第9話 人質と身代金 2

「こんにちは、4,000万円は持ってきましたか?」


ボイスチェンジャーで変換された、男女どちらか分からない声が受話器から響く。


「あぁ、持ってきた」


「あなたのことはなんと呼べばいいですか?」


なんと答えるべきか。一瞬頭を巡らすが、実名で差し障りはないと思い


「僕の名前は金沢だ」


「よろしく、金沢さん。それじゃあ、そのまま日比谷公園の方に向かってくれますか?20分後にまたかけるので、帝都ホテル側にある正面入り口に着くようにしてください。もし着かなかったら‥‥」


3秒ほどの沈黙の後、ボイスチェンジャーの声が言葉を継ぐ。


「竜也は死ぬよ」


そう言って電話は一方的に切られた。


死、という言葉にこの仕事の重圧を感じ、一瞬息をするのを忘れる。


「おい、大丈夫か?」


インカムから聞こえる同僚の声に我に返る。


落ち着け、ここから日比谷公園の入り口なら普通に歩けば15分はかからない。


「あぁ、大丈夫だ。犯人からだ。これから日比谷公園前に移動する。20分後に電話がくるから、先回りしてくれ」


「オーケー」

「オーケー」

「オーケー」


仲間たちから同意の声を聞き、僕は落ち着きを取り戻す。


内堀通りを早歩きで東に向かって歩く。祝田橋の交差点を渡って日比谷公園内に入り、正面入口を目指す。


平日の午前中。周りにいるのは春休みを謳歌している大学生のカップルや、子連れの母親ばかりだ。スーツ姿の僕は、やけに場違いな感じがする。

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