとシャルルマーニュのメンバーに守られてきた。だけど、守られるのはもういい。私は戦える。だから魔龍王のアニマがどうしても必要なの」

 リーシャは魔龍王のアニマを必要とする思いを語ってみせた。

「だってさミクリヤ、当てが外れたな。俺は前でリーシャがガンガン魔法を行使する方が面白そうだけど」

「効率が悪すぎる。が、それがリーシャの心意だと受け取っておくよ。俺には与えられた役割を押し切る力も心意もないからな。先を行こう。多分、洞窟の果てはもうすぐだ」

 すると、異変が起きた。斬られたアンデッドハウンドの肉塊が大きな塊に吸い寄せられるように動き出した。

 肉塊はどんどん集まっていきやがて形作られる。

「嘘……」

 おきた出来事にリーシャが声を出して否定する。が、否定しても変わらない。

 強力な異臭をまき散らしながらアンデッドハウンドが復活した。

「グガァァァァァー」

 凶暴な咆哮をあげ怒りをミナトたちに浴びせる。

「もう一度殺すしかないようね、展開」

 リーシャが先ほどと同じように魔法陣を展開すると今度は風の刃を直接アンデッドハウンドに叩き込んだ。

 風の刃はアンデッドハウンドを包み込み、肉を切り裂くかのようにみえた。だが、アンデッドハウンドの肉は切り裂かれることなく逆に風の刃をへし折った。

「肉が変化しているの」

「どうやらそのようだね。形状記憶なのかな。もう同じ属性の攻撃は効かないだろう」

 ギークがアンデッドハウンド様子を見て冷静に分析した。

「やつを葬るには完全に肉を消滅させるしかないだろう」

「なら、リーシャのトラップ魔法に誘い込んで今度は燃やせばいいんじゃね」

「燃やすのはいい。だがダメだ、ミナト。奴が形状記憶しているのが魔法だけじゃないなら、リーシャのトラップ魔法も警戒しているはずだ」

「ゾンビのくせに頭がいいなんて、厄介だな。でも、倒す方法はもう頭に浮かんでいるんだろミクリヤ」

「ああ、今回は何も準備なしに来ていないからな。ギークさん手伝ってくれますか」

「もちろん。ここを通らないと目的の場所にたどり着けないしね」

「ありがとうございます。なら、手短で悪いが今から作戦を伝える」

 だが、そんな悠長に作戦を伝える暇はなく、アンデッドハウンドはミナトたちに襲い掛かる。

 四人が四方に飛び去り分断された。

 そんな中でミクリヤは早口で作戦を伝えるため声を出す。

「ギークさんは俺と一緒に来て奴の機動力を止めてください。リーシャは魔法陣を展開して大技の火炎魔法の準備を」

「分かったわ」

「ミクリヤ俺は……」

「ミナトはあいつの腹の中に【フルメタルダスト】をぶち込め!」

「……ええー!」

「驚くじゃねぇ」

「だってあいつの唾液とか臭いし後で嫌な臭いとか付きそう。ハエとかも俺の周りにたかりそう」

 腹の中に弾丸を入れるという事は口の中に腕を突っ込んで【フルメタルダスト】を撃てという事だ。

 そうすれば確実に腐臭はミナトの鼻を曲げるだろう。

「そんな事言っている場合か。ここを乗り切らないとリーシャの心意も無駄になるんだぞ」

 リーシャの心意、先ほど語ってくれた。自分が戦えるという証明をリーシャは手に入れたい。その心意にミナトは答えたい。だからこそ、銃を強く握りしめた。

「分かったよ、やってやろうじゃねぇか。腐臭、悪臭上等だ。ハエでも蛆虫でもきやがれ」

 ミナトの声にもう心配はいらないとミクリヤは前を向く。

「それでこそだ。ギークさん前きます」

 ギークは頷くと、大剣を横に構える。そして、ミクリヤに合わせて左に飛んだ。ミクリヤは逆に右に飛ぶ。

 そして、大剣と槍がアンデッドハウンドの両足を明後日の方向に捻じ曲げた。

アンデッドハウンドの動きが鈍る。しかし、それでもアンデッドハウンドの足は止まらない。一体どういう構造をしているか謎だ。だが、機動力が落ちたとなれば、ミナトが近づいて銃を撃つだけの隙はある。

 ミナトはレッドカドラスに弾を込めアウンデッドハウンドの口元に銃口を突きつけた。

 臭い、気持ち悪い、今にも逃げ出したいとミナトの心が訴える。それでも、ここで引き下がるわけにはいかない。アンデッドハウンドがミナトの腕を噛み千切ろうとドロドロ顎を閉じようとすると同時に銃の引き金を引いた【フルメタルダスト】

 弾丸の雨はアンデッドハウンドの腹の中でポップコーンのようにはじけ飛んだ。

 次第に腹が膨れ上がり、爆発しアンデッドハウンドが四散した。

 そして、一番大きな肉片を糧にまた集まっていき再生がはじまる。再生する地点が分かっている。そうなればもう驚くことはない。

 魔法陣を展開していたリーシャが再生地点を狙い詠唱魔法を唱える。

「燃えよ、燃えよ、黙示録の炎よ、すべてを飲み込む業火となり、灰塵を散らせ【メギドフレア】」

 再生が完了したと同時に全てを焼き尽くす業火がアンデッドハウンドを飲み込み灰へと変えた。

 煤へと変貌を遂げたアンデッドハウンドは宝箱を残して消えていった。

「やったな。でもこの宝箱何が入っているのか開けづらいな」

「形状記憶の再生能力のあるモンスターだったし、開けて損はないと思うぜ」

「二人ともそんな宝箱よりももっといいものを取りに行きましょう。私たちの目的は最奥なのだから」

 宝箱をどうするか話し合っているミナトとミクリヤに対しそんなものはついでに過ぎないという反応をリーシャは示す。

「そうだったな。俺たちの目的は魔龍王のアニマだ。こんな宝箱より断然重要だ」

 四人はゾンビが蔓延る洞窟の先へ進んでいくのだった。


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