第5話最後はひとりと言うのなら

ある意味高嶺の花、孤高のアイドル的な倉敷に気に入られた幸成は、ついぞ仲良くなってしまってはや数ヶ月。

奇行にも慣れてしまい時々布団の中でクスクス思い出し笑いをしてしまう始末。

これは、まずい状況なんじゃ。

そうは思っても、ふたりで寄り道が当たり前になってしまっていた。


「それでねー」

「…その話なげぇ」


今日も今日とてふたりで寄り道。

ブレザーを脱いで鞄に適当に詰め込んだ幸成に対して、倉敷はきちんと着こなし陽気な日光を浴び無駄に煌めいていた。

道行人が振り返るのも納得の煌めき感である。

そうして年相応、くだらない話を行動を繰り返す。

それがまた具合がよろしいのだ。

奇行以外はすべて良いのが倉敷暁の恐ろしいところであった。


本屋に行っても、ゲーセンに行っても、カラオケに行っても、どこで遊んでも、ご飯を食べても、イケメンは何をしてもイケメン。

そして性格も良く相性も良く、大変気が合うのだ。

最早なにが嫌だったのか、分からなくなるほど幸成は倉敷に慣れ親しんでしまっていた。


そして今、倉敷が見たと言う夢の話を延々と、アイスを食べながら聞かされている。

巨大かたつむりが牛蛙と交配しようとし、かたつむりは牛蛙を結果食べて受胎。

体内から蝶蝶が産まれて…。

倉敷の夢としてあり得る展開に、長いと愚痴を零しながらも幸成は耳を傾けていた。

食べていたバニラアイスが一口欲しいというので与えつつ、食べつつ黙々と。

夢の顛末は結局人間が産まれて社会に馴染めず先祖帰りするで結ばれる。

本当に倉敷らしい展開だ。


というか、その見た目でなんちゅー…夢をと幸成はアイスをひと舐め甘くて冷たくて美味しい。

そろそろ倉敷の食べているチョコミントが食べたいところだ。

幸成はそれに気づいてはいどうぞ、アイスを差し出してきた。

悟りが過ぎて幸成は身震いした。

最近こちらの全てを見透かすような行動をする。完璧な執事と言えば良いのか相手は同級生。幸成はチョコミントのアイスをひと齧り、思ったことを口にした。


「…お前人間か?」


誰かが理想論を実体化させた生き物、と言われても納得できる。

ギャップの為に狂っている設定だと言われれば、そうかもしれないと思うほど。

魔改造されたフィギュア的な生き物のようだ。

それくらい完璧で怖い。


「どこからどう見ても人間だよ」

「なんか完璧すぎて怖ぇえ」

「そんなことないよ、ぼろぼろだよ」

「どこが」


始めて嫌みに聞こえた。

癇に障って声色は強張った。

チョコミントが苦く感じる。

仕方のないことだ。


「君のこと、愛が過ぎて色々限界」

「…は?」


愛が過ぎて?

理解し飲み込む前に倉敷は幸成の手を取り、どこかへ行こうとする。

その方向は知っている。

ラブホテル街だ。

急展開すぎてなにもかもがおっつかない。

これは、ちょっと、待て。

足取りを重くさせるが、完全な抵抗に出ない自分が理解できない。


「今すぐホテルに連れ込んで制服のまま拘束してから」


アイス美味しいね、と発した喉から出ている言葉なのだろうか。

次々と欲望を吐露しだす倉敷に、幸成は唖然とした。

そうして手を何とか振り払い、逃げ出した。


「や、ちょ、考えさせろぉっ」

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