白銀の魔術師

それからミナトは彼女を抱えて巣を抜け出して、鳥車に運び入れた。

【バレッドバースト】銃に入った全ての弾丸をリリースする事よってその時プレイヤーが最も必要とすべき弾を生み出す。生み出された弾丸の威力はリリースされた弾丸の数が多い程、威力が上がる。

【ラストオーダー】リリースされた弾丸から生み出された特殊弾。リリースした弾丸の数により威力が大幅アップする。

「一発リリースしただけであの威力。これが俺の心意能力の力ってやつか」

 強い力だが、反動が大きい。全部の弾丸をリリースして撃ったら巣ごと崩壊して腕がもげていただろう。使い方には気をつけないといけない。

 ミナトが望んで得た力は諸刃の剣でまさに起死回生の可能性だった。今回はラストオーダーが適正だったけど時と場合にはおいては違う力の特殊弾が生みだされる場合もある。

 すると、ガタンゴトンと鳥車が揺れ彼女は目を覚ました。

「うぅ……ここは……」

「あっ、起きた。ここは鳥車の中」

「私はどうやら食べられずに済んだみたいね。お礼を言っておくわ」

「いいって、そんな大それたことしたわけじゃないし。それに君が叱ってくれなかったら立ち上がれなかった」

「ドM……」

 彼女はやばい人を見る目で身を引いた。

「違うから。君がいなかったらこの世界をただ怖い世界だと認識して二度と入ってなかったかもしれないって事」

「どうやら私は君をこの世界にとどめておく理由になったようね」

「ところで君の名前聞いていい? いつまでも君って呼ぶわけにはいけないし」

「リーシャよ」

「俺はミナト。ミナト・ナイトウェイブよろしく」

「よろしく、ミナト」

 こうしてみるとリーシャは儚げで今にも消えそうだ。とてもエントマの攻撃を防げるようには見えない可憐な少女だ。

「じゃ、また会いましょう」

 二人はお台場エリアの門をくぐるとそこでフレンド登録だけして別れた。

「終わったー……」

 緊張が一気に解け達成感がやっと現れた。開始早々とんでもない修羅場をくぐったと感じる。

「シャルルさんの連絡先は知らないから報酬はまた今度でいいか。オープン」

 ミナトはカバンを開きエントマからドロップしたアイテムを開いた。

 基本モンスターからドロップしたアイテムは宝箱となっていて倒したモンスター由来のアイテムがランダムで入っている。

 宝箱にもランクがあり銀、金、そして最もそのモンスターを倒すのに貢献した人には追加で赤の箱が渡される。

【エントマのアニマ】を獲得しました。

【エントマスホーン】を獲得しました。

 エントマの核となるアイテムとエントマの爪をモチーフにした槍を入手した。

「アニマか。これは素材になるアイテムだよな。そして、槍かぁ……ミクリヤに詫びとしてあげたいけど金が……」

 ミナトの所持金は今殆ど空っぽといっていい。シャルルさんからたんまりと報酬をもらうはずだったがその予定は予想外の出来事により白紙となっている。弾丸が無いとガンスリンガーは戦えない。

「背に腹は代えられない。売ろう」

 銃の弾を買ったリーザの店に行き、ミナトはエントマの槍をしぶしぶのリーザに槍を売りつけそのお金で戦えるだけの弾を買った。

「これだけあれば、明日も一人でクエストに行けるだろう。まずは経験をつけていこう」

 誰だって死ぬ。けれど、経験を付けていけば死のリスクも回避できる。リーシャから教わったことだ。

今日はもう遅い時間なのでまた明日スポットに行くとして、ミナトはQWからアウトした。

 アウトすると精密機器がなら部屋に戻っていた。

「裕翔、大丈夫か。強制的に戻ってきていないのを見ると上手く逃げられたようだな」

戻って来ると裕翔の横には育也がいた。裕翔が戻って来るまでずっと待っていたらしい。

 手を開き裕翔は戻って来た感触を確かめる。

違和感がなく先ほどまでゲームの世界にいたとは感じさせない。倦怠感もありあっちの世界で本当に自分の身体自体を動かしていたのが分かる。

「あ、うん。なんとか……ね」

「何とも煮え切らない返事だな。何かあったのか」

「えっと、何というか銀髪のソーサレスの女の子に助けられたというか」

「銀髪のソーサレスって『白銀の魔術師』か! お前彼女に助けてもらったのか」

「えっ、そんなに凄いの、リーシャって」

「凄いも何も、QW界で銀髪のソーサレスといったらまず彼女だ。しかし、あの子リーシャって言うのか……」

「『白銀の魔術師』ねぇ。そんな風には見えなかったけど」

 裕翔はそれからミクリヤが消えてからの出来事を事細かに話した。

「あのエントマクィーンしかもキングまで倒した上に『白銀の魔術師』とフレンドになりおまけに心意能力も得て帰って来ただと。お前、幸運値高すぎ」

 奇跡が起きたと言わんばかりに育也は裕翔の話に目を丸くしていた。

「『白銀の魔術師』といえば最近現れた新人の中じゃ最も名が高い。あの鋭い瞳から近づきがたいって有名だ」

 育也のイメージと直接リーシャと話した印象が違いすぎる。

「確かに戦闘中の言葉はキツイけど、別人じゃないよね」

「いいや、間違いなく『白銀の魔術師』だと思う。それにしても妙だな。『白銀の魔術師』ならエントマクィーン、キングが束になっても倒せるはずなのに……さっき話した事に嘘偽りはないんだよな」

「話した通りだよ。何か疑問でも」

「装備が違ったのか……それとも準備を怠っていたのか……」

「装備って……」

「彼女が持っている杖の事だよ。QWでは二つの最高ランクの魔杖があって魔導の深淵『アスクレピオズ』と彼女の持っている魔導の神髄『デモンズシャフト』があるんだ。この二つの魔杖はどれもユニークアイテムで心意能力と同等の力を持つ唯一無二の武器なんだ」

「その一つをリーシャが持っているって事でいいんだよね」

「ああ、その魔杖を持っていたから彼女の周りでは仲間に誘おうといろんな連中がひっきりなしに誘いの言葉をかけていた。けれど、彼女はソロで活動している」

「なんか俺、今、期待以上の評価をされたんじゃという気分になっているんだけど、俺なんかが彼女のフレンドになって周りから殺されたりはしないよね」

 育也の話を聞いて裕翔は不安になる。

「大丈夫だろ。しばらくは恨まれるかもしれないけど。向こうからフレンドになってくれたんだからお前にはそれだけの可能性があったって事だよ。俺と違ってな」

「それでも恨まれるのには変わりないのね。なんか今日は一段と疲れた」

 初日から波乱の幕開けで裕翔のQWデビューは終わったのだった。


「もふもふ~」

 モモシュシュが【モモシュシュの部屋】でもふもふを堪能していると扉が開いた。

「たたいま」

「あっ、おかえり。リシャリシャリ」

 扉から現れたのは『白銀の魔術師』ことリーシャだった。

「その呼び方やめて」

「えーいいじゃん、氷菓みたいで」

「それが嫌だって言っているんでしょ。私は食べ物じゃない」

「まぁ、今に始まった事じゃないからいいじゃん。もふもふ~。で、どうだった、彼は」

 人をダメにするもふもふを抱きながらモモシュシュは寝起きのように目を細めてリーシャに目を向けた。

「悪く……ない」

 頬を少しだけリーシャは赤くしていた。

「へぇ、そう~」

 そんなリーシャをモモシュシュはからかいのネタを見つけた子供の目で見つめていた。

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