【第23話】一人?

 灰さえ残さず焼き尽くす筈の熱が、夏の生ぬるい風に感じる。


 目を開けられない筈の光も、夜の星の瞬きのようにしか映らない。


 地龍のブレス? これが?


 包んだ赤い光が、灼熱のブレスを完全に防いでくれてる。


 、赤い光……私を……。


 ……あれ?


 


〝リューン? リューンはどこっ?〟


 まさかっ、ブレスにやられちゃったんじゃっ!?


 振り向こうとしたけど、身体が動かない?


〝え? なに? どうなってるの?〟


 喋ったはずなのに、声も出てない!?


 なんで!? どうして? 何これ? なにこれっ?


「お姉ちゃん落ち着いて」


 リューンの声が聞こえた! 良かった、無事だったんだ!


「大丈夫、無事だよ、


〝うん、ホントに良かったぁ。どこにるのリューン?〟


「えっと……それが……」


 あれ? 周りを見ようとしたけど、首が回らないし、視線を動かせない。


 自分の目で見てるのに、自分の目じゃないみたい。何この変な感覚。


「お姉ちゃん、この剣が見える?」


 私の目の前には、真横に構えられた一振りの大剣。


 刀身は私の身長ぐらいはありそう。中心線に沿って伸びた5cm幅の白い実剣部分の周りを、赤く光る透明の刃が囲んでいる。赤い光の刃は根元が20cmぐらいの幅で、剣先に向かって緩やかな曲線を描き細くなってる。


〝これ……これが、エミュレーンの本来の形?〟


「そうだよ」


〝そっか、上手くいったんだ……って、あれ?〟


 何だろうこの違和感。


 目の前に見えるエミュレーンは、私が右手で構えてるのに、リューンに言われるまで気付かなかった。


「お姉ちゃん、落ち着いて聞いてほしいんだけど……」


 え、まって。今リューンが喋ったんだよね。


 でも、私の耳に聞こえたのって、私の声なんじゃない? それに、私の口が動いたのを感じたんだけど……。


 それに、さっきから、私の声は声になってない!?


「うん、そう……だけど今は地龍を倒すのを優先させるね」


〝あ、うん、そうね、そうしましょう〟


 は地龍を睨んでゆっくりと歩き出した。


 地龍はわたしがブレスを耐えた事が気に入らないのか、狂ったように爆光球を撃ち出してくる。


 でも避けない!


 目の前に迫る爆光球をエミュレーンで迎え撃ち、爆発も起こさず霧散させる。


 何発飛んできても変わらない。全てを斬り捨て、切り裂き、時には剣を盾代わりに防ぎながら、地龍に近づいてゆく。


「全部躱されて、随分イライラしているな?」


 リューンが元の喋り方に戻ってるけど、やっぱり私の声っぽい。


 地龍は、わたしが間合いに入った途端、スパイクの尾を左上から振り下ろしてきた。


 あれはヤバい! 避けなきゃ!!


 ガキィィィンっと金属どうしのぶつかる音がしたと思ったら、わたしは剣でスパイクを受け止めていた。 

 スパイクの棘先に、寸分違わず刃先を合わせる正確無比な剣さばき。


〝え?〟


「はああああああ!!」


 そのまま強引に尾を弾き飛ばす。


 地龍は弾かれた反動を利用して、ぐるりを回した尾を右から薙いでくる。


 わたしはその場を動きもせず、エミュレーンを左下から右上へ振り上げる。


 エミュレーンから放たれた斬撃は、人の背丈の三日月になって、迫りくる地龍の尾を切断した。


 痛みを感じたのか、地龍は悲鳴に似た叫び声をあげ、真上に向かって顎を開く。


〝リューンっ、あれさっきのっ〟


「耳障りだな」


 わたしは、ぐっと腰を屈めて、思いっきり地を蹴った。


 ドンっ、と足元の大地が爆ぜ、一瞬で空中を跳び地龍の頭へ。


「お前の咆哮うたは聞き飽きた」


 空中ですれ違いざまに、エミュレーンを一閃。そのまま地龍を飛び越し着地する。


「……大人しく寝ていろ」


 地龍の首がどさり、と地面に落ちた。


 え? 何? こんなにあっさり!?


 これが、伝説の魔剣『エミュレーン』の本当の力。なんか、圧倒的。


 凄い!


〝やった、ね〟


「うん、なんとか……」


〝それでねリューン。これって、どういう事なの?〟


 さすがに私でもこの状況は理解できた。


 エミュレーンを振るって地龍を倒したのは私の躰だけど、でも私の躰を動かしていたのは明らかにリューンだ。


〝私の躰に、リューンが入っちゃったって事?〟


「よく分からないけど、そうみたい」


 そう言ってリューンは何度かエミュレーンを振ったけど、私の意思じゃないのははっきり分かった。


 それに、気付いた事もある。


 いつもより視線が高いし、視界に入った私の腕に黒いオペラグローブが見えた。


〝リューン、ねえ今私、どんな格好してるの?〟


「あ、ちょっとまって……たぶん……」


 わたしは、切断されて転がった地龍の頭の前に立って、瞳孔の開いたその黒い目に映る自分の姿を見た。


〝わ……〟


 たしかに背が伸びてる。たぶん10cmくらい。


 服は艶のある不思議な素材で、黒に赤いラインが入ってる……まってこれ服なの?


 膝上のブーツはいいとして、なにこの下着みたいな服。


 ビスチェに下はショーツ?


 まあ、下着よりは布地が厚いけど……。


 それに金色だった髪も真っ黒になってるし、赤い宝石の付けられた銀のティアラ。あれ? 頭の両横から角生えてない? 瞳の色だって赤いし、これなんか悪魔っぽい、っていうかエロい。


 しかも……サイズアップしてた。


 胸が……。



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