今期の悪役令嬢は君か

次の日、ハラ料理長がやってくるのに備えて、ミシェイルはいくつか質のいい野菜や果物を用意していた。ミシェイルとしては全て生で食べてもいいものばかり作っている自信がある。

いつもの納品するものと、新しく売り込みたいものをカゴに分けて、満足気に頷いた。



「今回もいいできだわ」

「もちろん、姫が作ったものですから」



隣で一緒に作業を手伝っていたジュダスがキラリとした笑顔で頷いた。

シェーナはハラ料理長が野菜を使って簡単に調理をしたいと言ってくる時のために台所を整え、薪を用意してくれている。



ミシェイルは窓の外をながめたり家の中をうろうろと歩いたり、落ち着かない気持ちだ。やはり自分が作ったものを評価してもらえると嬉しいし、作りがいもある。さらには唯一の外の世界との接点でもあるので、のどかで事件なんておきない田舎暮らしとしては、ハラ料理長の来訪はちょっとしたイベントだ。


そうこうするうちに、窓の外から馬車が見えてミシェイルはすぐに外へ出た。

いまかいまかと待ちわびていると、だんだんと馬車が近づくにつれてあれと首をひねる。いつもより馬車が立派な気がする。



「え?馬が多い?護衛までついてる?」



馬車は3台に及び、周りはぐるりと護衛の騎士が取り囲んでいる。ハラ料理長の馬車かと思ったら違うのか、と思ったがどう見てもうちへ目掛けてやってきている。


すると異変を察知したのかジュダスとシェーナも家から出てきて、ミシェイルをすっと後ろへ下がらせた。



「もう姫のお迎えがきたのか?そのような連絡はきていないが」



などと呟くジュダスを胡乱な目で見た後、絶対に突っ込むものかと無視をして二人の間から馬車の様子をながめる。

ついに家の前でとまった馬車は、三台のうち最後方から侍従のような人がまず出てきて、最前の馬車の扉をあけた。出てきたのはハラ料理長だった

そして次に中央の馬車の扉をあけ、うやうやしく侍従が手を差し出すと、その上に小さな手が置かれた。それは美しい黄金の縦ロール、猫のようなつり目、ブルートパーズの瞳をもったお人形のごとき幼女が現れた。


幼女はそろりそろりと馬車から降りるて地に足をつけると、まず目の前にいるジュダスとシェーナに目をとめた。不思議そうに首をひねり、そのあとミシェイルが視界に入ると大きな目がさらに極限まで開いた。

しかしすぐに頭をふって意識を取り戻すと、まるで悲壮な決意をもって挑むが如く真剣な顔で挨拶をした。



「はじめまして、みなさま。本日は突然の訪問、誠に申し訳ございません」



恐らくミシェイルとさほど変わらない年齢の幼女は、流暢に謝罪を口にした。

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