寒波去らず③
しばらくして複数の天使の姿が見えてきた。全員で五人いた。ひとりはレン達人間がよく見かける天使の格好をしていたが、残りは革で作られた鎧を着ていた。
「何か魔力を感じると思ったら、エシリアではないか?どうしてこのような所に」
「ドライゼン様こそ。駐在官がエメランスを離れるなんて、ただ事ではありません」
ドライゼンの目に動揺の色が走った。難しい顔をしながらも、話す言葉が見つからないのか黙り込んでいた。
「ご存知ですか?総司祭長アルスマーン・ミサリオが教王によって殺害されました。もはや教会は元来の姿を止めていません。今こそ我ら天使がそれを正さねばならないのに、何をなさっているのです」
「無礼であろう!」
ドライゼンの後方に控えていた天使が一歩踏み込んできた。手には光の槍が握られていて、槍先をエシリアに向けた。
「無礼?天使において天界院の方々を除けば全て同格。いつから我ら天使は階級社会の徒になったのですか?」
「ごちゃごちゃとうるさい小娘よ。大人しく自分の職分を守っておれば」
ドライゼンも光の剣を手にした。残った天使達もそれぞれに武器を構えた。
「私は殺すつもりですか?」
「悪いとは思うがな。ここで教王に残ってもらわねば、私もシェランドン様も後がない……」
「シェランドン?天界院のシェランドン様?」
しまったとばかりにドライゼンが口を押さえた。
「ふん。まぁいい、教えてやろう。教王を焚きつけたのは我々だ。教会をもって皇帝を排除し、人間界の秩序を再構築させようというのがシェランドン様のお考えだ」
「そうですか……。それで皇帝軍を倒そうと、天使自ら出撃というわけですね」
「そういうわけだ」
「どこまでも腐った……。同じ天使として恥ずかしい……」
エシリアが握っていた右拳を開いた。中に小さな石ころが光っていた。
「それは……記録球!」
「そうです。まさかこうも簡単に話をするとは思っていませんでした。今の話、しっかりと記録させてもらいました」
「こ、殺せ!」
ドライゼンが吠えると、四人の天使達が一斉に飛び上がった。
「へへ!手伝ってやるよ!こんな腐った連中、私でもむかつくぜ!」
エルマが嬉々として岩陰から飛び出した。早々にひとりの天使の顔面を殴り、地面に叩き落した。
「貴女に貸しを作りたくありませんが、助かります」
エシリアも機敏であった。残った三人の天使に向って光の剣をなぎ払った。呻き声をあげながら天使達は落下した。
「つ、強い……。それにその女は……」
「あそこの性悪猫のことはいいです。私は今、怒っています。あなたは天使の尊厳を汚した」
これは罪悪です、とエシリアは駆け出した。
「小娘が!」
ドライゼンは光の剣を振り上げ、迫り来るエシリアに向って振り下ろした。
エシリアは急停止し、ドライゼンの光の剣は空を切って地面に突き刺さり、抉れた土が舞い上がった。
ドライゼンは光の剣を引き抜こうとしただろう。しかし、舞い上がった土の中からエシリアの光の剣が飛び出してきた。
「うぐ……ぐう……」
「死して悔いなさい、自らの罪を」
エシリアの光の剣は、ドライゼンの喉を貫いた。血が吹き出、エシリアの体をぬらす。ドライゼンの体は、石像のようにどさんと地面に倒れた。
「ひえ、おっかねえな」
エルマが首をすくめた。
「私のことですか?」
「いんや。このおっさん天使のことだよ。皇帝に代わって教会に人間界を支配させれるなんてな。どんでもないことを思いつくもんだ」
「思いついたのは天界院のシェランドンです。ドライゼンは、その手先だけです」
「エシリア様、エメランスに早く戻りましょう。あの天使が言っていたことが本当だとすると、教王は皇帝に戦いを挑むはずです。それは阻止しないと……」
戦いが終わり、レンはガレッドに続いて岩陰から出てきた。
「そうですね。またまたひとっ飛びと行きましょう。エルマさん、ガレッドさんをよろしく」
「うええ。また私がおっさんかよ。今度が代われよ」
「私は戦って疲れているんです」
エシリアはにこりともせず、体についたドライゼンの血を手拭で拭っていた。
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