永遠からの解放⑤
「まったく……ひどい目に遭いました……」
エシリアが気がついた時には、全身砂まみれになっていた。マランセル公爵の墳墓の奥深くにいたはずなのに、夕暮れ空の下にいた。あの屋敷も、墳墓自体も綺麗に消し飛んだようで、地表が大きくえぐれた中心部分にエシリア達はいた。
「本当だぜ。天使と協力しただなんて、末代までの恥だぜ」
エルマは砂埃を払い落としていた。その砂がしゃがんでいるエシリアの肩に落ちてきた。
「そういうことではありません。それに砂、私にかかっていますよ」
「ふん。おい、お前ら無事か?」
エシリアの苦情に謝罪の一言も発さないエルマが後を向いた。エシリアも振り向くと、ガレッド達も砂埃を落としていた。
「大丈夫でござる。レンもこのとおり」
ガレッドの巨体の後から、レンがひょこっと顔を覗かせた。
「こちらも無事です。サラサ様、お加減はいかがです?」
「いいわけないだろう。ま、無事なのは無事だ」
ジロンと呼ばれた老人も、その連れである少女サラサも無事のようであった。
「肝心のシード君は?」
立ち上がったエシリアは、ガレッド達のさらに背後にいるシードへと駆けていった。シードは半壊した棺の中で倒れていた。触れてみると魔力はしっかりと感じられた。
「大丈夫です。気を失っているだけのようですね」
安堵はしたが、不気味でもあった。シードの魔力は微塵も減っていなかったからだ。
『この少年はどれだけ魔力を秘めているのか……』
シードがユグランテスであるかどうかは別としても、ますますこの少年について調べなければならないような気がしてきた。
「しかし、屋敷をぶっ飛ばしたと思ったら今度は墳墓かよ。こいつ、どれだけの魔力を秘めてんだよ。謎な奴だぜ」
エルマも同様のことを思ったらしい。が、エシリアからしてみれば、エルマも謎である。
『私一人ではあの魔力爆発に耐えられなかった……』
エルマとマ・ジュドーがいたからこそ、こうして生きていられたのだ。エルマの魔力は、エシリアと同等かそれ以上かもしれない。
「謎と言えばすべてば謎だぞ。誰か状況を説明できる奴はいないのか?」
サラサが一同をぐるっと見渡して言った。そこで初めてエシリア達は、それぞれの事情を語り合った。
「要するにサラサさん達は、エストヘブン領での騒動の裏に天使の存在があると睨んでいるわけですね」
サラサから聞かされたエストヘブン領ので一件は非常に興味深く、エシリアは教会そして天使への疑念を深めた。
「そういうことだ。天使様を目の前にして言うことではないと思うが……」
「いえ。天使と言えども大きな組織です。私も知り得ないことも多いですし、今回の件も、ガレッドさん達が体験した件も、天使と教会が絡んでいます」
「えらいもんだな。人間から崇拝されている天使様が騒動の中心とはな。まるで天使が世の中を乱しているみたいじゃないか」
エルマはそう言って笑ったが、エシリアは笑えなかったし、反論できなかった。事実がどうであれ、結果的にはそう思われてもしかたなかった。
「失礼ながらも某も同感でござる。あの魔力を抽出する装置。そしてそれを操っていたあの天使。世の中に安寧をもたらすどころか、世を乱すものであろう」
「反論のしようもありません。これはきっちりと解決せねばなりません」
と言ってみたものの、どうすべきだろうか。ありのままのことを天界院に報告するのは危険であろう。天界院にはアレクセーエフを子飼いにしていたガルサノがいるからだ。
「そのことで思ったんだがな。やはり普通の教会領では埒が明かないから、総本山エメランスに行ぅべきじゃないだろうか」
サラサは言った。なるほど、とエシリアは思った。エメランスなら教会の中枢であるし、天使も駐在している。何か探るにはうってつけの場所かもしれない。
「しかし、サラサ様。何の当てもなくエメランスにも向っても……」
「いや、当てなら某にござる。エメランスに昔世話になった恩人がいましてな」
「それなら行ってみましょう、エメランスに」
エシリアは即決した。ここは悩んでいるよりも行動あるのみであった。
「おい!勝手に決めるな!」
「嫌ならあなたは付いてこないことですね。起きたシード君がどう決断するか知りませんけど」
「てめぇ……。いつかぶっ飛ばしてやる」
そう言っている以上、エルマも付いてくるのだろう。教化の旅がとんでもないことになってしまったものだ。嘆息しているエシリアの目に、表情を暗くしているレンの姿が映った。
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