異世界編 第3話 小さな勇者の誕生

少し前に遡る。モモはぼろぼろになりながらもドラゴンの攻撃から身を護っていた。

「はぁはぁ…」

(どうした?動きが鈍いぞ。)

ドラゴンは手でモモを薙ぎ払った。モモは何とか盾で衝撃を緩和したが盾は弾き飛ばされてしまった。

(これで終わりだな。)

「そう見える?」

(食い殺してやろう。)

ドラゴンは大きな口を開け迫ってきた。

「…油断、大敵だよ!」

モモの持っている剣がとてつもない大きさになった。

「―ギガソード―!」

大きな剣がドラゴンの頭蓋骨を破壊する。頭がばらばらになったドラゴンは動きを止めた。

「やった…!私…やったんだ。」

モモはあおむけに倒れた。もう体力の限界でこのまま寝てしまいそうだった。次に目を開けた時、目の前には大きな骨の手が覆いかぶさっていた。そのままその手に叩き潰されてしまった。

(油断大敵とは、よく言えたものだ。)

「うっ…くっ!」

もう体は言うことを聞かなかった。

(わしは不死身だ。だが、お前はよく頑張った。それを称してわしがお前を亡者にしてやろう。骨の姿のまま動き、わしの兵士となるのだ。)

ドラゴンの口に黒いものが溜まっていく。

「ごめん、私もうだめかも。でも、よかったかな。親友に大好きな男の子もできたんだから…。」

モモが覚悟を決めた時、声が聞こえた。

「情けないわね。私の修業が甘かったのかしら。」

薄れる視界の中見たのは母の後ろ姿だった。


「さて、しつこいわね。」

「うん、私は会うのは三回目。私に任せて。」

白髪の女性は笑顔でつぶやいた。

(お前は!わしを二度もコケにしよって!)

ドラゴンは大きな手を振りかぶった。

「遅いよ。」

白髪の女性はそれを華麗によけ、腕を切り裂いた。

「これで終わり! エクスライト!」

右手が金色に輝きその光がドラゴンを襲った。

(わしが二度までも消し去られるとは…!)

「二度目はもうないよ。今度は骨までも消してあげる。」

ドラゴンは光の中に消えていった。


気がつくと目の前にはお母さんがいた。

「わ、私…」

「落ち着いて、体はもう大丈夫だから。」

青髪の女性が話した。

「あれ?ゼロ君のお母さん?!」

「全く。馬鹿な子供を持つと大変ね。」

金髪の女性が言った。

「お母さん?!どうして…」

「村の外に出て行くあなたたちを見た人がいて教えてくれたの。」

白髪の女性が教えてくれると少し安心した。

「そうだったんだ…。それより2人が先に…」

「分かってる。だから先へ進むよ。」

「何年振りかな?こんな冒険するのは。」

「あれ以来じゃないかしら?」

「うん、私たちが出会った冒険以来…」

「さぁ、進むよ。準備はいい?レイちゃん、ラウラちゃん。」

「ああ、できてるわ。」

「うん、大丈夫。」


ゼロはかなり優勢だった。

「どうだ?俺には母さんやお前よりもさらに強い魔力があるんだ。」

(確かに妾やレイよりもさらに強い氷じゃ。しかし、)

その時、細い氷がゼロの手足を拘束した。

「なっ」

その瞬間に大きい氷がゼロの下半身を覆った。

(力は強いが制御ができないようでは妾の足元にも及ばぬ。力というものは制御できてこそ初めて役に立つものじゃ。)

「く、そ…」

(その氷は永久に再生する。いくら吸収できようが終わりじゃ。)

「もうだめか。はは、俺はいつも後悔する。自分の意見なんて誰にも言えない。そのままいつも終わる。だから、最後にあいつに想いをぶつけられてよかった。一つ心残りがあるとすれば、あいつに、モモに想いを伝えられなかったことか。」

ゼロは今までのことを思い出した。これも走馬灯なのかもしれないと。

「あいつはいつも俺の気持ちを理解してくれた。ああ強引に見えて、誰よりも人のことを考えてる。俺の伝えられない想いを代弁してくれたりもした。俺は伝えられなかった、あいつが好きだって想いを…」

薄れる意識の中、懐かしい声が聞こえた。

「ゼロ君、だめ。まだ…」

視界がもうろうとする中確認できたのは涙を流すモモだった。


「あの人、まだ生きていたのね。」

レイはため息をついた。

「あのドラゴンといい、しつこいなぁ。」

テラは武器を構える。

「ラウラちゃんは二人を護ってて」

「分かったわ。」

(おのれ!貴様らはもう逃がさぬ。)

強い冷気が襲う。

「私の前でそれは無意味…」

レイが手をかざすと冷気はやんだ。

「ありがとう。じゃ行くよ。」

テラは大きく飛び、左手をかざした。

「クロスダーク!」

左手が黒く輝き、そこから無数の黒い魔法が放たれる。

(くっ、妾はまだ消えぬ。この恨みがある限り…)

氷の結晶は粉々に消え去った。


「ゼロ君!ゼロ君!」

ゼロが意識を取り戻すとモモの膝の上で目覚めた。

「モモ…おれは…」

「大丈夫、言わなくても。私も今回のことで気づいたから。」

「ふっ、いつもお前はそうだ。誰かの為に真っ先に前に出て、」

「分かってる。私だって怖いんだから。ゼロ君がいるから安心できるの。」


その光景を三人が見守っていた。

「昔のテラお姉ちゃんとイル君みたいだね。」

「えっ、あんな感じに見えてたの?」

「ええ、そうね。」

三人は団欒をしていたが、そんな状況ではないことを思い出した。

「いけない。先に急がないと!私の想定だと奥にまだ…」

三人は急いだ。

「ゼロはまだ動いちゃダメ。あなたの許容魔力を大きく上回ってるんだから。」

「でも、まだ…あいつが」

「大丈夫。ゼロ君は私が背負っていくから。」

そして五人は先へ急いだ。


「行き止まり?」

未知の先には壁があった。

「そんなはずはない。きっとこの奥に空間があるわ。レイ、共に攻撃…」

「だめ。」

ゼロを背負ったモモが遮った。

「お母さん達は力を温存しておいて。」

モモはゼロを下しそう言った。

「ああ、ここは俺たちでやる。」

二人が見つめあう。

「行くぞ、モモ。」

「うん、合わせるよ。」

ゼロが地面を触る。

「―フリーズ・クライスト―」

地面を伝わり、壁が凍りだす。

「行くよ!全身全霊!全力フルパワーの~」

モモの剣が自分の身長と同じくらいの大きさになる。

「―ギガグラソード!―」

剣を振ると大きな音を立て壁は崩れ去った。

先には空間があり、真ん中でミクルが倒れていた。

「ミクルちゃん!」

全員がミクルに駆け寄ろうとすると見えない壁に阻まれた。

(久しぶりだな。勇者よ。)

「あなたは確か…」

(我はカースゴースト。貴様に倒されたものだ。)

「…なんでミクルに手を出すの?彼女にはあなたの求めるような力はないはずよ。」

(我が欲しいのは力ではない。勇者への復讐の機会だ。)

「残念だったね、あなたの求める勇者はもういないの。私は彼女の幸せのためのコピーだからね。」

(コピーだと!だが、そんなお前でも我が復讐になるだろう。我は自分の力が馬鹿にされてそのままやられた自分が憎いのだ。だから、勇者への恨みで強くなった。それさえ証明できればもうよい。勇者ですら敵わないからな。)

「そう、あなたの頑張りはもう無意味なの。」

(本当にそうか?お前が勇者の望んだ幸せならそれを壊す。それだけでも復讐にはなる。)

「もう話しても無駄みたいだね。」

(もとよりやめる気などない。この娘を使ってお前を絶望させる、それだけだ。)



私が目覚めると真っ黒な空間にいた。

「私はダメだった。」

「誰なのですか?」

何処かから声が聞こえる。

「私は弱い。誰の役にも立たない。」

それはそうだった。私はみんなに守られてばかり。

「私には何の力もない。モモちゃんにだってゼロ君にだって力はあった。」

「…」

「みんな私のせいで傷つく。みんな私を護って死んでく。」

「…うるさい…」

「モモちゃんだってゼロ君だってママだって…」

「うるさい!」

「だってさ…

私が強ければモモちゃんだってかばうことはなかった

私が強ければゼロ君だって守れた」

「…!」

その通りで何も言えなかった。モモちゃんは自分の強化が出来たり物の大きさや重さを変えることができる。ゼロ君は氷の魔法が使える。それなのに私は何もできない。柔らかくする魔法だって戦いでは役に立たないし、運動能力が特に高いわけでもない。

「そうでしょ。なのに、私は護られてばかりで胸を張ってるのはおかしいよね。」

「…」

「勇者の娘って言われてるのにおかしいよね?」

「…」

「だってそうだもん。ママは勇者じゃないから。」

「え…」

「私は知ってる。私の本質は知ってる。ママが偽物の勇者だってこと。」

「なんで…」

「だからさ。私は特別じゃないの。」

「どうして…」

「だからさ、

特別になろうよ。」

「特別に…?」

「そう、私のママは偽物だけど私は本物の勇者の子。勇者の力を秘めてる。私は知ってるよ。」

「どうやったらその力をもらえるのですか?」

「そう。私と一緒に堕ちよう。心の奥底へ。何も考えなくてもいい、虚無の領域へ。」

「虚無の…領域…?」

「でも、流されちゃダメ。私が消えるから。全部守りたいなら、強い意志を。消えないモノを。」

「私の強い意志。」

私の中にある強い意志。そんなものは考えたことはなかった。何気ない大切な日々。それは大切だけど、強い意志にはならない。だけどみんなを守りたい、そんな気持ちを抱えながら声について行った。



先ほどまで苦しんでいたミクルが急におとなしくなった。

(はっはっはっ、遂に我が物になったようだな。)

「ミクルをどうしたの?!」

(ヤツの中に我が分身を刷り込んだ。心の弱さをつき、ヤツの心を消すためだ。)

「そんな…」

テラは悩んでいた。あの力を使うかどうか。

「テラお姉ちゃん…」

「テラ…」

「…………決めた。もう失いたくはない。」

テラから翼が生える。あの時の技だ。

「ばか!今その力を使ったら…」

「私は消えるかもしれない。だけどもうこうするしかないの。」

大きな剣を取り出し、力をためる。

「テラさん!」

後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。

「イル…君…どうして…」

「テラさんは一人じゃない。僕が、みんながいます。だから、そのためにその力を…」

みんなのことを思うと不思議と心が軽くなった。

「大丈夫。みんなの為に!」

「―エクス・クロス―!」

テラの剣は透明な壁を破った。

(なっ、その力は!)

「ははっ、やった…よ…」

テラは気を失ってしまった。

「テラさん!」

(くそっ!ならこの娘を…)

その時、カースゴーストは気づいた。ミクルは自分の手に落ちていないことを。

(な、ならなぜこの娘は…)



私は真っ白な空間にいた。

「ここは…」

なんだか心地よい気分になる。このまま消えてしまいそうだった。

「もういいのです。こんなに気持ちがいいなら…」

その時、映像が流れてきた。パパみたいな人とママみたいな人が楽しそうに歩いている。でも、パパとママとは違う。なんだかとても不思議な感じだった。

「あの人たちは誰なのですか?」

その映像を見ていると何かうずうずするような感覚が沸き上がってきた。

「この感覚は、何なのですか?」

あの時の声が聞こえてきた。

「勇者になるためにはその感覚を忘れないこと。その感覚を自由に引き出せたら勇者の力は…」

その時、急に感覚が鮮明になっていった。


「ミクルちゃん!」

ミクルが起きるとみんながいた。

「…」

ミクルはあの感覚のせいでぼーっとしていた。

「ミクルちゃん、もしかして…」

「いや、それはない。あいつが慌てているからな。」

そして空を見上げるとうっすらと何かが浮いていた。

「守らなきゃ…いけないのです。」

ミクルが剣を抜くと剣は透明になった。その剣を振るうと空に浮いているものは消滅した。

「なっ、その力は…」

「エクステラお姉ちゃんの…」

ラウラとレイは驚いていた。モモとゼロは何が起こったのかも知らずにミクルを心配していた。そしてイルマは…。

「ついにこの日が来たか…。テラさん、いやエクステラさん。待っていてください。」

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