第8話 人質と身代金 1

4月4日。

僕は社長室主任の金沢泰。特命プロジェクトにより、4000万円の入ったボストンバッグを持って桜田門に来ている。


3日前、社長に届いた黒い封筒の中身に書いてあった社長の息子誘拐は、どうやら真実だったようだ。


すぐに警察に連絡した方がいいと言うものも少なからずいたが、会社の評判を気にした東堂社長は通報を控えた。


代わりに、社長室メンバーを中心とした特命プロジェクトを組み、救出を進める決断をした。


異業種からこの会社に入って8年。最初は順調に成果を出し、菊名さんに目をつけられエリートコースと言われる社長室に転属してから2年が経つが、これと言った成果は出せていない。


東堂社長の近くで働くということは、成果を出せれば大きなチャンスに繋がるが、鳴かず飛ばずは逆に大きなリスクになる。


左遷の当落線上にいる僕にとっては、今回の身代金受け渡しの命は形勢逆転の大チャンスだ。


人質の安全が最優先だからと、無茶な行動はつつしむように厳命されているが、犯人の手かがりくらい掴んでみせる。


4月3日、社長宛てにまた黒い封筒が届いた。その中には、プリペイド携帯と共に、一行だけタイプされたA4用紙が入っていた。


「4月4日午前10時に、4,000万円の入ったバッグとこの携帯を持たせた遣いを警視庁本部庁舎前に寄越せ」


身代金を持って警察組織の本丸前に呼び寄せるとは、なんと挑発的な犯人なんだ。


皇居も近いこの辺りの通りは警察官が何人も立っているが、まさか目の前に誘拐事件の身代金の運び屋がいるなんて想像もしていないだろう。


私は、装着したインカム越しに他の社長室の仲間に声をかける。


「金沢、警視庁前に到着してます。現在10時0分ちょうど、周囲に怪しい人影、車はなし」


社長室からの応援ばかり3人。みな一般人を装って、私服で私を観察できる位置から見張っている。まぁ、皆もともと一般人ではあるわけだが。


そんなことを考えていると、犯人から送られてきた携帯が鳴る。

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