心意能力【モモシュシュの部屋】

レベルとかはどうなっているんですか」

「それよく聞かれるけど、このゲームにはレベルなんて存在しません」

「レベルが存在しない!」

 ミナトは驚く。モンスターを倒してダンジョンを進めていくゲームだと当たり前のようにレベルが存在するがQWはどうやら異性モノの物語のような設定みたいだ。

「そう、レベルが無いの。それを聞いてみんな驚くんだよね」

「じゃあスキルとか能力はどうやって強く」

「思いの力だよ~。スキルは自分の願いやその時の感情全てを反映して生まれる。変わったり、消えたり、強化されたり、ようは漫画とかでよくある思いの力で何とでもなる世界って事。それをこの世界では心意能力(スピリットアビリティ)とよばれ、それを行使する力の事を心意攻撃(スピリットフォース)って呼んでる」

「どこまでもこの世界は自由を追求し果てが見えないということですね。それにしても心意能力、か……」

 自分が心意能力を発揮するのを想像してミナトは鼓動を高鳴らせてワクワクしていた。

「うん、ちなみに私のこの空間も思いの力で生み出された心意能力だよ」

「マジで……あっ、すみません。それよりもプレイヤーだったんですか」

 今日一の驚きで、ミナトはついため口になってしまった。

「いろいろあってね、ここら辺一帯はナビゲートを任されているの~。私だけのオリジナル【モモシュシュの部屋(モモワンダールーム)】私の許可なくこの部屋には入れないしこの部屋では誰も危害を与えることはできない。例外はいるけど」

 例外というのは運営の事だろう。それにしても、とてつもない心意能力だ。部屋にいる間は誰も危害を与えられないという事はこの部屋ではモモシュシュは無敵という事になる。

 攻撃特化の能力ではないが最強と言える能力だ。

 参考までにミナトと心意能力の発動を聞いてみることにした。

「ちなみにどんな願いを込めたらこんな凄い能力を手に入れられたのですか」

「それ聞いちゃうの」

 興味あるのとでも言いたそうにモモシュシュはにやけながら顔を前に出した。

 話が長くなりそうだとミナトは一瞬で感じ取った。

「いえ、言いたくないのなら別にいいんです。ただ、思いの力の参考になれば、と」

「いいよ、別に。そんな大した理由もないし、それよりもこの部屋に興味を持ってくれてうれしいな~。ウエ~ブにはいつでもお茶とお菓子をあげる~」

 能力に興味を持ってくれたのがうれしかったのかモモシュシュは饒舌になる。みんな最初の印象が同じだったとうかがえた。

「じゃあ遠慮なく。それと、名前を巻き舌で言うのは、やめてください」

 心意能力の発動に少しでも役に立つなら、とミナトはモモシュシュの力の行使について遠慮なく聞くことにした。

「名前は別にいい~私はただもふもふの世界で誰にも邪魔されず一生過ごしたかっただけだよ~」

あーなるほど、思っていた通りの答えだった。まるで参考にはならない。

「思いの力って案外単純なんですね」

「単純じゃないよ。本当に心の底から思わないとスキルは生み出せないから。長年プレイしていてもスキルを生み出せないプレイヤーはいるし~、この世界で君の本気を見せてね」

 単純だと思っていたがそんなことはないらしい、とりあえずそこはゲームをプレイして確かめるしかない。

「分かりました。俺だけのオリジナルを手に入れてみせます」

 まずは心意能力を得るところを目標に頑張ろうとミナトは誓った。

「これで説明は終わりだよね。多分……他に聞く事あった?」

「俺に聞かれても分かりませんよ。でも、大丈夫です。後は、この世界を体験して知識を得ます」

「じゃあ出発だ~」

 部屋の奥にメルヘンチックな出口と書かれた扉が現れた。

 ミナトは扉に近づきドアノブに手をかけるとモモシュシュに振りかえる。

「いろいろとありがとうございました。茜さん」

「気づいていたんだ~。でも、リアルの話は禁止~。君を〈QuantumWorld〉は歓迎するよ~」

 最後までモモシュシュこと茜はゲーム内の設定をつらぬく。こんな願いを持ち合わせていたとは先ほどまでの現実とのギャップが凄い。ミナトは先を見ずに扉を開く。

 そして、踵を返して一歩踏み込んだ。

「行ってきます」

 と言って足を踏み込むと地面の感触はなかった。そのままミナトはバランスを崩し、男の子が発するには女々しい叫び声をあげ落ちていった。

「ひゃあああああっ」

「バイバーイ~。今日は新規の人が来る気配も無いしここでゆっくりできる~」

 可愛らしい声が聞える中扉がそっと閉じ、モモシュシュは眠りについた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る