第22話 勇者冒険する ⑥


『で?どこへ行こうっていうんだ?ん?』


『か、頭…』


そこに立っていたのは筋骨隆々な…というほどでもないが、なかなかガタイのでかい大男が扉を背にして立っていた。

その男の表情は腹立てているのではなく…何故か下賤な笑みを浮かべ…


ジャキッ


腰に添えた剣を取り出し、刃先をこちらに向ける。


「オネール。お前わかってんのか?あ、お前の連れてきた女、腹に子供いるんだろ?ならこうしてやるよ!」

そういうとスキルを使ったのだろうか、一瞬で加速し剣を彼女のお腹に向け突き刺そうとその手を伸ばし…


「や、やめっ!!」


ガキンッ!!




「んあ?なんだお前、俺の剣を止めるのはなかなかだぜ?」


「え?今のが止められないんですか?」

普通にダガーを下から当てて起動を逸らしただけなんだけど…

え?あ、止められないのが…普通?


私が首を傾げている姿を見てオネールと女性達が青ざめる中…

私に向かって殺気を飛ばしてくるお頭の顔はそれはもう怒り浸透という表情で…


「おいこのアマぁああああ!!!!」


男が剣を私の右肩を狙って振り下ろそうとする中…


刹那


ゴトっ、カーンカンカンカラン…


フローリングの床に毛がいっぱいの腕と剣…そして鮮血が広がっていた。


「な、なんなんだお前は!!!!!?…あっつい!おい!アロンちゃん!止血ポーションを持ってこい」


『…やです…』


『何ぶつぶつ言ったんだ!早く持ってこいって言ったんだよ!!』


『いやです!どうせなら死んでしまえ!!』


あらまぁ…アロンちゃんというお腹の少し大きくなった女の子は落ちた剣を拾いそのまま…


キンっ!


「なっ!?」

「なんで止めるんですか!!」




斬っ!  ゴトっ、




「………セリナさん…ありがとうございました…」


オネールさんは頭を下げてくる中、アロンちゃんと呼ばれていた女の子は私に向かって睨みを効かせてくる。


「なんで邪魔するのよ!!コイツは私が殺さなくちゃならないの!!やらなきゃ気が済まない!!」


「じゃあ聞きますけど…なんであの時手が震えてたんですか?」


「え?」


「人を殺す意志が固いのならそんな震えなんてないはずですけど…」


「そそれは…」


「人を殺すのが怖くなったんでしょ?で、それができなかった八つ当たりで私に当たっている…違う?」


「………」


私はアロンに近づき抱きしめた。

そっとギュッと、


するとアロンは泣き出し私に縋り付いてくる。そりゃそうだ、家族から離され無理やり犯され孕まされ…暴力を振るわれる。

日本じゃあり得ないことだがここでの普通だ。

そのことを胸に刻み、私はオネールさんにここを任せ他の盗賊達の討伐へと向かった。








王都



「お疲れ様でした。討伐報酬はこちらです。拉致被害者発見の臨時報酬も出ていますのでお納めください」


「ありがとうございます!」


私は受け取った報酬を肩からかけたバックに入れ宿へと向かった。




私は感じた…勇者は書籍に書かれていたようなものじゃない…逆だ…人に領地を侵され傷つけられる。もし被害者人間族以外であっても守ること…


それこそが勇者なのだと…


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