異世界編 第4話 願いを叶える泉
あれからしばらく経った。私たちはあの一件からママたちの知り合いの魔導士の人のところで訓練をするようになった。
「ふぅ、今日も疲れたぁ。」
モモちゃんは地面に座り込んでいる。
「…その、大丈夫か?」
ゼロ君はあれから口数が増えていた。
「仕方ないですよ。」
二人とも気づいている。私があれからずっとあの事が気になっていることを。
「ねぇ!ミクルちゃん聞いてる?」
「えっ、ご、ごめんなのです。」
「もう!あれから元気ないよ。どうしたの?私たちの仲だからさ。話をしてくれてもいいんだよ。一人で抱え込む方が辛いからさ。」
「それが…」
私はあの時自分が体験したことを話した。
「ふ~ん、ミクルちゃんのママが偽物の勇者ねぇ。そんなこと考えたことも無かった。ねぇ、ゼロ君はどう?」
「全然」
「なら先生に聞いてみよっか。」
三人は屋敷の中へ入っていった。
「ローラ先っ生!」
「は、はひぃ!」
ローラ先生はびっくりしていた。
「何だ、あなたたちですか…」
「ふふっ、先生かっわいい。」
「モモさん、うるさいですよ。」
「はいはーい!ねぇ、先生。先生にとって勇者ってどんな人だったんですか?」
「え?そ、それはですね。とても勇気があって明るくて…そうモモさんみたいな人でしたね。」
「ふーん。じゃ先生。聞きたかったのはそれだけだから、じゃあね~。」
「あっこら。まだ話は…」
気づいたときにはもう三人はいなかった。
「確か今のミクルちゃんのママっておっとりした感じだよね。」
「そうです。とっても優しいママがモモちゃんみたいだなんて信じられないのです。」
「う~ん、そうなると何か裏がありそうだね。先生はうっかり屋さんだから話しちゃったっぽいけど、深く探ろうとするとばれちゃうし…」
「そうだ。泉があるのです!願いを叶えてくれる泉が森の中のどこかにあるらしいのです。勇者はそこで願いを叶えたって聞いたことがあるのです。」
「ふ~ん、面白そうじゃん。私たちも願いをかなえてもらいたいことあるからね。じゃ、侵入しちゃいましょうか。」
森へ入るとどこもかしこも同じような場所で方向感覚が分からなくなってしまっていた。
「ありゃ~、ここどこかな?完全に迷子だね~。」
「ふざけてる場合じゃない。」
「ゼロ君、そんなこと言われなくたって分かるよ。こういう時は焦ると余計迷うものなの。だから、少しでも気持ちを明るく持たせようと…」
ミクルは二人の問答を聞いていると突然謎の声が聞こえた。
(勇者よ、声も聞こえるほうへ来るのです。)
ミクルは走り出した。
「あ、ちょっと。ミクルちゃん?」
それに二人も急いでついて行った。
「どうしたの?急に走り出して…」
「声が聞こえたの。」
「声?」
二人は分からないような顔をしている。
「ま、ミクルちゃんに聞こえたのなら信じるよ。それにミクルちゃんだけに聞こえるってなんだか選ばれた勇者みたいだしね。」
三人はそのまま森を突っ切っていった。すると開けた場所に大きな泉があった。
「すごい。本当にあった…。」
二人が驚いていると、突然光に包まれその中から女性が現れた。
「いったい誰ですか?ここに普通の人は来れないはず…ん?」
「あなたが妖精さんなのですか?」
「これはまた珍しい人が…って、なんでこんなところにいるんですか?」
「ミクルたちは願いをかなえてほしいのです。」
「ほうほう、私としてはもう役目を終えてるんだけどね。ところでどうやって来たのかな?」
「声が聞こえたのです。」
「(あちゃ~、伝声魔法の解除のし忘れが…)…ん~、そのことお母さんには内緒にしてくれるかな?だったら、サービスで一人一つまで願いをかなえてあげるよ。」
「もちろんなのです。」
「じゃあ、そこの子から。」
妖精はモモを指さした。
「私はね、もっともっと頑張れるようになりたいな。あの時だって体の限界で心だって折れちゃってた。もっと力も心構えも強くなりたい。」
「はいはーい。はい、と叶えたよ。」
「うーんと、分かんないけどきっと強くなってるよね。」
「じゃ次ね。」
妖精はゼロの前に立った。
「…力の制御。あの時あいつに言われた。どれだけ強い力を持っていても制御できなければ意味はない。」
「よっと!はい、叶えたよ。」
「…」
「じゃ、最後。」
妖精はミクルの前に立った。
「願いはないのです。ただ、ママと勇者のこと、あの時の力のこと、それにミクルの中にある知らない記憶…全部教えてほしいのです。」
「…やっぱりそうだよね。う~ん、口封じされてるけど契約上それが願いなら叶えないといけない。私では全て教えきれない。それでもいいなら教えてあげる。」
「まずはママと勇者のことを教えてほしいのです。ママは偽物って言ってたのです。あれってどういうことなのですか?」
「う~ん、あなたのママは正真正銘あなたの母親。だけど、勇者は別にいるの。別世界から来たエクステラという子。あの子は二度世界を救った。だけど、存在自体がややこしくてこっちの世界に住み続けることは不可能だった。だから、勇者は考えた。好きな男の子が幸せになるためにはどうすればよいか、その願いの結果があなたのママなの。」
ミクルは驚いていた。それを見たモモが続けて質問した。
「じゃあさ、ミクルちゃんの本当のお母さんの存在って…」
「それはあの力について説明しないといけないね。あの力は虚無の力と言ってある兄妹が生みだした悲劇の力。物を消したり、存在しないものを作り上げたりできる力。ただあの力は条件が厳しい上にデメリットが大きい。強い意志や自我がない限り飲み込まれて消えてしまう。」
「そんな危ない力をミクルちゃんが…」
「ミクルは条件を満たし、更に元の血縁ということもあって強い耐性があると思われるから使っても大丈夫。問題なのはあの時のテラの方、彼女は創造の…………ちょっと言い過ぎたかな、今のは忘れて。」
「この力を使うにはどうしたらいいのですか?あの時の声は感覚が大事みたいなことを言ってたのですが、あれからあの感覚がつかめないのです。」
「その辺は私の管轄外。私にも分からない。だけど、もう一つの質問の記憶はどんなのを見たの?」
「あれは…ママに似てる人とパパに似てる人が歩いていたのです。」
「それはあの方かもしれないわね…。」
「あの方?」
「この世界を創った創造神アルマ様とその妹ミリ様。」
「この世界を創った?」
「あ…………こ、これはその!(やっば、トップシークレット出しちゃった。どうしよう!)」
「はぁ、まったく。そこまで言うなんて…」
そこにはミクルのママ、テラがいた。いつもと雰囲気はまるで違う。とても怖かった。
「あ、あの。これは有間様との契約でしてね。答えるしか…」
「元と違って私にはあなたを叱る権限なんてないからもういいよ…。」
「マ、ママなのですか…」
「どこまで知ったの?」
「…それは…」
「この世界のイレギュラーとなりえる知識を植え付けるなんて…」
「…」
もう誰も何も言えなかった。
「ママ、本当の勇者はママみたいに優しいのですか?私はそれだけが知りたいのです?」
「…それは…私には分からない。だけど、あなたたちが集めた情報でどんな人かはわかるんじゃない?」
「うん、分かったのです。」
「よし、お説教は終了。さぁ、帰るよ。」
テラは三人を連れて森の奥へと入っていった。
「ふぅ、危なかったぁ。」
「全部自業自得だ。」
一息つく妖精の前にはイルマが立っていた。
「会わなくてよかったんですか?」
「今回はあの一件だからな。どのみちあの情報は教えてよかった。やらなきゃいけない理由が増えたからな。ところでどうだ?」
「あ、あれは有間様が調整中です。こちらの中にいるだけでは影響はありません。そのうち、可能だと思われます。」
「そうか。後は俺たちの決断というわけか。」
イルマはミクルの後姿を眺めながらそう言った。
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