ダイバー王国③
フルメタルジャケット弾に全額使い一文無しとなったミナトは店を出た。
「本当にフルメタルジャケット弾だけでよかったのか。特殊弾や属性弾とかあった方が便利だぞ」
「初心者が5000リルしか貰えないの知っているだろ」
ミクリヤはミナトが値段を聞いて冷や汗を垂らしているのを横でクスクスと笑っていたのだ。
ガンスリンガーは弾が無いと何もできない。その弾を買うのにもお金が必要だ。特殊弾や属性弾とか買ってしまっては破産してしまう。今は通常弾だけで我慢する。
「はやくお金をたんまり稼げるようにならないといけないな」
「銃系ジョブは最初これだから大変だよな。俺は槍だからそんな心配なかったけど、とりあえずお前でも簡単に倒せてお金がたんまりもらえるクエストを探すぞ」
準備は整えた後はクエストに行って腕試しだ。
「助かる。それよりもリーザもプレイヤーだよな。NPCにしてはキャラが偏っているし」
QWのNPCは人間と同じ思考回路で動いているらしいがリーザはNPCかプレイヤーかと言われれば絶対後者だ。
「職業系の職だ。錬成やら鍛冶やらとそういうのに特化したスキルを持っている。俺の槍もリーザに手入れしてもらっているから腕は安心だ。銃以外はみたくないと言っているが」
二人はクエストボードへ向かっていた。
クエストは街の中心にあるクエストボードに基本は貼られている。その他に偶発クエストがある。
この世界はリアルなので、クエストの為に事件があるのではなく起きた事件の為にクエストが存在する。狙って出せるような代物ではない。かといって狙ってない事をする羽目になるのもまた然り。この人間味溢れたリアルさがQWの売りだ。
「不用意に厄介ごとに巻き込まれるなよ。今のお前じゃあどんな手を使っても即死クエストが待っているんだからな」
「間違ってもやばそうなNPCやプレイヤーにはぶつかったりはしないよ」
すると二人がクエストボードに向かう道中だった。
キラッと空から何かが光る。
「あれは……俺と同じ新しいプレイヤーか」
「それはないだろう。【クォンタムジャーナル】には今日の新規プレイヤーはお前だけだと情報だった」
【クォンタムジャーナル】とはQWでの情報屋専門のギルドだ。QWと現実を行き来しながら情報を集め売る。
現実世界でも情報を集めているのでどこに【クォンタムジャーナル】の記者が潜んでいるか分からない。ミナトが今日QWに来ることも【クォンタムジャーナル】によって情報漏洩していたようだ。なので、ミナトを狙った窃盗目的のプレイヤーが初期地でスタンバっていたのが事の流れだ。
「となるとあれは……」
ミナトは目を細めてそれを見る。最初はミナトと同じプレイヤーが空から落ちているのだと思ったが違う。
風を薙ぎ体長5メートルはあろうかという獣が空を滑空しているのだ。
獣は真っすぐ二人の方に向かって来ていた。
「まさか、モンスターの暴走。それにしてもこれまずくない。俺たちの方に向かってきているけど……」
「ああまずいな……とりあえず逃げるぞ、ミナト!」
冷静な声と共にミクリヤはミナトを置いて横に跳んで獣から身を隠した。
「えっ、ミクリヤちょっと」
ミナトは慌てふためいて道の真ん中にポツリと立つ。
その間も獣はミナトに向かって来ている。このままじゃ確実に正面衝突する。どうにかしないと、と思ったが獣のスピードは速くあっという間にミナトとの距離を縮めていた。
「やばい今度こそ死ぬ……あれっ……」
と思って目を閉じるが一向に痛みが来ないので目を開けると獣はミナトとの間ギリギリのところで止まった。
「ごめんね。この子仲間の借り物で僕にはなついていなくて操作があまりきかないんだ」
ミナトの目の前には鷲の翼と獅子の下半身を持つ獣が人を乗せていた。
この獣の名をミナトは知っている。
「グリフォン、本物。ファンタジー世界でお馴染みの獣をも使役できるのか」
驚きと歓喜の声をあげてミナトはグリフォンを見ていた。
「シャルルさん上がってきていたんですか」
ミクリヤがグリフォンにまたがっていた人を見て近寄ってきた。
「やあミクリヤ久しぶりだね。ちょうど君を見かけて下りてきたんだ。調子はどう」
「まぁ、ぼちぼちです」
「ミクリヤこの人知ってんの」
「バカ、この人は〈QuantumWorld〉二大未到達ダンジョンの一つ新宿の最高到達者で、この世界にある全てのダンジョンを最初にクリアしたギルド【シャルルマーニュ】の団長であるシャルルその人だ」
「この人があのシャルルさん」
見た目は騎士の格好をした好青年だがシャルル、この名をQWで知らない人はいない。今現在、世界中の全てのダンジョンを最初にクリアしたダンジョンマスター。今は、新宿の未到達ダンジョン最高到達者でQWプレイヤーの憧れの存在である。
ミクリヤはシャルルと顔見知りのようだ。
「驚かせてすまなかったね。君、初心者」
「あっ、はい」
「こいつリアルの友達でさっきはじめたばかりなんですよ。そして、これからこいつの腕試しもかねて簡単なクエストに行こうとしていたところなんです。シャルルさんはどうして上がって来たんですか」
「僕はちょっとした用事でね。それにしてもクエストか……」
シャルルはミナトを見る。
「見た目からしてガンスリンガーのようだね。それならちょうどいいクエストがあるよ」
「本当ですか、助かります」
「うん、僕からの依頼だから偶発クエストになるけど、初心者でも安心して」
様子から察するにミナトはシャルルからの依頼を受けるつもりのようだ。
「それでそのクエストの内容は何ですか」
ミクリヤはシャルルにクエストの内容を尋ねた。
「エントマの討伐駆除。僕が潜っている新宿のダンジョンの近くに小さな森があるだろ、その森でエントマが大量に発生していたんだ。その討伐を頼みたい」
エントマとはクモの見た目をした昆虫型のモンスターだ。初心者でも倒しやすい比較的弱いモンスターだ。
ミナトの腕試しにはちょうどいいモンスターといえる。
「なるほど、エントマの討伐、ミナトには最適ですね。でもいいんですか、シャルルさんならエントマなんて簡単に倒せるのに」
しかし、ミクリヤはシャルルが大量発生している低級モンスターを放置していることに疑問だった。
「僕はそんなに困っているわけではないし、僕じゃなくてもこの問題は解決できるとおもったのさ。それに、ミナト君だっけ、君がこの世界を知るのにはいいクエストになる」
すると『クエスト エントマの討伐 難易度:2』とギアスロールが現れた。
クエストを受けるとギアスロールがそのクエストの受理を確認する仕組みになっている。
「報酬ははずむよ」
「なら、お金が無いのでお金をたんまりとください」
ミナトはすかさず答えた。
「こら、シャルルさんになんてこと言うんだ。失礼だろうが」
「今、俺はお金が必要なんだよ」
仮にもダンジョンマスターであるシャルルにお金をせがむなんて失礼極まりないと思うがそれでもミナトはお金が必要なのだ。
なにせ、ミナトの所持金は0。何をするにもお金がないと始まらないのだ。
「あはは、いいよ、お金だね。前金を少しだけだけど払っておくよ」
ミナトはシャルルから前金を受け取った。
「すみませんシャルルさん、ミナトのやつが不躾で」
「ミクリヤが謝る事じゃないよ。それじゃあ、まだ見ぬ冒険へ出発だ」
「行こうぜミクリヤ」
ミナトはクエストの目的地へ行くため駆け出した。
「さてと、彼女はどうするのかな。星ヨ、廻リテ、世界ヲ写シダゼ」
ミナトたちを見送るとシャルルは呪文を唱えた。星と世界が一体となりシャルルに未来のビジョンを投影させる。
シャルルは口元を上げほほ笑む。
「なるほど、そうくるか。面白いね。それにしてもこれは……気が重いなぁ、ダンジョンへ潜って逃げたくなるよ」
気の重い声でシャルルはグリフォンと共に最近モンスターの凶暴化についての対策会議に向かうのだった。
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