第92話 (フラン&ネル)
「それじゃあ、リアムさんの使っているスキルは習得できないということですか」
「まあな。こればっかりはほかの技術とは違うんだ。だから、まあスキルというわけなんだがな」
フランとリアムの二人は商人の護衛任務を受けて王都へ向かっているところだった。一月近い冒険者活動でフラン自身もDランクに昇格し、護衛任務を受けられる最低レベルに達していた。とはいえ、通常二人きりのパーティで護衛任務を受けられるわけではないのだが、リアムのBランクという事実と、商隊ではなく個人の行商人だからということで依頼を受領が可能となった。
「魔力を飛ばしたり、身体能力を強化するのは技術であってスキルじゃない。だから、教えることも習得することもできる。でも、スキルとなると全く違うんだ」
王都へと向かう街道沿いに現れる魔物というのはウル山を下ってしまえば大した相手ではない。それでも護衛任務ということで警戒はしていてもおしゃべりをする程度の余裕はある。
「でも、赤いオーラが出てますよね」
「一般的に言われていることだが、それは勘違いだな。スキルの使用時には当然、魔力を纏うことになる。でも、魔刃を飛ばそうが、身体強化をしようと魔力を使う以上、赤いオーラは出るさ」
「うーん。じゃあ、スキルっていうのは何なんですか?」
「魔法だよ」
「いや、でもそれって」
「魔力の扱いを覚えた今ならわかるだろ。俺の使うスキルが技術の延長線上にないことが」
「それは……」
違うとは言えなかった。
リアムのスキルは影を斬る。より正確に言えば、影への攻撃が実態に影響を及ぼす。影と実態は切り離せない関係ではあるが、だからといって影響することはあり得ない。そんなことは小さな子供で知っていることだ。
次元魔法と空間魔法により空間と空間を繋いでいる。影を斬っているのではなく影を通して空間がつながり、斬撃の力を持った魔力が影と同じ位置に転移している。それはやっぱり技術ではなく魔法の力だろう。
「スキルは魔導回路を使って発動しているんだ」
「でも」
魔法使いの使用する魔導回路であれば、理解はできなくても見ることができる。でも、リアムがスキルを使っているとき、それを目にしたことはなかった。
「スキルを使用するための魔導回路は外には出ない。体の内側に刻まれているんだ」
「そうなの?」
「ああ、聞いたことあるだろ。スキルは生まれつきのものだって」
「そういえばそうですね。でも、自分に刻まれている魔導回路なんてどうやったらわかるんですか」
「魔力の操作を覚えただろ。それで自身の内側に向けて探っているとな、魔法使いが魔法を使う前に空中に展開する魔導回路のようなものが視えてくる。視えると理解できる」
「誰にでもあるものなんですか?」
「わからん。俺の仲間たちはそこまで魔力を扱えなかったからな。でもBランク以上の冒険者はほぼ何かしらのスキルを使えるし、Aランクは確実に使っている。人によっては二つのスキルを持っているらしい」
CランクとBランクに大きな隔たりがある理由はそこにある。魔力の扱いを覚え、身体能力の強化に魔刃を飛ばせるようになることが最低ライン。さらにそこから魔力操作をより深く理解して、スキルの発現に至ったものは一段階上の力を手に入れる。
スキルというのはそれほどまでに戦力を増強させる。リアムの攻撃は影を斬るという一見地味なものだが、それはほぼ回避不能の攻撃手段である。イチロウと戦った時は殺さないよう手加減をしていたが、
リアムはワイバーンを単独で圧倒できる。何しろ、上空をワイバーンが飛んでいても、その影さえ地上に落ちていれば好き放題に切れるのだから。戦いというのは相性がものをいうことは多々あるが、イチロウたちが散々苦労したギガントサウルスも、巨大なだけの魔物であればリアムに分がある。
「私にもあるのでしょうか」
「さあな。だが、あると信じてみろよ。それだけ魔力をうまく扱えるのなら、近いうちに感じ取れるだろうよ。正直、この一月で教えられることは大方教えつくした。まだまだ技術的に甘い部分はあるが、それは経験を重ねるしかないだろう。だからな、王都についたらこの臨時のパーティを解消しようと思う」
「え」
あまりにも突然の話にフランは面食らってしまった。そんな素振りは一度も見せたことがなかったのだから。しかし、それにしても、急な話である。
「まだまだ教えてほしいことがあるんですが」
「後は経験を積むことだよ」
そういう言い方をされてしまうとフランは何も言えなくなる。
それにこれは臨時のパーティであり、引き留めることができないことも理解していた。それでも、すがりたかった。強くなるために。スキルを獲得できれば飛躍的な力を得るかもしれない。だけど、どんなスキルであれ技術は使いこなしてこそなのだ。だからこそ、リアムを必要としていた。
「どうしてもだめなんですか」
「フラン君の成長速度はすごいよ。レベルやステータスの上昇と違って経験を得るには時間がかかるもんだ。大体、相手は魔物だろう。俺との対人戦闘をいくら学んでも意味はないさ」
「それはそうですけど、技術は身につくと思います」
「なにをそんなに急ぐ」
焦りが顔に出ていたのか、リアムは歩みを止めるとフランの肩に手を置いた。
二人の横をカラカラと音を立てて荷馬車が過ぎていく。商人はここまでの道中で二人の実力を理解しているのだろう、わずかに眉根を寄せたが止まることなく馬車を進めた。
「焦ってるんですかね」
「そう見える」
「なんか、嫌になるな」
二人は馬車の後を少し遅れてついて行く。
話の流れで多少、感情的になってしまったけども護衛任務であることを忘れているわけではない。努めて冷静であろうとしてフランは苦笑する。
何のために強くなりたいのか、それは考えるまでもなく魔王と戦うであろう仲間のためだ。はっきりと認識すると笑いがこみ上げてきた。
「おいおい、どうかしたのか」
「いや、何でもないです。でも、本当に私は何を焦ってたのかなって」
リアムに訓練をつけてもらい様々な技術を獲得することができて、微かにだけど自信のようなものも感じ始めていた。強くなりたいという思い。仲間としてネルやシエスとともにイチロウの傍に立ちたい。それにふさわしい自分になりたいと思ようになっていた。
少し前までのフランは仲間として、ともに在りたいという気持ちはあっても、そんな力はないと分不相応だと思っていた。だから、悩んでいたし結局はどうすることもできないとどこかで諦めていた。
それなのに、今の自分は強さを求めて焦っていることがおかしかった。
「もう少し付き合ってもらえませんか」
「理由は?」
「逆に聞きますけど、リアムさんには何か予定があるんですか」
「いや、ないな。ただ、わかっていると思うけど魔法都市のギルドは仕事が薄いからな。出来れば王都かほかの町を拠点にしたいと思ってるだけさ」
「それだったら、やっぱりもう少しだけ時間をください。もしもスキルを手に入れることができたらきちんと使えるように訓練したいですし。もしも金銭的な問題なら、私からの依頼という形にしてもらっても構いません」
スマニーで手にしたお金は結局のところ宿代以外にはほとんど使っていない。イチロウには自由にしていいと言われているけど、ネルと話し合ってそれぞれの取り分は4分の1、つまり500万ダリル相当ということにしている。それでもかなりの大金がフランの自由に使えるお金としてあるのだ。
「金の問題はないよ。この一か月の稼ぎは全部もらっているわけだし。けど、フラン君はなんていうか、俺のことを高く見積り過ぎじゃないか」
「そんなことないと思いますが」
知識にしろ技術にしてもBランク冒険者というのは伊達でもなんでもなくフランの遥か高みにいるのは間違いなかった。でも、そんな風に自らを卑下していうリアムのことがおかしかった。
まるで私みたいだとフランは思った。
熟練の冒険者であっても自己の評価と、他者からの評価というのは乖離しているものらしい。だとしたら、自分もまた自分で思う以上に力があるのかもしれない。そう信じていいのかもしれない。
「私がスキルを習得できるまでで構いませんので、力を貸してくれませんか」
「ったく、わかったよ。フラン君はサバサバしていると思っていたけど、割としつこい性格をしているらしいね。だけどまあ、そのくらいならいいよ。俺の予想だと、そんなにかからないだろうからね」
苦笑してリアムが言った。
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あとがき
次回、閑話を挟んで全員が再び集まります。
修行パートはこれで終わります。
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