第3話 黒い封筒 3

プルルルル。


社長机の上の固定電話が鳴る。最近は携帯電話やSkypeでの会話がメインのため、この電話が鳴るのは珍しい。


菊名が受話器を取り上げ一言二言話した後、こちらに目を向ける。


「社長宛てにお電話です。タツヤと伝えれば分かる、と」


恐らく、先ほどの手紙を出した者、犯人からの電話であろう。


私は受話器を受け取り、一息置いてから切り出す。


「私が東堂だが」


「東堂社長、始めまして。やけに落ち着いてますね」


ボイスチェンジャーにより変換された耳障りな声だ。


「君は誰なんだね?変なイタズラはよしてくれないか」


「お父さん、お仕事なのに電話くれたの?」


先ほどの声とは違う、ボイスチェンジャーで変換されていない子供の声になった。竜也の声だ。


「竜也、元気にしてるか?」


「うん、お兄ちゃんたちに遊んでもらってるよ」


「これで、イタズラでも遊びでもないと分かったでしょう?」


再びボイスチェンジャーの声に戻る。


「何が望みだ?どうすれば竜也を帰してくれるんだ?」


自分でも声が少しうわずったのが分かる。


「そう焦らないでください。今日のところはここまで。東堂社長も忙しくでしょうから。長電話はいいことがないですからね。あ、くれぐれも警察には言わないように。竜也くんのためにもね」


そう言うと、犯人は一方的に電話を切った。


どうやらこれは本当に誘拐事件のようだ。


通話時間は約2分。先ほど黒い封筒受け取ったばかりだ。通常であれば、逆探知を用意できる時間的余裕はない。しかし…。


「菊名、今の通話の発信地を探れ」


ここは国内、いや世界でも最先端の情報通信技術を誇るインフォ・テーブルだ。警察の逆探知を超える技術が、ここにはある。


「突き止めたら俺に報告しろ。売られた喧嘩は買う。そして…」


俺は黒い封筒、沈黙を続ける固定電話を順に眺め、菊名に目を移し言い切る。


「戦いには必ず勝つ」


落ち着きを取り戻した菊名は一礼し、ドアに向かう。ノブに手をかけた所で、何かを思い出したようにこちらを振り返って、


「社長、このことは警察には…?」

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