初クエスト
この世界での移動手段はゲートの他に鳥車となっている。ゲートで行くのは簡単だがそれでは味気ないので鳥車で行くことになった。
「ポーションは持ったよな」
「ああ、回復アイテムは重要だからな」
QWにはHPは存在しない。ではなぜ回復アイテムがあるのかと初心者プレイヤーは思うだろう。QWでのポーションの役割は体力を回復することではないからだ。現実と同じで傷を癒すためにある。
ダメージを負った部分を放置しておくと傷の裂傷が激しくなり現実と同じに身体(ユニット体)が活動限界となりゲームからアウトされる。
ただし手足を切断された場合は治せないので注意が必要だ。
「ポーションは消費アイテムだから買えるだけ買っておいた方がいいぞ。あと、これをお前にやる」
ミクリヤがカバンから人形を取り出してミナトに渡した。
「これ、人形だよな」
「身代わりの人形だ。そいつを持っていると、即死級の攻撃を代わりに担ってくれるアイテムだ。俺は必要ないからお前がもっておけ」
「助かる。そう言えばこの世界のデスペナルティって何?」
「ユニットが回復するまでこの世界に入れない」
「えっ、何だって」
「この世界で死ぬとユニット体が再生するまで入れない。ダメージにもよるが死んだら丸二日入れなくなるな。ユニット体が再構築されたらデバイスが教えてくれる」
「正気か。ゲームでありながらゲームをさせないって」
「この世界の恐ろしいところは例えプレイヤーが死んでも〈QuantumWorld〉は進んでいる事だ。例えばいま受けているクエストを三日放置すれば三日も世界は進む、その間に誰かがエントマを蹴散らしたら自然とクエストは消える。もしも世界が滅ぶようなクエストがあったとしてそれを放置してしまえばダイバー王国もそのほかの国も消えてしまうだろうな。まぁ、そうなる前に誰かが食い止めるとは思うけど」
ゲームであると同時にこの世界は存在して現実なのだ。もしもそんな事態になってしまえばゲームは終わるのだろうか……。誰も太刀打ちできないそんなクエストが。
「どうした怖気づいたか」
「いや、それでこそこの世界で生きていると胸を張って言える」
「あまりこの世界にのめり込むなよ。あくまでもゲームなんだからな」
「分かっている。それよりも、ミクリヤの心意能力って何? 初期組のお前なら持っているんだろ」
「…………ない」
ミクリヤは、重苦しく答えた。
「マジで!」
サービス開始と同時にはじめたミクリヤが持っていないとなると、心意能力は相当レアな力という事になる。モモシュシュさんが言っていたことはあながち間違いではないようだ。
「QWをずっとやっているが未だに掴みかけていないんだ、悪いな」
「別に謝ることじゃないだろ。それほど難しいってことなんだから」
なんでも起用にこなすことのできるミクリヤだ。当然ミナトは持っているものだと思っていた。心意能力は思いの強さ、器用さでは得ることは出来ないようだ。
「バカにしないだけお前は優しいよな。そういうところがお前のいいとこだ」
「ミクリヤ……」
「さてと、森についたみたいだぜ」
鳥車を降り、森に入るとあちこちにクモのモンスターが群がっていた。
「うわっ、気持悪。これ全部ってシャルルさん面倒くさくてやらなかったな」
「クモの巣って言えばいいのかな、これは……」
あまりの数に二人は絶句する。まるで卵からカマキリの赤ちゃんが生まれてくるように溢れかえっている。
「これだけいればいくら高ランカーでも手を焼くな。森に火をつけるわけにもいかない。地道に倒していくぞ。それにしても二人だけでいけるか……」
地形を変化させるのは簡単だ。しかし、そうしてしまうとモンスターの生態系を崩してしまい後々何が起こるか分からない。なので、できる限りQWのフィールドを破壊しないようにと運営は推奨している。
「なあ、ミクリヤどっちが多く倒すか競争しないか」
「お前の腕試しに来たんだが二人でやらないと日が暮れそうだ」
「じゃあお先に」
銃を取り出しミナトは駆けた。
「死ぬなよ」
「リロード」
弾を込める作業はガンスリンガーの初期スキルによってオートとなっている。
狙いを定めて、
「撃つ」
硝煙を放ち、銃を撃った時の反動がしっかりとミナトの手にやってくる。
放たれた弾丸はエントマの鋭い爪に命中した。
「やった」
などと浮かれているとたくさんのエントマがミナトを睨んで一斉に向かってきた。
好戦的になり敵意を向けられた。攻撃してきたことによってミナトを敵と捕らえたようだ。
猫くらいの小さな体がミナトを狙う。エントマが爪を槍のようにして突き刺していく。
「やっば」
迫りくる爪の槍を一体、一体見逃さず、ミナト避けていく。ガンスリンガーは防御が薄い分回避能力が高い。
エントマの攻撃を容易く回避するとすかさずミナトは銃を構え撃つ。
今度はエントマの爪ではなく核のある中心をターゲットにして撃ちクリティカルヒットを狙った。
弾丸はエントマに当たる。するとエントマの肉体は破裂するようにはじけ飛んだ。
一発目を撃った時よりも威力が増している。どうやらレッドカドラスは弾を撃つ度に攻撃力が累積上昇するようだ。一撃で倒せるのもこのおかげだろう。
ホワイトホークから放たれる弾丸を当ててみると防御と弱点属性累積のデバフが発動した。ホワイトホークは弾丸を当てるたびに相手の防御力を下げる効果があるみたいだ。
「なるほど、ガンスリンガーいい職だ」
しばらくすると【性能レベル上昇、フルメタルジャケットLv2】となった。銃から放たれる弾丸の性能レベルが上がった。
ガンスリンガーの能力は持っている弾丸にも何かしらの効果を発揮するようだ。
「これだけ初期で職の能力があると色々できそうだな。ガンスリンガーを選んだのは当たりだ」
リロードしミナトは性能レベルが上がった弾丸を放つ。
放たれた弾丸はエントマに当たると跳弾し他のエントマに当たる。更に跳弾、跳弾を繰り返し弾丸が消滅するまでエントマを攻撃した。
【フルメタルダスト】弾丸の雨がミナトのあたり一帯のエントマを蹴散らした。
「この技は雑魚相手に使えるな」
すると、ガンスリンガーの回避のスキルでミナトは上から気配を感じ取った。上を見ると数匹のエントマがミナトに向かって爪を立て氷柱の如く落下していた。
「しまった。木の上にいるのを見逃していた。リロード……している時間はない」
スキルによって気づくことが出来たがミナトの判断が遅れる。回避いや間に合わない。
ダメージを負う覚悟決めようとするミナト、すると横からエントマめがけて槍が突き刺さる。数匹のエントマは杭を打たれたように木に貼り付けにされた。
「油断するなよ。この数だ一撃貰えば周りから一気にエントマがやってきて一斉攻撃で串刺しにされる」
「分かっている。ダメージを負ったらどうなるか試してみたかったんだよ」
などとミナトは言い訳してみせた。
「強がりが。さっさと片付けるぞ、しばらくお前を見ていたが腕試しはもういいよな」
「ああ、もう十分だ。さっさとこのクモのモンスターを一掃してお金をもらおう」
「なら、俺も本気で行かせてもらう」
槍を前に構えミクリヤは技を発動させる。【ドラグタルシー】
槍と共に放たれたミクリヤの素早さがみるみる上昇していき、流星となりエントマを突き刺していった。
「スゲーあれだけいたエントマが一瞬で」
「よそ見していていいのか、今の技で俺の方がお前よりもエントマを倒した」
「負けず嫌いが、分かっているよ。今度は油断しない」
後ろからやってくるエントマの攻撃をミナトはノールックで撃つと、再び群がっているエントマめがけて銃の雨を降らせる【フルメタルダスト】
「はぁ、終わったー。これは報酬をたんまり貰わないと割に合わない。あれだけ買った弾も残り3発しかないし」
二人はエントマを一匹残らず蹴散らした。【フルメタルダスト】で消費を抑えられたと思ったがあれだけあった弾丸がもう残り僅かとなって心もとなくなっていた。
「シャルルさんに報告したら、報酬を上乗せできないか交渉してみるか。これで後は帰るだけだな、ミクリヤ……」
浮かれているミナトに対してミクリヤは神妙な顔をしていた。
「おかしい。このクエストはエントマの討伐だ。なのに、クエストクリアの表示が出ない」
「確かに、クエストクリアの表示が出てないな。バグかなんかか」
「それはないな。QWではクリア表示が出ないのはまだ終わっていないという証拠なんだ」
ミクリヤはバグの存在を否定した。
「じゃあ倒し残しがいる」
ミナトは出来る範囲で周り視認した。しかし、エントマの影は見当たらない。それに来た時よりも森は静かだ。
心当たりがあるのかミクリヤは考えうる理由を口にした。
「ここ最近起きている事態なんだが。モンスターの凶暴化のバグが多発しているんだ。その影響がエントマ大量発生にあったなら……」
ミクリヤの視線が地面に向かった。
すると、大地が揺大きな方向が上がった。
「これは、地震!」
咄嗟の事態で脳が揺れミナトの反応が遅れる。
「さがれ、ミナト!」
ミクリヤが何かに気付き叫ぶが一足遅かった。
二人が立っている半径5メートル地面が割れ砕け、二人はそのまま咆哮鳴りやまぬ地面の底へ一直線に落ちていった。
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