パーティ結成
就業式が終わり裕翔たちは夏休みに入った。
「赤点はない。これで夏休みは誰にも邪魔されず24時間QWにどっぷりと浸かれる」
「24時間ってずっとスポットに入り浸るつもりかよ。課題はどうするんだ」
「クソッ、課題が俺のQWライフを邪魔するというのか。育也、課題手伝ってくれるよな」
「どうせそう言うと思っていたが、自分でやらないと意味ないだろ」
「そこを何とか、お願いします」
育也は呆れた目で見ているが、いざとなったら手伝ってくれるだろう、たぶん。
あれから二日、裕翔は育也抜きでスポットに行ってQWをプレイしていた。
強いプレイヤーについて行き修行するのもいいがそれではプレイスキルは身につかないと思い自分でも倒せそうな狩場でお金をせっせと集めていた。
それに人に頼ってばかりいるとこの世界では生き残れない。エントマの討伐でその事をミナトは嫌という程に思い知らされた。
QWは弱肉強食だ。いつ、モンスターやプレイヤーに寝首を掻かれるか分からない。
その間リーシャとは一回も会っていない。ミクリヤの話からするとあまり人と関わらないらしいからダンジョンに潜って人目を避けているのだろう。
「それで、育也は今日からまた参加できるんだろう」
「ああ、ユニット回復通知も来ているし復活だ」
「なら強いモンスターを狩りに行こうぜ。俺の心意能力バレットバーストの力をもっと知りたいし」
バレットバーストはその時本人が一番望むものを弾丸に具現化する能力だ。一度、何もない荒野で練習してみたが発動しなかった。その力を試すには様々な強い強敵と対峙する必要がある。要は、やってみなければわからないという事だ。
「あまりピンチになるのは嫌なんだがな。まぁ、今回は装備を整えていけば問題ないか。いいぜ、強いモンスターの出るクエストがないか探してみるか」
育也はまだ、先日のエントマの一件の事を気にかけているようだった。
そうして、今日の予定を二人で決めようとしていると、裕翔のデバイスが鳴ると通知が来た。通知の先は『白銀の魔術師』ことリーシャからだった。
二日ぶりのリーシャの連絡に裕翔は目を通した。
『頼みたいことがあるの。お台場エリアの中央広場に来て』
と何ともあっさりした文だった。
「頼みたいことって何だろう……」
「さぁな。しかしあの『白銀の魔術師』の頼み事をするなんて珍しいというより、まずありえないな」
どうも育也は疑い深くリーシャの事を見ているようだ。
「リーシャは育也が思うよりもずっといい奴だよ。とりあえず行ってみようぜ」
中央広場。
「いないなあ」
ミクリヤと二人で中央広場に着いたがそこにはリーシャの姿はなかった。
「早く来すぎたかなぁ」
などと辺りをきょろきょろ見渡すと、酒場の樽の横からひょっこりと顔を出す銀髪の少女の姿がミナトの目に映った。
(あれリーシャだよな……何してんだ?)
リーシャは仲間になりたそうにミナトの方をじっと見ていた。その様子を辺りのプレイヤーが見てちょっとした騒ぎになり目立っている。
「やばっ、完全に悪目立ちしている。ごめん、ミクリヤちょっとそこで待っててくれ」
「おっ、おう……」
ミナトは駆け出しで酒場の樽の前まで来るとリーシャはヒュッと樽の影に隠れた。
「リーシャだよな……ここで何しているんだ」
樽の横へ行きミナトはまるで草食動物のように身体を丸めたリーシャに話しかける。
すると、リーシャはコクリと頷いた。
(かっ……可愛い)
まるで別人のようなリーシャを見てミナトは一瞬だけ見惚れた。
「こんなところに隠れてどうしたのさ。かくれんぼしている風には見えないけど」
「人」
「人?」
「人がいた。聞いてない……ミナトはソロじゃなかった」
「……ああ、ミクリヤの事か。って、えっ……」
状況は理解したが、まさかのコミュ症。人見知り。ボッチにはきつい使用です。
「強いモンスターと出くわした初心者を助けてその助けたお礼にフレンドになれば私も仲間ができると思っていたのに、ミナトには既に他の仲間がいたなんて……同じソロプレイヤーじゃなかった」
どうやら、リーシャはミナトがソロプレイヤーだと勘違いしていたみたいだ。
「私はミナトだけがいいの。それ以外は要らない」
美少女にこんなセリフを言われるのは光栄な事だが、すごく気まずい。
「で、でもエントマと戦った時はちゃんとコミュニケーションとれていたよね」
「あれは、成り行きだし、ミナトと話すのは苦じゃない。私、普段は知っている人以外とは全く話さない。というか、どう話していいか分からない」
どうりで、多くの人が仲間に誘ってもソロ活動をしていたわけだ。
一緒に戦うことがリーシャにとっての唯一のコミュニケーション手段なのだ。
たった一度共闘しただけで好感度がMAXになっているとは何てチョロイ。
何はともあれこのままじゃ埒が明かない。キャラの崩壊したリーシャの手を取りミナトはミクリヤの方へ連れ出す。
ミナトは抵抗せずついてきたリーシャとミクリヤの間に立つ。
「こちら俺の親友のミクリヤ。そして、俺の仲間のリーシャ、二人とも俺の仲間だ」
「……よろしく。って『白銀の魔術師』ホンモノ!」
「こちらこそ……よろしく。出来れば、『白銀の魔術師』はやめてほしい」
二人は互いにぎこちない感じで自己紹介した。
すると、その様子を見ていたかのように聞き覚えある声が後ろから聞こえた。
「へぇ、リーシャちゃんミナト君たちと行動するんだね」
振り返るとそこには【シャルルマーニュ】の団長であるシャルルがいた。
「やぁ、ミナト君、ミクリヤから事情は聞いているよ。先日は僕のせいで大変な事になってしまって済まないね」
「いいえ、あのクエストのおかげで自分の可能性が導き出せたので結果オーライといったところです」
「そうかい。ミクリヤから苦情の連絡が一分ごとに通知された時はどうなるかと思ったけど安心したよ。このままミナト君がQWに来なくなると思ったら僕は夜も眠れないくらいに責任を感じていた。けど、その心配もなく僕は今ほっとしているよ」
大げさな。それよりもミクリヤは自分のユニットが破壊されたあとずっと救援の依頼をシャルルに出していたようだ。
「シャルルさんそれは言わない約束。それよりも、『白銀』いやリーシャの事知っているんですね」
リーシャは有名人でシャルルが知っていてもおかしくはないがまさか関わりがあるとは思わなかった。
「一応この子の保護者みたいなものだしね」
「保護者!」
「うん。リーシャはリアルでは僕の友人の子でね。リーシャの面倒をその友人に頼まれていたんだ」
「という事は、新人ながらに『デモンズシャフト』なんて武器を持っていたのは……」
「君たちが思っている通りだよ。リーシャは元僕のギルド【シャルルマーニュ】に所属しずっと新宿のダンジョンに潜っていた」
先ほどのリーシャが知っている人というのはシャルルの事だったようだ。
「『デモンズシャフト』の主として選ばれたのはいいけど、どうにも【シャルルマーニュ】のメンバーが高レベルすぎてプレイスキルの部分は全く磨かれていないままステータスだけが異様に高い状態になってしまって、僕たちじゃどうにも上手くリーシャを強くすることができなかったんだ」
リーシャが『デモンズシャフト』を扱いきれていない理由をシャルルは説明した。
「そういうわけで、私はプレイスキルを磨くため一人【シャルルマーニュ】を抜けダンジョンから地上に戻ってきたの」
「以来僕は、時々ダンジョンから上がって彼女の様子を陰ながら見ていたというわけさ」
「じゃあさっきの見ていたの……」
90度に首を動かしてリーシャはシャルルを見た。
「樽に隠れていた事かい。この目でしっかりと見ていたよ」
その瞬間リーシャの顔がトマトのように真っ赤になった。
「陰から見ていたなんて聞いてない」
「そりゃ言ってないからね。でも、良かったよ、ミナト君たちと仲間になれて」
シャルルはリーシャがこのまま仲間を作らず、ずっとソロプレイをしていくのではないかと不安視していたらしい。何分、この性格なので仲間を作るのが難しいと分かっていたが二日前リーシャがフレンド登録しているのを知って一安心したようだ。
「ミナト君、リーシャは経験値こそ高いが君と変わらない初心者だ。仲良くしてやってくれ」
「分かりました。そういうことなら任せてください」
「それじゃあ、三人のパーティ結成祝いとクエストのお詫びしに行こうか」
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