第11話 人質と身代金 4

「おい、竜也くんに何をしてるんだ!!」


「金沢さん、あなたにできることを一刻も早く」


そう言うと、電話は切られた。気づいたときには、僕は噴水に向かって走り出していた。周りの目など気にすることもなく水に飛び込む。スーツに水が染み込み身体にまとわりつく。カバンに入った4,000万円が水に濡れてしまうかもしれないが、そんなことは言っていられない。濡れていても、金は金だ。


噴水の中心部にたどり着いたが、犯人が指定したようなゴミ袋が見当たらない。もしかしてそこに沈めてあるのか。そう思い、全身を水の中に沈め、半径2メートルほどのスペースをくまなく探す。


目の端に違和感を覚え、そちらを振り向くと、水中よりも青い青の、コンビニのレジ袋ほどの大きさの袋を視界に捉えた。


僕は必死に拾い上げ、久方ぶりに肺に酸素を満たす。


「はぁ、はぁ、はぁ」


焦点の合わなかった視界が息を吸う度に色を取り戻していく。


周囲を見渡すと、若いカップルや乳飲み子を連れた母親がこちらを見て唖然とし、必死で目を合わせまいと下を向く。


羞恥心を感じながらも、僕にはやらねばならないことがあることを思い出す。周りの目を気にせず、いや注目されていることが分かっているからこそ、悠然とした歩みで噴水を出る。


青いゴミ袋はペットボトルほどの重さしかなく、水をたっぷり吸った4,000万円の札束とは対象的にほとんど重みを感じない。


中を空けてみると、トランシーバーのような端末と、それに繋がれたマイク付きヘッドホンが入っていた。

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