『堕ちる砂、満ちる。』(BLver.)

※注意※

・こちらはBL(ボーイズラブ)要素が含まれております。苦手な方は即座に閉じてください。

・演じる際は演者の性別固定でお願いします。

・台本使用時、タイトルと配役だけで構いません。

・所要時間約25分。




《登場人物》

飯田 拓三(イイダ タクミ)

30歳、170cm、男性。

黒髪短髪、茶色の瞳、垂れ目。

高校教師、一人称『僕』

たまに毒舌だが、根は優しい




望月 坂江(モチヅキ サカエ)

27歳、160cm、男性。

焦げ茶長髪、焦げ茶の瞳、若干吊り目、右目泣きボクロあり。

高校教師、一人称『俺』

我が道を行く。




《配役表》

拓三(男):

坂江(男):






↓以外本編↓

────────────────────





拓三M

「新しく赴任してきた職員の中に、僕の高校の頃の後輩がいると知って思い浮かんだのは、桜の舞い散る中にたたずむ姿。その表情は涙を流していたのか、笑っていたのかすら分からないが、妙に惹かれたのを覚えている。

 数日経ったある日、新職員との親睦会を開こうとさわぐので、嫌々いやいやながらも教頭に引っ張り出される事になった。」



《飲み屋街にて》



坂江

「飯田先生ー、もう一件。行きましょうー?」


拓三

「良いですよ、付き合いますから真っ直ぐ歩きなさい。 そんなにふらついてるとぶつかるよ」


坂江

「えー? 大丈夫ですよー。ほらほら、ねぇ?」


拓三

「あーこらこら。電柱に絡みに行かないでください。変な目で見られたくないでしょう? どんだけ飲んだんですか、全く」


坂江

「大丈夫です、酔ってませんよ、俺は! 大丈夫です!」


拓三

「うん、それ、完全に酔ってる人の台詞せりふですよ」


坂江

「そうなんですか? そんなに飲んだつもりないんですけど」


拓三

「そんなんでもう一軒行けるんですか、倒れても知りませんよ」


坂江

「行けます! と言うか、飯田先生ー、敬語じゃなくてもいいんですよ? 俺、後輩ですしぃ」


拓三

「まぁね。…少し飲んでそんなに酔っぱらってたら危ないからもう帰りませんか」


坂江

「危ない…んです?」


拓三

「多分ね。ほら、今以上に飲みすぎて、人目もはばからず往来おうらいで、だいになって寝られても困りますから。帰りましょう。タクシー、呼ぶから待ってて」


坂江

「うー、うーん?はい。分かりましたー。んじゃあ…くっつきますね」


拓三

「やめなさい、男に抱きつかれても嬉しくありません。そこのベンチにでも座って……あ、もしもし?」


坂江

「ちぇー……」


拓三

「はい、じゃあ一台、お願いします。 ……タクシー来るまでは一緒にいますから」


坂江

「……せんぱい……」


拓三

「ん?」


坂江

「飯田、先輩…」


拓三

「…うん?」


坂江

「……好き、なんです」


拓三

「え……」


坂江

「俺、…先輩を、ずっと見てた…」



拓三M

「思わずほうけてしまっている僕に、ほんの少し色付いた顔を近づけて、頬と唇へ柔らかく触れるだけのキスをした。そして満足そうな笑みを浮かべると、力が抜けたように僕に倒れ込んだ。酔いが回りすぎて寝入ってしまったのだろう。

 少しの間抱きかかえたままタクシーを待ち、何とか揺り起こして自宅へ向かうようにと見送った。」




《翌週、朝の職員室にて》



坂江

「あの、飯田先生」


拓三

「…う、ん。何かな?」


坂江

「これ、この間頂いたタクシー代です」


拓三

「…え?」


坂江

「その……すみません。俺、酔い出してからの記憶が曖昧あいまいで。ちゃんと最後まで面倒見てくれたの、飯田先生だって聞いたので」


拓三

「……あぁ、うん。覚えてない、んですか」


坂江

「えぇ…お恥ずかしながら。あの、でも、教頭先生がお開きにしようって言ってたのは覚えてるんですよ。それで、立ち上がろうとして…そこからの記憶が、ちょっと」


拓三

「……あぁ、そうなんだ…」


坂江

「迷惑掛けてすみませんでした……」


拓三

「迷惑では、なかったから。無事に帰れたみたいで良かった」


坂江

「……それで、その。…何かしちゃいましたか?」


拓三

「何か、って?」


坂江

「いえ! なんにもしてなかったならいいんです。とにかく、これ!」


拓三

「…うん。いやでも、今渡されても困るよ。これから授業あるし」


坂江

「え?…あ、そっか。えっと……それなら、放課後渡しますんで、残っててくれます?」


拓三

「残るも何も、一応僕が指導担当じゃなかったかな?貴方あなたの。報告貰う時にまた出してくれれば良いですよ」


坂江

「あ、そうでした。ん、じゃあ……はい、そうしますね」


拓三

「それでは…教室、行きましょうか」


坂江

「あ、はい!」



拓三M

「その日の放課後、僕は封筒を受け取る事は無かった。翌日にも渡されそうにはなったけれど、やはり受け取る気持ちにはなれなかった。どこか必死にも見える彼に、それで今度飲みに行こうと提案した。

 数ヶ月が過ぎた頃、僕はこの提案を忘れ掛けていた、その矢先やさきの事。」



【間】



《飲み屋街、一軒のBARの店内にて》



坂江

「突然誘ってしまってすみません」


拓三

「良いよ、暇だったし。他には誰か来るのかい?」


坂江

「いいえ、来ませんよ」


拓三

「……え、来ない?」


坂江

「だって、他の先生来たら奢れないですもん」


拓三

「奢れないって…いくら何でも後輩に奢られたくは無いけど?」


坂江

「忘れちゃったんですか? 言ったじゃないですか、それで今度一緒に飲みに行こうって」


拓三

「……あぁ、あの時の。覚えてたんだ」


坂江

「さすがに素面シラフだったんで覚えてますよ。なので、好きなの頼んでください! ここはどーんと俺が!」


拓三

「…うーん、でもねぇ…」


坂江

「元々は飯田先生のお金だったんですから。いいじゃないですか」


拓三

「まぁ…うん、そうだね、分かった。そういう事なら。とりあえず何か頼もうか」


坂江

「あ、ここのオススメあるんですよ! まずはそれにしましょ!」



拓三M

「初夏をむかえて学生達は夏休みに入る頃、あの時の約束を果たすと言う名目めいもくを知らずに、僕は呼び出された。いつもは小さな尻尾のようにくくられている髪を下ろしているせいだろう、普段より雰囲気が違う。

 二人でしばらく飲んだ後、あの時と同じように、いやそれ以上に酔い潰れたように見える彼を店から連れ出す。」



坂江

「せーんぱい! 今日はありがとうございましたー!」


拓三

「こちらこそ、ご馳走さま。あーほら、わざとフラフラしてたら人にぶつかるよ」


坂江

「大丈夫、ですよ?支えてくれてますもんね」


拓三

「支えると言うかなんと言うか」


坂江

「ふふふ。……ねぇ」


拓三

「うん?」


坂江

「俺、好き……なんです」


拓三

「…それは、僕に言ってるのかな?」


坂江

「そうですよー。……俺、実は…」


拓三

「あー、待って」


坂江

「……?」


拓三

「少し休みながら話そうか。ここだと人目ひとめもあるし、落ち着かないでしょ」


坂江

「……はーい」



【間】



《飲み屋街外れ、小さな公園内、ベンチにて》



拓三

「はい、珈琲コーヒーとお茶、どっちが良い?」


坂江

「それなら、お茶で。…ありがとうございます」


拓三

「うん、それで。……酔ったフリはもう良いのかな?」


坂江

「え…?」


拓三

「割と分かりやすかったから。今日、酒、飲んでないでしょ」


坂江

「そんな事ないですよ? 一杯目はちゃんと…」


拓三

「同じ物飲んだしね。けど、次からノンアルコール、だったでしょ」


坂江

「……なんで…」


拓三

「カクテル本を少しだけ読んだ事あるんだ」


坂江

「そう、ですか……((小声で) あの時読んでたのカクテルの本かよ…)」


拓三

「うん?……もしかして、誘った時から何か僕に、話すつもりでいたのかい?」


坂江

「うー、なんでそこまでバレてるんですか…」


拓三

「何となくそう感じただけだよ」


坂江

「…〜っもう! なんか、めちゃくちゃ恥ずかしくなって来ましたよ?!」


拓三

「しがみついてくるのもぎこちなかったし、わざとらしすぎたし、男に抱きつかれても嬉しくないし」


坂江

「それ前も聞きました! てかあの!……あの…なんか本当、すみません……」


拓三

「良いよ。……それで?」


坂江

「それ、で」


拓三

「何を、話そうとしてたの」


坂江

「ああ、えっと…あの、ですね……」


拓三

「…高校、一緒だったんだね」


坂江

「え、あぁ、はい、そう。一年だけですけどね。…実は先輩の事、高校に入る前から知ってたんですよ、俺」


拓三

「ん、どういう事?」


坂江

「姉が、いるんです。その姉の彼氏だったんですよ、先輩」


拓三

「へぇ……そうだったの」


坂江

「姉が先輩を家に連れて来てくれた時、勉強教えてくれたりしてたんですよ? 凄く優しい人だなぁって思いました。…それで、何度か会う内に、かれてて……」


拓三

「お兄さんが出来たみたいだなって?」


坂江

「違います」


拓三

「キッパリ言うね。……まぁ、うん。実際は遠くから見てれば良いって思ってたのかな?」


坂江

「そうですね…見てるだけでも人を好きになれる事があるんだなーって。それで必死に勉強して、やっと一緒の高校に行けるんだって実感したら、思わず入学式の日…」


拓三

「………桜の木の下で、泣いてた?」


坂江

「えぇ、はい。…て、え、見てたんですか?」


拓三

「まぁね。……妙に、残ってるんだ、その光景が。桜を見上げながら笑ってるのか泣いてるのか分からないけど、ただ静かにそこにいる姿が、ね」


坂江

「…えー、うわ。…やだなー、声掛けてくださいよ、恥ずかしい」


拓三

「いや、君だとは思わなかったし」


坂江

「…あー、それもそっか……」


拓三

「…で?」


坂江

「ん…で?」


拓三

「続き、あるのかなって」


坂江

「あー…いいえ、特には。一年間ずっと先輩を想いながら、目で追いながら過ごして、気配を追って、香りも追って、卒業してくのを眺めてました」


拓三

「香りもって。くさかったって事?」


坂江

「違いますよ、俺の好きな香りです。特に香水を使ってる訳でもないのに、先輩を感じ取れるんです」


拓三

「…そう、なんだ…」


坂江

「そうですよ。…姉と別れたのは高校卒業した時でしたよね。一人でこっそり泣いてたのが可愛かった…それから、教員免許取るために猛勉強してる顔が必死で格好良いなって。あの時付き合ってた女と別れた時も泣いてましたよね」


拓三

「……は?」


坂江

「無事に免許取れて一人で祝杯あげてるの見てたら、後ろから抱き締めてあげたくなったけど、えたんですよ? ほら、俺が大事な時期だったんで」


拓三

「大事な時期って……いやそれより、見てた、のかい?」


坂江

「見てましたよ、好きになってからはもうずっと。なんかこう言うとストーカーみたいですよね。先輩が教師になるなら俺もならなきゃなって思って、これでも頑張ったんですよ」


拓三

「……それ、で?」


坂江

「最初は同じとこに配属にならなかったけど…ようやく同じ職場になれたんだなぁって。嬉しくなりすぎて…飲み会で、はしゃいでつい、飲みすぎました」


拓三

「……」


坂江

「告白したくせに寝ちゃってすみませんでした。キスだけじゃ物足りなかったですよね?」


拓三

「え、覚えて…」


坂江

「酔って記憶をくす馬鹿はしませんよ。まぁ…多少計画は、ズレたんですけど。……追いかけて、辿り着いて、手に入れたんですよ、ようやく…」


拓三

「……計画って…手に、入れた?」


坂江

「やっぱり…先輩は、俺のだってしるし、欲しいですよね」


拓三

「……え?」


坂江

「俺、先輩が……拓三たくみさんの事、大事にしますから」


拓三

「……だいじに、って…」


坂江

「俺が男だから今まで拒否ってたんですよね? 心配しないでくださいよ、そんなに怖がらなくても大丈夫ですから。……つーか。女だからってだけで、簡単に拓三たくみさんに寄り付く女共むしどもが、邪魔だったんですよね、ずっと」


拓三

「虫って…」


坂江

「誘えばホイホイまた開く害虫ですよ。いつもすんなり別れてたでしょう? 少しだけ苦労したんですよ……」


拓三

「…ッ! まさか…」


坂江

拓三たくみさんには…俺が、いるのに」


拓三

「ん、ぐ…ッ!」(ベンチに押し倒され、何かを口移しで飲まされる。)


坂江

「…ん…──ふふ。拓三たくみさんには、俺だけが…いればいいんです」


拓三

「…ッげほ…ぅ……ッ何、を……」


坂江

「これからは、俺だけを見てればいいんです。大丈夫ですよ、ちゃんと閉じ込めてあげますから」


拓三

「…閉じ、込めるって……?」


坂江

「不満ですか? そんな事ありませんよね、全部揃えてありますよ、拓三たくみさんが好きなモノは」


拓三

「…ん、ぐ。…意識、が……ッく、・・さわ、るな…」


坂江

「ちゃんと俺を愛してくれれば不自由はさせませんよ。仕事だってしたければさせてあげますし。その代わり、少しでも他人よそれたら………許さない」


拓三

「……ッ…」


坂江

「細胞の一つ残らず愛してあげますから。安心してください。愛してますよ、拓三たくみさん。……やぁっと、捕まえた……ふふ、ふふふ…」



拓三M

「嬉しそうな笑い声を聞きながら、薬を飲まされた僕はその場で意識を失った。

 数時間後、自宅では無い無機質な病室のような部屋で目覚める。かたわらには肌をあらわにした彼の姿。僕の首や腕、足首にまで、外そうとしても外れないかせが。

 桜の木の下にたたずんでいた彼は成熟し、妖艶な笑みを浮かべながら僕をぜ上げていた。」






終わり

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