末離編 外伝2 マザリアウ ボウショク

私は更なる力をつけるために地獄へ来ていた。

「お前は何者だ!」

踏み込んだ瞬間、獄卒と思わしき怪物に囲まれた。

「私はここで罰を受けないといけないの。」

私がそう答えると、どこからか声が聞こえてきた。

(その者を通せ)

その声が聞こえると獄卒たちは散って行った。


しばらく進むと大きな宮殿のような建物が見えてきた。

「神代末離だな…入れ。」

建物の前にあるとても大きい門が開いた。それでも私は希望を胸に進んだ。


「なに?地獄で修業したいだと…」

男の声がそう聞き返す。たとえ閻魔であっても驚くだろう。罪を償うための場所に自ら入るとは。

「神代末離…お前は地獄行ではない。お前の中にあるソレには地獄行を渡す予定だったが、お前自身も入りたいと申すか。」

「うん、もう決めたの。私は強くなりたい。そのためには自分の力を克服しないといけない。そのために地獄で自分と向き合おうと思ってる。」

「ならいいが、地獄はお前が思っている以上に苦痛だ。それで本当にいいのか?」

「うん。」



「ここが地獄…」

そこは見渡す限り広がる荒野だった。

「え?」

目の前には大きな蛇がいた。大きな蛇は一瞬にして私を丸のみにした。

生暖かくて柔らかい壁に挟まれていた私は体に違和感を感じた。

「…っあ!ああ!」

まずは全身がかゆくなりはじめ、徐々にそれが痛みへと変わっていった。

そう、私は溶かされていっていた。徐々に痛みすら感じなくなっていた。そして私は意識を失った。


気がつくと荒野の真ん中で倒れていた。

先ほどまでの痛みは嘘のように消えていた。

ここが食べられることを繰り返す地獄と分かった。今までワタシはたくさん食べてきた。つまり食べられる者の苦しみを知らなくてはいけない。そのための地獄。


それから私は何度も食べられては生き返った。熊に左手と両足をかみちぎられて苦しみながら死んだり、大きな犬に心臓を食べられたり、寄生虫に脳を食べられたりした。それにも慣れ始めたころ、運命の出会いをした。


私がさまよっていると小さな犬がいた。体はぼろぼろでやせ細っていた。

(この子も私を食べるのかな…。でも…)

私は思った。この子はまだ子供。この暴食の世界で生きられないことを。

「ほら、私を食べてもいいよ。」

あの子は昔の私に似ている。周りに押しつぶされて食べることを拒んだ。今の私はもちろん違う。あの悪魔に裏切られた時から食べることを受け入れた。

「う~ん、食べないな…どうしよう。」

悩んだ結果、私はまず自分の左手に嚙みついた。手からは血があふれ出してくる。

「ほら。」

そう言って私が手を差し出すと、私の血を舐めはじめた。

この時から決まっていた。私はこの子と一緒に強くなると。

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