第四話

 ――お姉ちゃん!


 目の前に駆け込んで来たメガネの女の人は、間違いなくお姉ちゃんだった。


 お姉ちゃん、お姉ちゃん! お姉ちゃん!!


 普段は絶対に見せない、凄く切羽詰まった顔をしてる。髪なんかバサバサに乱れてるし、滴るくらいに汗も掻いてる。こんなお姉ちゃんは、いままで見たことがないよ。


 お姉ちゃんは私を見て安心したみたいに短く息を吐いて、だけど耳に当てたスマホをそのままで、腰を落として両脚を踏ん張って、私を齧っている電車の乗降口に空いている手を掛けた。

 なにをするのかと思ったら、お姉ちゃんはギリッと歯を食い縛ってそれを無理矢理じ開け始める。

 なにかがガリガリだかゴリゴリだか音を立てたかと思ったら、その乗降口がゆっくりと開いて行った。

 そればかりじゃなくて、お姉ちゃんが触っているドア部分から、なんか白い煙が出て其処が融けている。


 というか、これってなんかおかしいし、本当にそれなのか疑わしいけど、だけど一応電車だよね? それの乗降口を片手で抉じ開けるお姉ちゃんって、どんなアマゾネスなの!?


 そんな疑問を言ってみたら、「少女の半分は謎で出来ているの」とか、惚れ惚れしちゃうくらい良い顔で言っちゃってるし。


 ……なるほど、お姉ちゃんはアスピリンやイブプロフェンが配合された、市販の鎮痛剤だったのか。残りの半分は優しさかな?


 でもねお姉ちゃん、こういうときになんだけど、女子高生から乙女になって、其処から淑女にジョブチェンジしたかと思ったら今度は少女なの?

 謎がいっぱいの少女って、それってどんな美少女戦士なの? 自分で「美少女」って言っちゃう痛い人で、月に代わってお仕置きというていの爆破をしちゃうの? 動きづらそーなタキシードに邪魔でしかないマントを付けた人は何処かにいるのかな?

 それとも魔法少女なの? 絶対お前が諸悪の根源だろうってことを仕出かす空飛ぶ縫いぐるみは何処? パンヤを全部引き出してあげるから。


 というかこんなミラクル見せられたら、真顔でそう言われたって信じちゃうよ!


 それにしてもお姉ちゃん、担任とかに呼び出されてたんじゃないの?


 え? 校長がお父さんの知り合い? 言っちゃうと色々問題あるからお互い黙ってたけど、生徒の主体性を損うみたいなロクでもないことをそのバカどもが仕出かしやがりそうだったから、流石に黙っていられなくなった?


 えーと、お父さんって、どんなモンスターペアレントなの?

 まぁでも普段は学校側に一切文句とか言わないし協力的みたいだから、ちょっと違うか。


 で、延々と説得されてるところに校長が来て、決めるのは本人であって学校側じゃないって言ってくれて、やっと解放されたところでお母さんから電話が入って、取り敢えず全力疾走して来た?


 走ったって、えーと……ちなみにお時間どれくらい? 


 ……五分!? 歩いて二〇分の道を、ランニングシューズじゃなくてローファーで!? しかも鞄を持って電話しながら!?


 うわぁ、どうしよう、超人がいるよ。然も私のお姉ちゃんだよ。一生掛かっても勝てそうにない人がめっちゃ身近にいるよ。


 これってドッキリじゃないよね?

 凄~く現実離れしてるけど、残念ながらの事実だよね?

 リアルで現実なんだよね、隠しカメラなんか無くて、リアルなガチの事実だよね?


 実際にあんな目に遭って、でも現在進行形でそれが継続中なのに、凄く現実味のない出来事みたいに感じる。

 多分だけど、私自身がこの出来事を許容出来ていないんだ。


 そりゃそうだよ。


 幾ら他の人とは違って、視えない人が見えちゃうっていっても、私にはなんの力もないんだよ。


 お父さんやお姉ちゃんみたいに視えない人を追い払ったり消したり出来るわけじゃないし――

 お母さんみたいに地味に迷惑を掛けて来る妖怪さんをシャイニング・ウィザード一発で文字通り沈めてからの説教なんて出来ないし――

 弟くんみたいに動画を観ながら截拳道ジークンドーの型をやるフリをして飛んで来るなにかを寸勁で打ち抜くことも出来ないし――

 アスターくんみたいに吠えるというか、色々籠もった咆哮ハウリングで色々追い払うことだって、出来ない。


 ――私、なんにも出来ない。


 なんだか自分が情けなくなって、泣けて来た。


 みんな凄い人達なのに、家族なのに、なんで、なんで私は、こんなにもなんにも出来ないんだろう。


 ううん、そうじゃないよね。私が出来ないのは、仕方ないんだから。


 そんな私を、お姉ちゃんはそっと抱き締めてくれた。


 そして耳元で、優しい声で「大丈夫」って言ってくれて、そしてすぐに離れてから、笑顔で「なにごとにもエサは必要だ」って言い切った。


 ……………………………。


 ……言い切っちゃったよ。


 私をエサだって。


 こういうときは怒って良いよね?

 ううん、怒るよね。

 当たり前に怒るべきだと私は思う。

 そして殴って良いよね?

 弟くんに強請ねだって、遊び半分で寸勁教えて貰ってたし。


 まぁ弟くんはなんか照れててやりにくそうだったけど、なんだかんだでちゃんと教えてくれたからちょっとは出来るよ。


 だけど、お姉ちゃんのウソか本当か判らない軽口を聞いて悲しい気持ちが一気に冷め、そしてお姉ちゃんもそれが判ったのか、また私をギュッと抱きしめる。


 お姉ちゃんの匂いがして、とっても落ち着く。


 そういえば、子供の頃に私が夜中に寂しいって泣いてたら、決まってお姉ちゃんがこうしてくれた。


 凄く小さい頃、それはきっと物心つく前って言われている頃のこと。


 あのねお姉ちゃん、実は私、知ってるんだよ。


 私が――お父さんとお母さんの本当の子供じゃないって。


 そもそも計算が合わないよね。私の誕生日が一月で、一つ下の弟くんの誕生日が七月って。

 そんなに早く生まれるワケないでしょ。お父さんの隠し子っていうんならいざ知らず。

 まぁお父さんにそんな度胸ないだろうし、そもそも娘の私から見ても二人のイチャラブぶりは常軌を逸していると言っちゃっても良いから、その可能性はないよね。

 ホント、よく家族が増えないもんだと、そっちの方が不思議でならないけど。


 そんなことを考えてたら、お姉ちゃんがまたギュって抱き締めてくれた。


 うん、大丈夫だよお姉ちゃん。血は繋がっていないけど、私達は家族だよね。

 血が繋がっているとかいないとか、そんなのどうだって良いよ。

 本当の姉妹じゃなくったって、ス◯ーバースト・スト◯ームは使えるんだから!


 私の渾身のボケを、マニアのお姉ちゃんだったら反応してくれると思う。

 ――でも、お姉ちゃんは凄く真面目な顔で「いやそれは無理。そもそも銃刀法違反」って素で返して来ちゃった。


 そしてさっきよりも優しく私を抱き締めて、ついでに優しく頭を撫でて、何故かさっきよりも真剣に慰め始めた――


 いや待って、なんで危機的状況から助けてくれたさっきよりも真剣なの? そんなにおかしいこと私言った? ハイハイ白状しますよ、確かに私、それめっちゃ好きだよ。


 それで、抱き付くのはいいけどお姉ちゃん、おっぱい凄いんだけど!

 それなりサイズの私にケンカ売ってる? 売られたケンカは買っちゃうよ。当然値切るけど。戦力ってヤツを。


 まぁこんな状況で本気でケンカするワケはないけど。


 相変わらず、状況としては最悪だし。


 今はお姉ちゃんの光とお父さんの粗塩でなんとかなってるけど、私はまだ電車に捕まったままだ。

 お姉ちゃんがバカなことを言いながら私を捕まえている手を振り解こうとしているけど、全然離れない。

 それに、お姉ちゃんが抉じ開けた乗降口が、少しずつ閉まって来ている。


 お姉ちゃんは歯を食い縛ってそれに負けないように力を込めるけど、それよりも締まる力の方が強い。


 ――もう良いよ、お姉ちゃん。このままだと、お姉ちゃんもちゃう。

 こんなのに捕まった私が悪いんだ。だから、お姉ちゃん、お姉ちゃんだけでも――


 そう言おうとしたけど、お姉ちゃんは私を離さない。そのうえ、とびきりの笑顔を見せて更に強く抱き締めた。


 乗降口は徐々に閉まり、だけどなかなか閉まらないのに業を煮やしたのか、一度だけ大きく開くとそのまま膨れ上がり、お姉ちゃんごと私を車内へと飲み込んでしまった。


 ああ、もうダメだ。


 そう呟いて、お姉ちゃんに抱き付いた。


 ごめん、お姉ちゃんごめん、巻き込んじゃってごめん、ごめんなさい……。


 何度も謝る私の背中をお姉ちゃんは優しくポンポンと叩いて、また笑顔を見せる。


 凄いよ、お姉ちゃんは。こんなときにも笑っていられるんだもん。


 そう言うと、お姉ちゃんはキョトン顔になって、そして突然笑い出した。


 こんなときに、なんで笑うんだろう。


 そう思って訝しんでいると、お姉ちゃんは笑いながら言った。


 ――だって、まだ負けてないから。


 それと殆ど同時に、私のスマホにメッセージが届いた。


 それはお母さんからで、内容は――


『良く頑張ったね。あとは、お父さんと弟くんに任せなさい』


 え? なんのこと? お父さん、此処にいないよ?


 首を傾げる私に答えるように、今度は着信音が鳴った。


 ――「ハートビート」


 某プロバスケチームの公式応援歌で、ホームゲームで勝ったときにしか流れない曲。最近は新しいのになったみたいだけど、私はこれが一番好きだ。


 そして着信相手は、弟くんだった。


 ――来た。


 お姉ちゃんが短く息を吐いてそんなことを言う。なにが来たんだろうと訊いてみようと思ったら、


 ――りん


 電車の外から声がして、乗降口の扉に光の線が左上から斜めに走った。


 ――ぴょう


 其処から更に、右上からさっきの線と交差するように光の線が走る。


 ――とう


 同じく左上から、最初の線の下にそれが走り、


 ――しゃ


 やはり同じく、右上からそれの下に線が走る。


 ――かい


 続けて走る光の線。そしてその声は、聴き慣れた人のもの。


 ――じん


 私が生まれたときには、きっと居なかった。だけど、いつからかずっと一緒だった。


 ――れつ


 実の娘じゃないのに、お姉ちゃんや弟くんと同じく、分け隔てなく育ててくれた。


 ――ざい


 うるさいことは全然言わない、だけど怒ると凄く怖い、お父さん。

 そんなことを考えていると、お姉ちゃんが私を引っ張り、扉に走っている光の線の正面から退かした。


 なんだろうと訝しんでいると、お姉ちゃんが一言――お父さん、怒ってるよ……。

 それを聞いた私の血の気が、電車に齧られた時なんか比べ物にならないくらい引いた。


 ――ぜん


 その声とともに、扉に刻まれた光の線の交差を断ち切るように、上から下へと大きな光の刃が走る。


 そしてその光によって、電車が「ガポン」と輪切りになっちゃった。


 ――九字護身法神刀くじごしんぼうしんとう――


 九字を指刀しとうで切りながら左右交互に斜めに切り下ろし、最後に下に置いた黄金の壺にけがれをはらい下すイメージで上段から下段に切り下ろす、道教が起源の神道秘呪しんとうひじゅ


 九字の意味は――


のぞつわものたたかもの皆陣裂みなじんさきてまえり」


 ――だったかな。……うん、私も大概マニアだったね……。


 でも、そういうのがあるっていうのを知ってただけで、実際使う人なんていないと思ってた。

 しかも使ったのは全くの他人ではなく、お父さんだったり。


 全身から出る光で視えない人達を追い祓ったり、視線で例の光を飛ばしたり、挙句は九字で列車を断ち切っちゃったり――ああ、これは断ち切ったんじゃなくて、断ちんだよね。

 とにかくそんなことが出来るなんて、お父さんは元よりウチの家族って何者なんだろう?


 ……訊いたって「一般的な普通の平和な家庭だな」とか良い顔で言われるだけだろうけど。


 でも一般的な常識で考えてみて。


「普通の家庭」の人々は、視えない人達を追い祓ったり消したり(お父さんお姉ちゃん)、妖怪変化相手にフロント・ヘッド・ロックからのDDTを決めた後に正座をさせた上で迷惑だと説教を始めたり(お母さん)、打撃系格闘術の動画を観ながら片手間に半物質化した浮遊体を突きや蹴りで打ち抜いたり(弟くん)、集まって来たそういう人達を咆哮ハウリングで消し飛ばしたり(アスターくん)しないし、そもそも出来ないよね。


 まぁそんな色々をこの瞬間に考えられる私も大概なんだろうけど、そんなことより、電車を輪切りにされた視えない人達は、なにやら苦しみ悶えてる。

 でもそればかりじゃなくて、電車自体が歪んでのたうち、床や壁が歪んでウネウネ動き出した。


 うーわー、気持ち悪い。


 その光景を呆然と見詰め、でもそんな私とお姉ちゃんの腕を、それぞれ壁を打ち破って差し込まれた二本の腕が掴んで、そのまま力強く引き摺り出してくれた。


 お姉ちゃんを、お父さんが。


 そして私を、弟くんが。


 ん? んん? おっかしいなぁ。お父さんが格好良いのは知ってたけど、弟くんってこんなに精悍で逞しくて、格好良かったっけ?

 いつもは茫洋としていて、まるで雲を掴むような感じなのに。


 あとね弟くん、助けてくれたのは凄く嬉しいんだけど、そのまま思いっ切り抱き締めるの、恥ずかしいから止めて。

 血縁か無いからそういうのも合法だって判っちゃってるから、ときめいちゃうから、禁断の愛に目覚めちゃうから!


 ああ、こら胸元に顔埋めてスーハースーハーしないで汗臭いから!

 それにお姉ちゃんほどおっぱいないから、そんなことしても面白くないでしょ!


 じゃなくて!


 何処で覚えたのそんな変態行為! あ、いつもお父さんがお母さんにしてた……。ホント情操教育に良くない両親だよ!


 ていうか反対の手に持っているのって、お姉ちゃんが修学旅行で買って来た木刀だよね? なんか刀身に梵字みたいなのが浮かんでるし金色に光ってたり火みたいなのが出てたりしてるんだけど!


 え? 京都の某お寺の大僧正に香水こうずい不動明王火焔呪ふどうみょうおうかえんじゅ摩利支天真言まりしてんしんごんを書いて貰った?

 あー、道理で……て! 香水こうずいってキリスト教で言うところの聖水じゃない! そんな希少品、何処から出したのよ!?


 ……お爺ちゃんがしのきを使って作った?


 お爺ちゃーん! なにしてんの!? そもそもそんな全部が毒で種にアニサチンって神経毒が含まれてる木なんて、何処に生えてるのよ!


 ――裏山にいっぱい生えてる? 使うかって、使わないよ!

 死ねば良いのにとか一度も考えたことなんて無いとは言わないけど、実行に移すほど思い詰めてもいないし病んでもいない。ましてそういう発想に至ったことすらないからね!


 それから、どうやったら大僧正にそんなの頼めるのよ!


 お爺ちゃんの幼馴染み?


 あー……あー、あー! ウチの家族の謎がドンドン増えて行く!

 これでお婆ちゃんの実家は実は陰陽師だとか言われたって、もう驚かないから!


 え? 違う? あー良かっ――実家が陰陽師なのはお母さん? お婆ちゃんは神道神楽しんとうかぐら神憑巫女かみがかりみこ


 あー……うん、なんかもうオーバーフローしちゃった。もう陰陽師とか巫女とかどーでも良い。

 プロレス好きで得意技は飛龍竜巻投げドラゴン・スクリューな看護師のお母さんと、お萩をあくまでもぼた餅って言い張るお婆ちゃんで良いじゃない。


 そんな暴露話しをお姉ちゃんからされている間に、お父さんと弟くんは電車に乗ってる視えない人達を相手に大暴れしていた。


 弟くんは、その燃えてるのと金色に光ってる木刀で焼き払ったり消し去ったりしていてスマートなんだけど、問題はお父さん。


 まるで某アメコミの理性がぶっ飛んで暴れ回る怪力超人みたいに、所構わず殴ったり蹴ったりしている。


 まぁでも、お父さんとかお姉ちゃんはそもそも視えないから、そうなっちゃうのも仕方ないよね……あ、電車をまた打ち抜いた。


 うん? 幾らお父さんがアレでも、人の力で電車を輪切りにしたり壁を打ち抜いたり出来ないよね?


 もしかして、電車丸ごとそうだったのかな?


 違う? ああ、そうなんだ。じゃあお父さんは凄いってことで……え? 駅が丸ごとだった?


 えと……待って待って、ちょっと今から考え纏めるから。


 つまり、こういうことなの?


 私は最初から、駅じゃない何処かを駅と思って、もしくは思わされてこんなことになったってことなの?


 うわぁ、サイテー、私ってサイテー……。


 もうヤだホントに、なんでこんなことになるのよ……。


 一人で勝手に落ち込む私を尻目に、お父さんと弟くんの大暴れは続く。


 お父さん、振り回した腕に鉄骨の柱が当たり、それをガシッと掴むとそのままそれを圧し折って引っこ抜いて、グルグル回って駅を壊しまくる。もう無茶苦茶だ。

 それから弟くん、次々に燃やしたり消したりするのはこの際いいんだけど、そのたびに私のことを「俺の大切な人~」とか「大好きな~」とか言わないでくれる?

 家族といっても私だけ血縁ないし、法律上そうなっても問題ないって判っちゃってるから、物凄く恥ずかしいんだけど。

 あとキミは結構格好良いってちょっとでも自覚して気を付けてくれないと、お姉さん勘違いしちゃうよ?


 二人は一通り大暴れして、やがてその駅が丸ごと消え去ると、やっと手を止めた。


 結局私が駅だと思って――この場合は思わされてかな? とにかくそうやって迷い込んだのは、廃線になった駅跡の更地だった。


 これはあとでお婆ちゃんから聞いたことなんだけど、廃線になった駅とか線路は、時々視えない人達が利用する列車が出来ることがあるみたい。

 基本的にそれは無害なんだけど、を見付けると、それが欲しくなってしまうんだって。


 容れ物、ね。


 私ってそんな大層なものなのかな?


 視えない人達は見えるけど、それをどうにかすることも出来ないのに。


 ――でも、ちょっと不思議なこともある。


 私はお父さんとお母さんの子供じゃない。これははっきりしている。

 だけど、だったらどうして、私の容姿がお父さんに似ていたり、視えない人達が視えたりするんだろう。


 思い切って、お父さんに訊いてみた。


 私は誰の子で、どうして此処にいるのかって。


 そんな私の疑問に、お父さんは渋い表情で口籠もり――とかは一切せずに、キョトン顔であっさりと、お婆ちゃんの遠縁の子供で、両親が不慮の事故で他界して身寄りがなかったから引き取ったって言った。


 あのー、もしもしお父さん? こういうのはお母さんも交えて家族会議を開いた上で、一大決心の元に言うのが通例じゃないの? そんなにアッサリと言っちゃって良いの?


 え? そもそも弟くんと歳が半年しか離れていない時点で判るだろうって? そりゃそうだけど!


 釈然としないなぁ。というかそれで悩んだ私の思春期返せ! 大して悩んでいないけど!


 そんなブツブツ言ってる私の頭に、お父さんは大きな手を乗せて、そんなことよりって前置きをする。


 あーはい、そうですか、私の悩みは「そんなこと」ですかそうですか。


 などとイジケていると、お父さんが一言、


 ――弟か妹が出来たぞ。


 ……なんですと?


 ああ、家族が増えるのか。うん、確かにそれに比べたら「そんなこと」だよ。


 そうやってほぼ無理矢理自分を納得させる私。深呼吸深呼吸。ひ、ひ、ふー、ひ、ひ、ふー……よしよし落ち着いた。


 でもそうやって心を落ち着かせていると、更にお父さんが、私と弟くんは付き合っても問題ないぞーとか言い出しやがった!


 あのね、またそういうことを言って揶揄からかうのも大概に……て、なんでそんなに照れてるの弟くん?


「あたしはまだ伯母さんになりたくないから、ちゃんと避妊しなさいよ」


 ――お姉ちゃん!?

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