第7話 黒い封筒 7
数時間前
「つまりこの竜也は愛人の美樹ってやつとの間の子供で、本当の奥さんである千佳との間には、別の竜也って子供がいるってことか」
裕二が、ようやく合点がいったという様子で、大きく何度も頷いていた。
「そういうことだ。東堂勝には、妻である東堂千佳という女との間に今年9歳になる東堂竜也という一人息子がいて、一方で愛人である森田美樹との間には、森田竜也という子供がいる」
「なんで両方とも竜也って名前なんだよ?」
「それは分からない。愛人の意地じゃないかな?」
「自分の子供が、本当の奥さんとの子供と同じように愛してもらえるか怖かったんじゃないかな?」
陽菜のその言葉は推論の粋を出なかったのは確かだが、女性の目線からの意見は妙な説得力があり、俺も裕二もきっとそうだろうと、大きく相槌を打つ。
「それで、なんで二人の竜也の存在を俺たちには教えてくれなかったんだよ、能勝」
裕二がそういうと、陽菜はバツの悪そうな顔をしてこちらを見てくる。それに気づいた裕二は
「知らなかったのは俺だけか。なおさら理由を教えてもらわないわけにはいかないな」
裕二が凄みを利かせて詰問してくる。こう言ってくるのも想定の範囲内だ。
「だって二人の竜也がいるって聞いたら、どっちもさらおうって言うだろ、裕二」
「当たり前だろ。その方が、身代金をがっぽり取れるじゃん」
そう言うと思っていた。
裕二は中学を卒業した後、高校に入学こそしたが、多くの時間を裏社会で過ごしてきた。何をしてきたのは詳しくは知らない。警察のお世話になったことはないが、命がいくつあっても足りないような無茶を繰り返してきていた。
そんな裕二が、二人共さらってしまえというのは、計画前から予想はしていた。だからこそ、本妻との間の竜也の存在は伏せていたのだ。
「そういう考え方もできるけどさ。流石に東堂竜也が誘拐されたとなったら、警察に通報するかもしれないだろ。それに」
それだけじゃ納得できないという顔の裕二を見ながら、一呼吸置いて俺は続ける。
「人質が二人になると、俺たち3人での実行は難しくなる。結託されても面倒だし、かと言って裕二と陽菜以外を仲間に加えられないから、森田竜也だけをターゲットにしたんだ。お前ら以外に信頼できる仲間はいないからさ」
裏社会にいながらも、いやいたからこそ、人とのつながりを大事にする裕司が『信頼』という言葉に弱いのを折れは知っている。
「それもそうだな。能勝がそういうなら、俺は従うまでだ」
裕二は納得したようだ。
「じゃあ、明日からゲームの本番だ。この後計画の復習をして、ゆっくり休もう。先は長いぞ」
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