ダイバー王国②

「とりあえず街を案内するからついて来い。それが終ったら適当なクエストで腕試しだ」

「助かる。それと銃の弾を売っている場所を教えてくれ。弾がないと俺は何もできない」

「分かった。俺がいつも行っている武具屋に銃の弾丸もあるからそこへ行こう」

 ミナトはお台場エリアをミクリヤに案内してもらった。

 お台場エリアは城壁に囲まれた街で、合計八つの橋から行き来するらしい。それ以外は船で海を渡る以外侵入は出来ないという事だ。

 またその街の地形を利用した攻防戦クエストがあるらしい。そのクエストの次の開催は決まってないそうだ。

 エリア自体をクエストの場にするので色々と運営の準備に手間がかかるらしい。

 開催日が決まってもまだ力をつけていないミナトじゃ歯が立たないからやめとけとミクリヤに忠告された。

「本当にすごいな、この世界。街もNPCもまるで生きているかのようにリアルだ」

 フルダイブのVRMMOは脳の認識でプレイするがQWは実際にこの世界に来ているのでもうゲームらしさがない。異世界に召喚された気分だ。

「そんなに驚いているとこれから先驚き疲れるぞ」

「驚くと言えば、最初のログイン画面には驚かされた。別のゲームにやってきたと思ったからな」

「ああ、モモシュシュさんか。あの人は特別だからな」

「やっぱり、あの心意能力は凄いのか。あの空間の中ではモモシュシュさんを傷つけることは出来ないけど戦闘向きではない気が……」

「何を言う、あれは立派な攻撃系の心意能力だ。ミナトも見ただろあの世界に漂うもふもふの生物を」

 モモシュシュさんの周りをうろついていたかわいい生物を思い出しミナトは頷く。

「あの生物はモモシュシュさんの許可なしに入ってきたものを殲滅する怪物だ。今まで何人ものプレイヤーがモモシュシュさんの怒りにふれ一歩的に屠られた。人呼んで『自由空間の魔女フリーダムウィッチ』とここでは呼ぶ人もいる」

「そんなに!」

 ミナトは驚く。あんなかわいらしい生物のどこにそんな力があるのか想像つかない。

「モモシュシュさんの怒りには触れないようにしておこう」

「そうだな。特にリアルでは……」

 ミクリヤもモモシュシュさんのリアルを知っているみたいだ。まるで一部始終を知っているかのように意味深な事をつぶやいた。

「ほら着いたぞ、ここが俺の通っている武具屋だ」

 話しながら商業エリアを歩いているとどうやら目的の場所についたらしい。

 ボロボロの建物に『リーザの工房』とみすぼらしい看板が立ててある。

「ここ大丈夫か。建物も看板もボロボロだけど」

「安心しな。店主は変わっているが、武器は立派なのが揃っている。それにお前の方がうってつけだ」

 ミクリヤは扉を開け中へ入っていった。ミナトも恐る恐る中へ入る。

 中に入ると売り物の銃が飾ってあった。狭いがちゃんと掃除もしてあり外観ほどイメージは悪くないが……。

 ミナトは店全体を見回して思った。

 銃、銃、銃。剣や槍、盾もあるが圧倒的に銃の数が多かった。そもそも、剣や槍はざっくばらんに置いてあり、まるで銃のおまけとなっている。

「この店武器に偏りが……」

 そんなことは無視してミクリヤは店主を呼ぶ。

「リーザいるか」

 奥からカンカンと鉄を叩く音が消えると店主が姿を現す。

「その声はミクリヤ、やっと銃メインのジョブに変更する気になったか。いつものように槍の注文ならしてやらないぞ」

 チューブトップにつなぎといった格好で髪をポーニーテールに結んだ女の子が煤で汚れた顔を豪快に拭きながらやってきた。

「悪いが槍以外俺は使う気はない。今日は俺じゃなくこいつが客だ」

 ミクリヤが横にいるミナトを指すとリーザはミナトを見て急に態度を変えた。

「ガンスリンガーじゃないか。きみ新人かい。銃みせてもらってもいい」

 魚が餌に群がる食いつきでミナトをリーザは歓迎した。

「ミクリヤこの人まさか」

「ああ、生粋のガンマニアだよ」

 店の内装といいこの食いつきようまさにガンマニアとしか言えなかった。

「私の名前はリーザ・へファイス。銃をメインにここで武具屋をやっている」

「ミナト・ナイトウエイブです。それよりも銃専門なのに他の武具も売っているんですね」

「銃以外も売らないとウチは結構厳しいから、銃以外はあんまり作りたくないし見たくもないんだけど。それよりも銃みせてよ」

 わりかし、現実的な理由だった。店の外観はきっとそういう事なんだろう。

 ミナトはリーザに銃をみせる。

「おお、いいね。初期にしては中々の業物だ。ところで分解してもいい」

「それはちょっと……」

 ミナトは困った顔をした。この後クエストに行く予定なので今から分解されるのは正直言ってごめんだ。

「ええ、いいじゃん。私が分解するからには分解する前よりもかなり性能上るよ、保障する」

「悪いが分解はまた次の機会にしてくれ。それよりも今日は銃の弾を見繕いに来たんだ」

 困っているミナトを助けるようにミクリヤが話に入った。

「ちぇー、それじゃあ仕方ない。分解はまた今度にするか。銃のメンテもやっているからちょくちょく来てくれ。この世界じゃ銃の劣化もリアルと同じだ。メンテしないとすぐ使い物にならなくなる」

 この世界では武器のレベルもない代わりにリアルと同じで劣化するみたいだ。ちゃんと毎日手入れしないとすぐに壊れてしまう。

「銃の弾だったな。待っていて、その銃に合った弾丸を持ってくるから」

 店の奥にリーザが引っ込むと数分で戻ってきて、カウンターにどさっと弾丸が置かれた。

「はいこれが、その銃に合った弾丸一式だ。通常のフルメタルジャケット弾とあと属性弾と

特殊弾合わせて1万リルだ」

「一万リル!」

 値段が高すぎる。今、ミナトの所持金は5000リルしかない。圧倒的にお金が足りない。

「ぼったくりじゃないよ。安心と信頼性のある一級品の弾丸だ。銃メインのジョブは弾丸にお金を吸い取られるからお金の確保は十分にしておかないと。それが嫌なら素材を集めて自分で錬金するんだな」

お金の確保が十分に必要なジョブだとミナトは確信した。しかし、弾丸がないと戦えない。ミクリヤに貸してとは言えないし……。

「とりあえず。5000リルでフルメタルジャケット弾だけでもいただけますか」

「まいどあり」

 ミナトは有り金全部をここで失った。


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