末離編 外伝4 セイジンノヤクメ コントンノザイニン

「いない…のかな?」

私はとある寄り道をした。黄泉の世界、地獄と現世をつなぐ世界だ。地獄に来る前にここにいた人に励まされた。花を売っていた白い髪で着物姿のお姉さんだ。

捜し歩いていると人にぶつかった。

「おっと、すまないね。」

「いえ。」

僧衣のようなものをまとった大柄の男の人だった。

「君、何か探し物かね?」

「え、ええ。この辺で花を売っていた女性を探していて…」

「ふむ、私の知り合いにいるが何の用かね?」

「お礼を言いたくて…」

「ほう、ならどうだ。うちに寄って行かないか?」

「えっと…」

「この辺りでは顔が利くんだ。どうだ?」

その後男は小さな声で囁いた。

「地獄から来た、なんて聞かれたくないだろ。」

私は問題を避けるためにその男についていった。


「ほお、そうなのか。地獄で修業してきたと。勘違いしてすまなかったな。さすがの私にもそれ程過酷な修業はしないからな。」

男は笑いながら話してくる。

「私はその女性の人に勇気づけられてできたんです。だからお礼を言いたくて…」

「もうこの世界にはいないよ。」

「え?」

驚いた。あそこまで優しい人だと天国行ではなく輪廻転生だろう。

「そうですか。もう会えないのか…。」

「いいや、あいつは転生したんじゃない。うちの跡取りと一緒に現世へ行った。」

「え?」

「君も行くつもりなのだろ?好きで地獄なんかで修業する奴はいない。それに君には未練なんかよりよっぽど強い執着を感じる。それに生気もな。」

「…」

「何のために修行したのか教えてくれると嬉しいよ。私はこう見えても引退したが僧でね、相談事を聞くのは得意なんだ。」

私は今まで自分が体験したことを話した。

「ほう…」

「あなたは同じような立場のお姉ちゃんがどんなことを私にしてほしいと思ってるか分かりますか?」

「私は彼女じゃないからまったく同じことは言えないが…、少なくとも君に期待をしていることは間違いないよ。」

「え?」

「私も唯一の娘が男仕事である僧を継ぐと言って、最初は無理だと思いながら稽古をつけてきたがいつの間にか立派な僧になった。似合わないと思っていても、適性は本質に隠されてる。彼女は君の中に眠る優しさを最初から知っていたんだろう。いくら我儘で甘えん坊で暴走しても、君の中にある優しさを信じて優しく接してきた…、私はこう思っているよ。」

(そっか…私は無邪気でまったく気にしていなかったけどお姉ちゃんは本当に私を信じてくれていたんだ…)

私は涙を流していた。弱さを捨てた私が。

「涙は弱さじゃない。自らの意志だ。それは心の強さだ。」

「分かりました。私強くなります。もっともっと。お姉ちゃんがもっと私を頼ってくれるように。」

「私も応援するよ。それにうちの跡取りに逢ったら伝えておいてくれ。“彼女を大切にしろ”とな。」

「ありがとうございます。私、神代末離って言います。」

「ああ、名前がまだだったな。私は南条想慈だ。」

私はその人に別れを告げて、現世へ戻った。

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