ガンスリンガー

次は~ええっと……好きな職(ジョブ)を選んで」

 すると膨大な数の職業欄が辞書を開いた時のようにミナトの画面いっぱいに現れる。

「うわっ、多い」

 あまりにも多すぎて引くレベルだ。これじゃ、探すのも一苦労だ。

「それは君の可能性。その数だけ君には力があるんだよ」

 画面を横スライドさせていくが終わりが見えない。鈍器の厚みのある本を読んでいる気分だ。

なるほど、オリジナルのスキルにジョブを提供するだけはある。

「ゆっくり悩んでね。私はその間、もふもふしているから。ちなみにログインとログアウトを繰り返して一年かかった子もいるよ」

 すでにモフモフを楽しみながらモモシュシュは言う。

 凄く悩む人もいるものだ。まぁ、これだけの選択肢があるなら無理もないが。どのジョブもやれることが無限大にありそうだからな。

 だけど、裕翔はゲームをする前から大まかなイメージは決めていた。

 銃を使う。

 どんなゲームであっても裕翔は銃をメイン武器に使っていた。だから、〈Quantum World〉でも銃を使えるジョブにするつもりだ。

 銃を使える可能性が無かったら死にそうになるけど。

 それは無いと思い、ミナトは銃をメインに使うジョブでピックアップした。

 銃をメインに使うだけでも様々なジョブがある。

 銃騎士にガンマン、狙撃手と可能性は多種多様だ。その中でも裕翔の理想に近いジョブを探し回り悩んだ末決めた。

「ガンスリンガーこれに決めました」

 画面をタッチしミナトはモモシュシュに報告する。

「いいの、それで、決めたからには進化はするけど、初期のジョブは変わらないよ~。まだまだ悩んだ方がいいじゃない?」

「これがいいんです」

 焦りは禁物だとモモシュシュはマイペースで言うがミナトは譲る気はなかった。

「うん。いいね~。その目、悩みは無いようだ。ちゃんと心の意思で決めたようでなにより~」

 裕翔は自分のジョブをガンスリンガーに決定した。

 すると、初期の装備が一転してガンスリンガーの装備へと様変わりした。

 全身黒のレザーでジャケットを羽織った姿。腰には二丁の拳銃がある。

 裕翔は腰のホルスタから銃をサッと抜いてみせる。試し撃ちもしたいが怒られそうなのでやめた。

 軽い。ミナトのイメージ通りだ。しかも、銃を持った厚みと重さが直に手に伝わる、フルダイブのVRMMOとは触覚が段違だ。

「それが君のガンスリンガーの可能性だよ。気に入っているみたいでなにより。目の色や髪型も変えられるけどどうする」

 とりあえず原型はとどめる形で裕翔は髪の色や目の色を変える程度にした。あまり変えてしまうと育也が分からないといけない。

「完成、っと」

「オッケー。じゃあ、一般アイテムあげます~」

 するとモモシュシュの横から頭の上にカバンを乗せたモフモフの生き物がやってきた。どうしてもモモシュシュはベッドから立ち上がる気はないようだ。もはや、ぐーたらのお姫様だ。

「それが収納カバン。アイテムボックス。中は異次元空間になっている。ウェイブの持ち物は入るけどそれ以外は入らない」

「なるほど。便利なカバンですけど犯罪には使えない使用になっているんですね」

 現実にあれば便利だろうなと思いながらカバンを開けると中はブラックホールのように真っ暗だった。

 画面を見るとまだ空っぽでアイテムはない。

「一応そうなっているけど、そういう風に可能性を進化させたプレイヤーもいるから気をつけてね」

「…………気をつけます」

 恐ろしい情報を聞いてしまった。出来るだけそういうスキルを持っている人には出くわさないようにしよう。

「ちなみにそれは初心者用だから入る数には限度があるよ。足りない時は容量を増やしたり買い替えたりしてね。それと盗まれないように強固なロック機能がある物もあるよ。高いけど」

「ちなみにこの初心者用の容量は」

「教室一個分程度だった、かな」

「結構入るんですね。初心者なら十分すぎるレベル」

「商業系のジョブ選ぶと足りないらしいけどね~」

 確かに。世界ナンバーワン通販サイトの倉庫を見学したことがあるから分かる。教室一個程度じゃ足りない。

「あと初心者のアイテムボックスは耐久度が低い。壊れたら中身が全部ばら撒き散るのと不用意に壊す厄介なプレイヤーもいるしロックを解除してしまうプレイヤーもいるからそういう人にあったら終わりだと思ってね」

「凄く残酷なんですねQWは」

 通常そういう行為は運営に報告されてアカウントを破棄されるのだがQwではそんな事はなく運営も容認しているみたいだ。

 直ぐにアイテムボックスを買い替える事になりそうだとミナトは思った。

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