獅子達の時代②
湯殿から出たジギアスは、そのまま北宮内にある後宮に向った。独身であるジギアスだが、後宮には多くの美姫を揃えていた。
その後宮一番奥、現在ジギアスが最も寵愛する女性がいる部屋がある。ジギアスがその前に立つと、控えていた侍女が『陛下のおな~り』と声を上げ、扉を開けた。
「まぁ、陛下。この度の戦勝、おめでとうございます」
「お前までそういうことを言うのだな。ま、素直に喜んでおくことにしよう、カヌレア」
かつての父の第二夫人であるカヌレア。今ではジギアスの情人のひとりとなっていた。齢四十と聞く。その美貌は他のどの美姫よりも美しく、肌のはりも若い美姫に負けていない。ジギアスはその肉体を抱いた瞬間、体が蕩けるのを感じたほどであった。
「ご機嫌斜めのようですわね、陛下」
「取るに足らない小さな反乱を鎮めたところで、目出度くも何ともない。それを騒ぎ立てやがって。俺を馬鹿にしているのか」
「まぁ、私は馬鹿にした覚えはございませんわ。たとえ小さな反乱であっても、それを収められたのは陛下の徳によるもの。お祝いを申し上げて当然でございますわ」
歯の浮くようなおべっかだと思った。しかし、カヌレアに言われると悪い気がしなかった。
「なら俺の興奮を収められるのはお前だけだな」
ジギアスはカヌレアを強く抱きすくめると、彼女の唇を吸った。カヌレアも応じるように強く唇を押し付けてくる。柔らかく潤いに満ちた唇。お互いの体が弛緩していくのを感じた。ジギアスはカヌレアを抱きしめたまま、寝台に押し倒した。
「相変わらずよい体をしているな」
ジギアスは服の上からカヌレアの胸をまさぐった。大きくそれでいて弾力のある乳房である。
「私は体だけの存在ですか?」
「そんなことはない。お前がいなければ、俺は帝位に付けなかったのだからな」
ジギアスはカヌレアの服を強引に剥ぎ、その体に覆い被さった。カヌレアは喜びの声をあげてジギアスを抱きしめてきた。
カヌレアとの事を終えたジギアスは体を深く寝台に沈めた。妙に目が冴えてきて、いつものように眠ることができなかった。隣ではカヌレアが気持ち良さそうに眠っている。
カヌレアに対して己を解放したことで多少鬱屈を発散できた気はしたが、それでも心に掛かっている靄のようなものをすべて取り去ることはできなかった。
『これもすべて教会の連中がいらんことを持ち込んできたからだ』
ジギアスはしくじりの元凶は教会にあると思っていた。教会が妙な神託をジギアスの元に持ち込んでこなければ、それを利用して皇帝の権威を高めようなんて考えなかったし、神託戦争などというくだらない戦争をせずに済んだのである。
『忌々しい限りだ』
出来得るのであれば、教会の関係者を処分したかった。しかし、帝国の政治と教会は不可分の関係にある。教会が皇帝を支持しなくなれば、帝位を脅かされる事態にもなりかねない。それだけ教会の存在は大きく、ジギアスも迂闊に処分することができなかった。
『教会だけではない。アドリアンの屑もだ』
アドリアン・シュベール。神託戦争に際して反皇帝派の首魁となった人物である。単に皇帝に叛いたというだけではなく、今でもおめおめと生きていることである。
そもそも神託戦争自体、教会が間に入っての和解という形で終結している。それ自体腹立たしいのに、教会は和解の条件としてアドリアンの身の保全を持ち出してきたのである。
教会の魂胆は見え透いていた。帝国のおける教会の権威を維持するためにも皇帝の対抗馬となる人物を生かしておきたかったのだ。
度重なる戦争で国庫が苦しくなり、延臣や味方する領主からもこれ以上の戦争は無理だと非難され始めていたジギアスは、苦渋の思いでこの和解を飲んだのである。変わりにアドリアンの腹心であったゼナルド・ビーロスとその一族を悉く処刑したのだが、それでジギアスの憂さが晴れたわけではなかった。
「そういえばビーロス家には一人娘がいたな……」
確か何処かの領主に預けていたはずだ。まだ幼年ながら美少女と聞く。いずれ時間が経てばビーロス家の罪科を許して後宮に納めるのも悪くないだろう。
「まぁ、陛下。私を隣にして他の女のことを考えておいでですか?」
いつの間にか目を覚ましていたカヌレアがジギアスのわき腹をつねった。今は冗談めかしく言っているが、性根では嫉妬深い女である。皇宮内でもまだまだ強い影響力を持っているので、その機嫌を損ねるわけにはいかなかった。
「目覚めていたか……。安心しろ。この後宮でお前以上に私を満足させてくれる女はいない」
「やはり私は体だけの女ですか?」
「そんなことを言うな。体も心も満たしてくれているよ」
ジギアスは再びカヌレアの体に覆い被さり、唇を吸い、全身を愛撫した。カヌレアは喜びの声を上げ、積極的にジギアスを求めてきた。
ややうんざりしながらも、ジギアスはカヌレアの要求に応えることにした。
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