【第20話】ヤバい、かな

 いったい全部で何匹いるんだろう。


 コカトリスにサラマンダー。他にも3mを超える巨大な蛇のラードーン。


 どっちを見ても蜥蜴、トカゲ、とかげ、蛇もちらほら……。


 しかも、一定の間隔を空けてぐるっと私たちを取り囲んでいる。これじゃあ範囲攻撃魔法でもあんまり効果ないな。


 今の大幅に上昇した魔力量でも、最後まではもたないでしょうね。


 でも、諦めない。ここまで生き延びてきたんだから!


「ここを抜ければ、外に出られるのよね」


「うん、そうだね」


 私とリューンは背中合わせに剣を構える。


「さあっいらっしゃい! みーんな焼きトカゲにしてあげる!!」


「じゃあ僕はトカゲの挽肉に」


 ここは出し惜しみするところじゃない、最初から全力で行く!


 運が良ければ、途中で逃げ出してくれるかもしれないしね!


「燃えなさいっファイヤーストーム!!」


「切り刻め! シュトゥルムヴェイパー!!」


 直径30mもある炎の嵐が、魔物の群れを蹂躙していく。


 なにこれ、思ってたより随分派手。普通のファイヤーストームの5倍はある。


 リューンの魔法は風の最上位。敵を粉々に砕く衝撃波が扇形に広がって、そこにあるものは魔物も岩も全てが灰塵に変わる。


 これで怯んでくれるかと思ったんだけど、そうはいかないみたい。


 魔法の攻撃で空いたスペースに、次から次へとトカゲが湧いて出る。


「お姉ちゃん、広範囲に攻撃してもキリがないよ。二人で同じ方向を攻撃して……」


「うん、一点突破、だね。わかった、どっちに向かう?」


 リューンは暫く、探るように周囲を見渡す。


「あっち」


 指差した方向の先には、微かに白っぽい何かが見える。


「けっこう、遠いね」


 走りきれるかなぁ……。


「お姉ちゃんが倒れたら、僕がおぶっていく」


「なんのっ、リューンが疲れたら、お姉ちゃんが抱っこしていく!」


 二人で顔を見合わせる。


「楽しみ」


「私もっ」


 こんな時だけど、なぜか笑顔が浮かぶ。


「いくよお姉ちゃん! シュトゥルムヴェイパー!!!」


 リューンが先陣を切って駆け出す。


「任せて! ファイヤーストーム!!!」


 私は、リューンの背中を追って、砂塵の中を走り抜ける。


◇◇◇◇◇◇


「ファイヤーランサー!」


「はああああっ!」


 炎の槍がコカトリスを貫き、一瞬怯みを見せたサラマンダーをリューンが斬り伏せる。


「はあっはあっ、だ、大丈夫、お姉ちゃんっ」


 リューンは足を止めず、次々と魔物たちを屠りながら叫ぶ。


 随分息があがっているし、動きも少し悪くなってる。


「うんっ、大丈夫……はぁっはぁっ……」


 身体強化に魔力をかなりふってるけど、そろそろ限界っぽい。心臓が口から飛び出しそう。足も、ちゃんと動いてるのか分からない。


 それに、これだけ走ったのに、全然近づいてる気がしない。やっぱりここはダンジョン、地表とは見え方とか違うみたい。


「あとっ、どれだけ走れば、いいのかなっ!?」


「もう、少しっ。ほらっ、はっきり見えてきたよ!」


 リューンはそう言ったけど、正直どの辺がはっきりなのかなぁ?


「私もうっ、心臓、吐きそうっ」


「僕もっ、だよっ」


 苦しいのは一緒だね。あ、でも、リューンは子供の身体なのに私と同じスピードで走ってるんだよね。大丈夫かな……。


 そう思ってリューンの背中から、もう一度地平線の白い何かに視線を移した時。


 目の前の地面が土埃と砂礫を噴き上げ、徐々に盛り上がってゆく。


「お姉ちゃん!!」


「ひゃん!?」


 リューンはエミュレーンを口にくわえて振り向いたかと思うと、一瞬で私を抱きかかえて思いっきり跳躍した。


「とにかく走って!!」


 着地と同時に私を降ろしたリューンが叫ぶ。


「うん!」


 リューンはかなり焦った顔をしてる。


 気になって振り向いた先、飛び越えた地面を割って飛び出してきたのは……。


「うそ……地龍……」


 体長は10mぐらいで、同じくらいの長い尻尾の先は大きな瘤になっていて、六本のスパイクが並んでいる。スパイクの長さは1mぐらいかしら、あんなの喰らったら、人なんて一発で挽肉にされそう。


 鳥のように二本足で立ち、全身を黒光りする鱗に覆われた巨大なトカゲ。


 でもあれは、コカトリスやサラマンダーとは根本的に違う。


 龍種ドラゴン


 魔物の最上位種で、もうあれは災害だ。


 真の勇者に選ばれた者とそのパーティーなら倒せるんでしょうけど、復活したばかりのリューンと、強化されたとはいえ戦闘慣れしてない私じゃ、絶対勝てない。


「リューン、ねえどうしようっ」


「見てっ」


 リューンは、意外と冷静な顔で地龍を指差した。


 地龍は、私たちに興味がないのか、それともまずは食欲なのか、コカトリスたちを片っ端から捕食し始めた。


 これって、もしかして戦わなくて済むんじゃない?


「お姉ちゃん、今の内に!!」


「う、うんっ」


 地龍に追い立てられた魔物たちは、パニックを起こしたように散り散りに逃げまどっている。


 私はコンジェラルを鞘に納めて、伸ばしてくれたリューンの手をしっかりと握った。


 残った力を振り絞り、全力で走る。


「もう少しっ」


 リューンが叫ぶ。


 目の前に、真っ白な半球型の建物が見えてくる。


「たぶん、あれが出口だよ!」


 もうちょっと! あと少し! 動け! 動け!


 空気の唸る音しか聞こえない。


 リューンと手を繋いでるからかな? 身体が軽い!


 石柱だけの門を潜り、土埃を蹴り上げる地面から、まるで大理石のような床へと進む。


「やったね、はぁっはぁっ……入口……どこかな……」


 私は立ち止まって膝に手をついた。ここまでくれば、後はこの建物に入るだけ。


「あ……」


「どうしたの? リューン」


 リューンに促されて建物に目を向ける。それでやっと気づいた。


「これ……入口が、ない……?」


 リューンも隣で頷いている。


 入口どころか窓一つ無い。


 高さは15mぐらいかな、真っ白で半球形で、どこにも凹凸がなくて、全体がぬめっと光ってる。


「裏……裏にあるかもっ」


 咄嗟に口をついたけど、あんまり自信はないな。


「うん、じゃあ左右からまわってみよう」


 二手に分かれて建物の周囲をまわってみたけど、入口らしき物はなかった。


「これって……」


「たぶん、そうだと思う……」


 だよね、やっぱり。


 お食事を終えた地龍が、地鳴りを響かせて、私たちの目の前に立ち塞がった。


「地龍を倒さなきゃ……」


「建物には入れないんだね……」


 これは、ヤバいかも……。



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