バレットバースト

「こいつらつがいだったのかよ……」

 恐怖を振り払ったと思ったのに更なる恐怖と絶望がミナトを襲った。

「だいじょうぶ……無傷のようね。よかった……くっ、思ったよりも痛いわね……」

 声を絞り出して彼女はミナトの安否を確認した。

「俺の心配よりも、自分の心配をしてください」

 爪が引き抜かれるとミナトは倒れる彼女を抱えた。

「もしかして、痛覚ONにしているんですか」

「痛覚……そんなのあって当然じゃない私はこの世界で生きているんだから」

 ミナトと同じ理由で彼女も痛覚をONにしていた。

「戦いなさい、そして勝つのよ……」

 彼女は気を失った。こんなところまでリアルに作られているのか。

 けれど、ユニット体が消滅せず残っているという事は、彼女はまだ生きている。

「「Gyaaaaaaaaaa」」

 左右から、強者による嘲笑が響く。

 ミナトはそっと彼女を地面に置くと、回復アイテムを彼女へと散布した。

「気休め程度だけどこれで生きられるはず。後は…こいつらを倒す」

今ミナトは絶望の淵にいる。けれど、何もせずに殺される道理はない。生き抜くんだ。

銃を持ちミナトは彼女から出来るだけ遠くに走った。

「こっちだ。蜘蛛野郎!【フルメタルダスト】」

 ホワイトホークで跳弾の弾を撃ちエントマの硬い殻の防御力を下げていく。

 エントマのつがいはミナトに振り向き連続で爪の槍を刺していく。

 クィーンの攻撃をガンスリンガー攻撃で回避がキングの攻撃は回避が間に合わず当たった。が、身代わり人形を消費し死ぬのを免れる。

 長年ゲームで培ってきたミナトの感覚が研ぎ澄まされる。確実に相手はミナトを殺したと思い数秒のラグが起きる。そこに隙が出来る。

その隙を見逃さない。ホワイトホークの跳弾で何回も当てた事により防御力は格段に下がっている。

 攻撃力か累積しているレッドカドラスに弾丸をセット。これを撃てばエントマの堅い皮膚を貫ける。

「これで終わりだ【フルメタルダスト】」

 攻撃力の上がった弾丸が二体のエントマに向かって流星の如く跳弾を繰り返し殻にめり込む。

今あるミナトの全てを注ぎ込んだ。しかし、その全力は届かない。跳弾が振り払われ壁にめり込み粉々になった。二体のエントマは何事もなかったかのように無傷だった。エントマからしてみればミナトの攻撃など蚊が止まった程度だったのだろう。

「どうして。防御力は確実に下がっているのに何で無傷なんだよ」

 ゲームシステムがバグっているのではないかと思うほどにミナトは理不尽に吠える。

「経験の差なのか……」

 弾は残り一発。今できる最大出力の攻撃でも倒させなかった。

「……詰んだ」

 そう絶望にひれ伏した時横薙ぎの攻撃が来た。ミナトは避ける様子もなく振られた硬い爪に当たり吹き飛ばされた。

 全身骨折でもしたかのような激痛がミナトの身体に伝わった。

 もはや立ち上がる力すら残っていない。通常のゲームならHP残り1といったところだろうか。

 ミナトが顔をあげエントマを見ると、エントマが矛先を変えていた。

 その巨体をぐるりとひねり、気絶している彼女の方を視界にとらえていた。

「おめぇら、どこ見てる……」

 瀕死のしぶといミナトよりも動けない彼女の方を標的と定めた。

 弱い方から先に潰すというわけではないがモンスターの生きていた経験が先に彼女をやっておかなければいけないと感覚的に判断している。

ミナトを無視してエントマは彼女を攻撃する。

「やめろぉぉぉぉ! もう二度と誰かが食べられる様なんて見たくねぇぇぇぇ!」

 エントマの巨大な二つの爪が彼女を撥ね飛ばすと、彼女の身体が風船のように浮き上がった。

 ミナトは落下する彼女の身体を飛び込んで受け止めた。

 確認すると身体はボロボロだがユニットはまだ壊れていない。気休め程度に使った回復アイテムが守ってくれたみたいだ。ユニットが壊れた方が彼女にとってはマシだったかもしれない。

「「Gyaaaaaaaaaa」」

 眼前のエントマはしぶとい獲物だったと吠えながら遂に仕留めたと喜びに震えていた。

ミナトと彼女が生存する見込みはゼロだ。気絶している彼女をミナトは見る。

 重み、息づかい、体温、ミナトに見せた感情、全て現実のそれと変わらない。

 リアルな命としてミナトも彼女もここにいる。そして現実の死と同様にその命が奪われようとしている。

「情けねえ、ミクリヤに守られ、彼女に守られ、そして俺は守る事が出来ない。けれど諦めきれねえ」

 この世界はゲームだ。死んでも仕方ない。だけど、この世界がゲームと分かっていても女の子を守れないのは恥ずかしくて死んでも死にきれねえ。

「この世界が思いの力で何とでもなる世界というなら俺にこの状況を打開する力を寄越せ」

 今まさにトドメを刺さんと爪を振るうエントマの前でミナトは願う。

「俺にその可能性があるのならそれを寄越せ」

 心から願う。

「彼女を守る力を寄越せぇぇぇぇッ!」

 その時、銃が光りエントマの攻撃が阻まれた。

そして新たな表示枠が出現する。心意能力【バレットバースト】銃にセットさせた全ての弾丸をリリースする。

「心意能力これが……全てリリース? そんなことしたらもう……」

 ミナト達を殺すはずだったエントマは突然現れた光りによって巨体をのけぞらせている。

 弾丸は残り一発しかない。全てリリースしてしまえばミナトにもう攻撃手段はない。しかし、ミナトはこれを奇跡だと思い、光りが消える前に叫ぶ。

「迷っている場合じゃない。これが思いの力ってならあの化物を倒しやがれ【バレッドバースト】」

 銃口に入った弾丸がリリースされる。すると、ミナトの前に赤いオーラを帯びた一発の弾丸が現れた。

 ミナトは考えるよりも先に手が動く。現れた弾丸をレッドカドラスにセットし二体のエントマに銃を向けた。

 エントマはミナトに憤慨してさらに速度を上げた突きを放つ。

 目で追う事も避けることもできない。けれど、銃の引き金を引くことはできる。

 エントマの爪が触れる寸前にミナトは銃の引き金を引いた。

「【バレッドバースト・ラストオーダー】」

 銃弾が放たれた直後ものすごい衝撃がミナトにかかる。それほどに銃の威力が凄まじかった。

 エントマのつがいは自分達よりも更に大きいモンスターに叩きつぶされたかのように、頭部から木っ端微塵に消滅していた。

「あは、あははっ」

 頭がおかしくなったのか。今日起きた出来事で一番の驚きを受けミナトは笑ってしまう。

 エントマのつがいは光りに包まれ消失し、ドロップアイテムだけを残していき『クエストクリア』と表示された。

「勝った……のか。やったあぁ……生き残れた」

 喜びよりも生き残った事による疲れを感じミナトは呆然として地面にへばり着いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る