第11話
宿の食堂で俺たちはこれからのことを話し合っていた。
冒険者ギルドで手にしたびっくりするほどの大金も、この街じゃはした金でしかないらしい。
金が足りないなら稼げばいいと、冒険者ギルドに戻ってみたけど、そもそもこの街にいる冒険者のレベルは総じて高い。単体でCランク以上、パーティを組んでいればDランクが混ざることはあるけども、基本的に俺たちより格上である。
そういう関係上、冒険者ギルドに出されている依頼も高ランクのものばかり。俺たちは依頼を受けることすらできなかった。
「王都に戻る?」
「うーん。それなぁ」
二人に王都を拒否する理由を説明できればいいけど、逃亡中の”勇者”だなんて口が裂けても言えるわけねえ。
「ほかに面白そうな街とかないの?」
「面白そうな街?」
「もしくはお金が稼げるところ。やっぱり、冒険者続けるならマジックバッグは必須じゃないか?」
「お金が稼げるって言ったら…あれだよね」
「そうね。イチロウなら…うん。大丈夫だと思う」
フランとネルが顔を見合わせてハモらせる。
「「迷宮都市ダルウィン」」
おお、やっぱりあったか!!
異世界定番のダンジョン。
「遠い?」
「そうでもないかな。歩いて2週間くらいかな」
「ちょっと遠いけど、いいじゃん。行こうぜ」
「そういうと思ったけどさ。イチロウはともかく私たち二人にはダルウィンのダンジョンってきついんだよね」
「また、中級以上ってこと?」
「そんなことないです。ダルウィンのダンジョンは確か30階層くらいあるそうですけど、最初の10階層くらいは下級の魔物のゾーンだって聞いてます」
「ならいいじゃん」
「そうなんですけど。私たちみたいに低位の冒険者も実力をつけるために潜る人たちもいるらしいですけど、正直実入りはないって聞きます。宿代を稼ぐのが精いっぱいだとか」
「じゃあ、10階層以上潜ればいいんだろ」
「それが私たちにはきついっていうの」
「大丈夫だろ」
「うわっ、出たよ。あんたの”大丈夫だろ”。それ、根拠ないでしょうが。ダンジョンって逃げ場ないんだよ。外と違って魔物の数も多いし、休むところも少ないし。中級クラスの魔物と連戦とか正直無理だって」
「ここから2週間かかるんだろ。いいぜ、俺が二人を鍛えてやる。ここ数日の伸びを見てれば可能性は十分だと思う」
「いやいやいや、そりゃあね。王都を出てからここに来るまでに信じられないくらいレベルは上がったけどさ」
「無理はさせないから信じろって」
「信じろって言われても、はぁ。どうする?」
「どうしよう?」
二人が顔を突き合わせる。
俺からすれば、二人の伸びしろはかなりある。初級の魔法しか使えなくても、中級の魔物を倒せたネル。フランだって、グレートスコーピオンと十分戦えていた。剣そのものの質が悪くなければ、彼女が倒していてもおかしくなかったと思う。
レベルも数日で格段にアップしていることを考えれば、中級を倒せる最低ラインの30レベルに到達するのもそれほど遠くはないと思う。
「ここにいても何もできないしさ、行ってみる?」
「うん。王都で新兵器が開発されて、魔界の勢力を抑え込んでるなんていうけど、私たちの町にも中級クラスの魔物が現れたよね。ここに来る道でも出没する魔物もすごく増えてた。やっぱり魔物がすごく活性化してると思うの」
急にまじめな話になった。
ネルの目に宿るのは真剣なまなざしそのものだった。
「だからね、私たちは強くならなきゃいけないと思う。私が魔法使い目指したのだって、お父さんやお母さん、村のみんなを守りたいって思ったからだし」
「そうだね。あんたが掛けてくれた結界でしばらくは大丈夫だろうけど、村は心配だよね。私なんか、ネルと違って才能もなにもないんだし、ダンジョンにでも潜って鍛えないとダメだよね」
なんか…ごめん。
ダンジョン、ちょっと面白そうだなって軽い気持ちだったんだけど。
そもそも、魔王とか倒すの俺(勇者)の役目なわけだしな。
そこから逃げ出した俺が…。
「というわけで、よろしくお願いします」
ネルが頭を下げた。
それにつられるようにフランも。
「俺たちパーティなんだから、そんな風に頭下げたり無しで行こうぜ。こっちこそ、ありがとうな。ダンジョン行きたいって俺のわがままみたいなものなのに」
「ううん。そんなことないです。私たち冒険者としてランクを上げたいって言いながらも、王都で目の前にある依頼を受けるだけで、強くなろうって努力をしてなかった。だから、本当はうれしいの」
ちょっと温度差はあったけど、彼女たちの気持ちも固まったことで、俺たちはすぐに魔法都市ドニーを離れることにした。
正直、マジックバッグは欲しいけど、簡単に稼げるものでもなさそうだし、早急に必要なのはフランの剣だと思う。この街には魔法特性を付与された魔法剣が売られていたけどバカ高くて手で出ないからだ。
荷物をまとめて宿を出た俺たちは、街の入り口に差し掛かっていた。
その時、けたたましいほどの大音量の警報が鳴り響いた。
「なに?」
「どうしたの?」
周囲を見渡すと、誰かが「あれ」と空を指さした。
その指先を追いかけていくと、視線を動かした先で巨大な影が天空を泳いでいた。
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