誰だ、私の居場所を教えたのは
「突然の訪問、誠に申し訳ございません」
いや、簡単に頭下げないで、とミシェイルはぽかんとなにも分かりませんという三歳児らしい表情を見せながら心中呟く。一歩下がっている侍従も眉を寄せて、こちらを忌々しそうに見た。
私のせいではないと言いたい。
「レナリア・クルストンと申します。本日はわたくしが懇意にしているハラ料理長から、美味しいお野菜を育てておられる農家があるとお聞きし、ぜひお会いしたいと思いこうして無理について来たしだいです」
いやだから幼児であることを放棄しすぎですよ、と内心突っ込み、空気と化しているハラ料理長をキッと睨んだ。ハラ料理長は気不味そう目を泳がせながらすまん、と口だけ動かした。
ハラ料理長には自分のことは伏せておいて欲しいと伝えてあったのだ。美味しい野菜を作る子供などどんなやからに目をつけられるかわかったものではない。王都から若干離れた場所で農業をしているのもそうした理由があるからだ。
しかし、権力者には逆らうことができなかったか。
ミシェイルが誰にもバレないようため息をついていると、ジュダスとシェーナは当然のように膝をついた。ミシェイルもしゃーなしにつこうとしたが、そこは二人に止められた。私はあなた方と家族ですよね?
「公爵家の方とは知らず、ご無礼を致しました。この家の農家は私、ジュダスと妻のシェーナ、そして畏れ多くも私たちの御子となるミシェイルです」
自分たちの子供に対して言葉が不自然であるとはかけらも思わないのだろうか。ハラ料理長は慣れているため気にもしていないが、あちらの侍従や護衛騎士たちが不審な顔でこちらを見ている。しかし、レナリアお嬢様だけはまるでなにもかも分かっているかのように重々しく頷いた。
「こちらで作る野菜は全て、ミシェイルが御自ら主となって手がけていらっしゃるものです。我々はその一助をしているに過ぎず、全ては彼女の功績と言って差し支えありません」
差し支えのある言葉だらけであるが放っておく。ここまで来てしまったからには仕方がない、とミシェイルはこれかれの人生設計をほとんど諦め、家の中へ案内することにした。
「お父さん、お母さん、お野菜を見に来た人たちなら中に入ってもらおう」
「まあ、そうですわね姫。ではみなさん中へ。小さな家ですので護衛の方は二名ほどにしてくださいね」
「姫……?」という侍従の呟きが、とても常識的過ぎてミシェイルは敵意を持たれているにもかかわらず自分のよき理解者であるような気持ちになった。
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