第10話 人質と身代金 3
正面入口に到着し、腕時計を確認する。社長室に転属になったときに買った、ロレックスの時計だ。長針は3と4の数字の間を示している。とりあえずは、一歩目で躓くことは避けられた。
この後何が起こるのか、頭の中でシミュレーションを試みるが、変に予想を立てることで想定外の事態に対応できない可能性を考え、考えるのをやめた。何が起こっても冷静かつ柔軟に、菊名さんから教わった教えの一つだ。
落ち着け、落ち着け。自分にそう言い聞かせていると、右手に握った携帯のバイブレーションが震える。
「金沢さん、正面入口にはつきましたか」
「あぁ、日比谷公園に入ったところにいる」
「じゃあ、噴水に入ってください」
「なんだって?」
確かに日比谷公園には正面入口から30メートルほど進んだところに大噴水がある。そこに入れと?何をしろっていうんだ?
「ここからは一度しか言いませんので、きちんと聞いて行動してください。そこから見える噴水に入ってください。中央の水が吹き出している所に、青いゴミ袋に入ったあなたへのプレゼントがあります。それを拾い上げたら、噴水の外に出てプレゼントを開けてください。早くしないと・・・」
また脅迫をしてくるつもりか。今度はさっきみたいには・・・。
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い・・・・」
受話器から、入学式を目前に控えた甥っ子に似た声の悲鳴が響く。平和な公園の雰囲気とは対象的な悲壮感あふれる悲鳴に体中に悪寒が走り、同時に怒りが頭を熱くした。
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