異世界編 最終話 別れの旅立ち

ミクルは今日も遊びに行っている。先にテラさんに言わなければ。そう思った俺はテラさんに打ち明けることにした。

「なぁ、テラさん。」

「なぁに、イル君。」

「ミクルを…手放したいんだ。」

「えっ…」

「…分かってくれ。」

「本気なの?!」

「ああ、僕たちだけが幸せになるのは耐えられないんだ。」

「まさか…」

「エクステラさんのいる世界に行かせようと思っている。」

「ふふ、イル君の考えそうなことだね。でも、あそこへは行けない。」

「どうしてだ?」

「向こうの世界とは時間の流れが違うし、元の私がいるのは特殊な空間、条件がそろって虚無の力を持っていないと………え、まさか…」

虚無の世界にいられる条件は選ばれていないといけない。とにかく初代の虚無の女神に類似していないといけない。名前に体格、髪型、髪色、顔立ちに様々。いくつかがある程度何かが似ていないといけない。それに踏まえ虚無の力を内包していないと耐えられないのだ。だが、今思い返してみると虚無の世界で過ごせるレベルは超えている。

「そうだ、ミクルが産まれる前から悩んでいたんだ。僕たちが幸せなのにあっちの世界のテラさんは幸せなのかを。」

「そう。私じゃダメなのね。」

「違う!確かにテラさんがいることで僕は幸せだ。だけど、もっとも報われるべきは僕じゃない。」

「そっか。両方幸せにならないといけないってことか。」

「ああ、だからエクステラさんに僕たちの幸せの象徴であるミクルを渡したいんだ。確かに寂しいが僕にはテラさんがいるし、エクステラさんが感じている寂しさはこんなものじゃないはず。」

「もう。分かったよ。私はイル君の幸せのために生まれた。イル君がそれで幸せならそれでいいよ。」

「ありがとうテラさん。」


「パパ、お話って何なのですか?」

「ミクル、お前には辛いかもしれないが、旅に出てほしいんだ。」

「えっ…」

「お前ももう知っているだろうがママは勇者じゃない。本当の勇者、パパが最初に愛した人のところへ行ってほしい。」

「…」

「確かに今の友達とも会えなくなるかもしれない。だが、安心しろ。一応調整を続けて往復できるようにするさ。そうしたら逢いに来れるだろう。」

「…パパ、その人はどんな人なのですか?詳しく教えてほしいのです。」

「そうだな。あの人はいつも元気で笑顔が似合う人だった。でも誰よりも我慢強くていつも一人で問題を抱えてしまう人だ。あの人はパパと別れて独りぼっちなんだ。だから、お前にそばにいてやってほしい、それが僕にエクステラさんにできることだから。」

「分かったのです。だけど妖精さんに言われたのです。向こうに行くには力をちゃんと使えないとダメだって…」

「それはママが教えるよ。ママはもう使えないけどコツくらいなら教えられるから。」

それからミクルの修業が始まった。


「…う~ん、よく分からないのです。」

「そうだなぁ、もっとふわふわした感じになれれば…」

その時に声と共にみんなが現れた。

「だったら私たちも協力するよ。ミクルちゃんと別れるのは寂しいけど、ミクルちゃんが決めたことだから、私も全力で手伝うよ!」

モモをはじめ、みんながいた。

「うん…」

ミクルは涙を必死でこらえていた。

「ミクルはすごいなぁ。元の私でもいつも勝手に行動してたからこんなに信頼されてなかった。ミクルは元の私よりも立派な勇者だよ。」

「…みんな、ありがとう…なの…です。」

もはや涙を抑えることはできなかった。その姿を見てみんなは優しく微笑んでくれた。


「やっぱり本物の勇者を見ないと分かんないんじゃないかな?」

モモが提案をする。

「それならセーラ様が見せてくれると思いますよ。」

ローラ先生が言った。

「よし、じゃあ三人で見に行こう。」

「モモちゃんたちはなんで来るの?」

「私たちがそばにいた方がいいでしょ。」

三人で魔導の屋敷の中へ入っていった。

「よく来たわね。」

奥には女性と少女が座っていた。

「この子が新しい勇者なのか~。ふふ、いい遊び相手になりそう。」

「マール様、今はそんな状況じゃありませんよ。」

「早速映すわよ。あの子が戦った記憶。」

すると空中に映像が映し出された。そこに映っていたのはママにそっくりだけど雰囲気の違う人だった。

映像を一通り見たがあまり実感がなかった。

「確かに戦い方とかはわかるのですが、まだ力の出し方が分からないのです。」

「う~ん、これ以上はどうしようもないね。」

修業は難航していった。


その頃、泉ではイルマが準備を進めていた。

「イルマさん!」

「何を急いで…」

「調整が終わったみたいで来ちゃったんですよ。あの人が…」

「え?」

「懐かしいな。」

そこには黒いコートを着た人が立っていた。

「あ、有間さん!」

「ああ、久しぶりだな。イルマ。」

「どうしてこちらに…」

「本当は忙しいのだが、こっちに悩みがあるみたいでな。」


「うう、どうやってもつかめないのです。」

ミクルは悩んでいた。

「う~ん、これじゃあ全然進まないね。」

全員が困っていた時、イルマが走ってきた。

「ミクル!大事なお客さんだ。」

「え?」

イルマの後ろには見慣れないコートの男が立っていた。でも、ミクルには分かった。あの記憶にいたアルマという人だと。

「確か、アルマって人なのですか?」

「知っているのなら話は早いな。ミクル、お前は何をしたい?」

「この力を使えるようになりたいのです。」

「何のために?」

「何のため?それは…役に立ちたいからなのです。」

「そうか。なら俺が教えてやる。」


ミクルと有間は見合っていた。

「この力はな、簡単に言うと無意識の中でも意識を保つことから始まる。」

「無意識の中で意識を…?」

「実践が早い。」

有間は指をパチンと鳴らした。その音を聞いた途端、ミクルの視界がグラっと歪み始めた。

「な、なんなのですか?」

「意識を半分飛ばさせてもらった。」

ミクルは何かを意識しようとしてもそれは続かずふっと途切れてしまう。

「その状態で聞く。お前はどんな自分になりたい?」

「えっと、ミクルは…」

考えることはできなかった。

「考えるな。ただそのまま言えばいい。」

「そのまま…」

「ああ。何でもかんでも言っていいんだ。」

「ミクルは…守られてばかりで…モモちゃんやゼロ君はそれでも一緒にいてくれて、2人はとても頼れるすごい人で私はあんな風になりたいって思った。」

「それでいい。それがお前の意思だ。」

「これがミクルの…」

「そうだ。後は想像力だ。この力は想像力でなんでもその通りに曲げられる。使い方を誤れば世界すら消えかねない。お前自身を真っ白にするんだ。そしてそこに自分のなりたい自分を思うままに自分に描けばいい。自分を創り直すんだ。」

「自分を創り直す…?」

「覚悟はいいか?これからお前の意識を完全に消す。さっきの感覚はより掴みづらいだろうが自分のイメージさえあれば大丈夫だ。」

「分かったのです。」

「ではいくぞ。」

有間はパンと手をたたいた。その音はミクルの頭の中を真っ白に塗り替えていった。

「…」

「そのまま何か行動できるか?」

「…大丈夫…なのです。」

「お前は自分に重ねればいい。なりたい自分を。それは現実になる。想像力に委ねろ。お前の中はお前の自由だ。」

「このふわふわした気持ちのいい感じ…これなのです。あの時の感覚は。」

「では実践だ。」

有間が指を鳴らすと薄黄色の髪の女性が現れた。

「マスター!もう!へとへとなんですよ、私。」

「まぁいいだろ。テストしてくれ。」

「はぁ、分かりましたよ。では…私のことは気になさらず、どんとぶつけてください。」

「分かりました。」

感覚が変わっていく。自分が思った通りに変わっていく。

「偽物でも本物になれるって。ママだってミクルにとっては憧れの勇者だったから。」

ミクルは手をかざした。

「虚像(レプリカ)―フリーズ・クライスト―」

かざした手からとてつもない冷気が放たれる。

「そして…」

短剣を抜き、走り出す。

「虚像(レプリカ)―ギガソード―」

短剣が巨大化する。

「これが私たちの力!」

剣が冷気をまとった。そしてミクルの背中には半透明の翼があった。

「—アドベントフューチャー!—」

「お見事ですね。さすがエクステラさんの娘ですね。」

女性はぴんぴんしていた。

「どうだ?クリーム、あいつは?」

「まだ未熟ですが、想いは誰よりも強かったと思いますよ。」

「なら合格だな。」


「俺は帰るが一つ忠告しておく。こちらの世界への影響も考えて神代市へつながるようにしてある。そこから虚無世界へ行きたいのならミロクという占い師を探せ。」

「分かったのです。」

「お前が来るときっとエクステラは喜ぶ。」

「有間さん、テラさんは、エクステラさんはどうしてますか?」

「ああ、あいつはあれから元気がないんだ。きっとこっちでのことを引きずってるんだろう。」

「そうですか。」

「まぁ、いいじゃないか。お前がそうすると決めたのなら俺だってテラだって何も言わないさ。」

そう言って、有間は帰っていった。



ミクルが旅立つ日になった。

「ミクル、支度はできたの?」

「はいなのです!」

「ミクル、大丈夫だとは思うがこのノートにある程度のことは書き記しておいた。」

「分かったのです。」

ミクルは二人に抱きついた。

「ママもパパも大好きなのです。だから、私は行ってくるのです。」

そしてついにミクルは旅に出た。


「ミクルちゃん!」

森に入る前で聞きなれた声で抱きついてきた。

「モモちゃん…」

モモの目には涙が浮かんでいた。

「大丈夫なのですよ。」

「ごめん、もう無理。」

モモは少し離れて後ろを向いた。

「あいつはお前の前で泣きたくはないんだ。最後かもしれないお別れがあんな顔でしたくないんだ。」

「モモちゃん…」

「俺も…その、寂しくはなるがモモと一緒にお前が帰ってくるのを待ってる。」

「ゼロ君…」

「あいつの泣き虫の治ってるといいな。」

「泣き虫じゃないもん!」

モモが振り向いた。顔は赤くなってて涙でぬれていた。

「ふふっ、2人の想いも背負って向こうに行くのですよ。だって、2人はパパやママよりも大切な大親友なのです!」

三人で抱き合ってお別れをした。


「あ、来た来た。もう大丈夫?」

泉では妖精が出迎えてくれた。

「大丈夫なのです。大切なものはミクルの心の中にしまってあるのです。」

「おーけー、ならこの光っているところに飛び込んで。」

泉には白く輝く穴が開いていた。

そこへ飛び込むと意識を失ってしまった。

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