【第13話】悪夢は再び
「んっ……」
気が付いたら、ざらざらとした埃っぽい地面に、うつ伏せに倒れていた。
違う、これ、誰かに押さえつけられてる?
「さっさと服を脱がせろ!」
「じっくり眺めてやろうぜ!」
すぐ傍で、聞き覚えのある、耳障りな声が聞こえた。
無理やり引っ張られた上着のボタンがぶちぶちと音を立てて千切れる。
「な、なに!?」
どういう事? これはもう終わったのよ?
なんとか顔を上げようと体に力を入れる。
「おっ、なんだなんだ、やっぱり初めてはこっち向きがいいってか?」
誰かがそう言って、私を仰向けに返した。
「ははははっ、ほら、望み通りだぜ!」
下卑た笑いを浮かべて私を見下ろしてるのは、元の仲間たち。
なに? これは夢?
「ふざけなっ……んっ」
思いっきり罵ってやろうとしたら、口の中に何か布を詰め込まれた。
両手は頭の上でがっしりと押さえられて、身じろぎもできない。
脚は片方ずつ握られて、思いっきり広げられてる。
「んんんんっっ」
「おとなしくしてろ!」
剣士のガイルが、なんとか逃れようともがく私の顔を、遠慮もせずに殴る。
痛い!
女性には優しかった筈なのにっ。
ガイルだけじゃない、みんなそうだ。
人の良いふりして、親切そうな顔で油断させて。
なんでこんな連中を信じたんだろ。
せめて少しでも意地を見せてやろうと、私の脚を掴んでいやらしい薄笑いをうかべたサムソンを睨んでやった。
「おおう、いいねぇその顔」
「その調子で、せいぜい抵抗しろよ? すぐに折れるんじゃねえぞ」
サムソンとベーカーが、私の脚を撫でながら心底嬉しそうに言った。
なに? 私が抵抗するのを、楽しんでるの?
「聖女見習いの乙女が、どう壊れてゆくか……見ものだな……」
ヒューイは、私の下着をナイフで切り裂きながら、ぞっとするような冷たい視線を向け、露わにされた胸に、ピタピタとナイフを刃を叩きつける。
このっ変態野郎!!
自分では見えないけど、下も全部剥ぎ取られたのが分かる。
「たっぷりかわいがってもらえよ?」
「そうそう、時間はあるし、ね」
ジークとセラフィーナがお互い抱き合って、楽しそうに私を見下ろす。
なに? なにこれ? どうなってるの?
夢なら覚めて! これ以上私を虐めないで!!
それとも、こっちが現実で、助かったと思っていた今までが夢だったの?
あれ? 今までってなんだっけ?
「じゃあ、俺からだな」
ドレッドが私の脚の間にしゃがみ込んだ。
……そうか、私もうダメなんだ。
どうせ逃げられないなら、感情なんて捨てちゃった方が楽じゃないかな?
それに、こいつらは私が必死に抵抗するのを楽しもうとしてる。
なんでこんなヤツラの為に私が? 強情を張って強がって、泣きわめいて許しを請えって? そして最後は、命乞いでもしてほしいんでしょ?
冗談じゃない。
ふざけるな。
私は、絶対っ、お前たちの望む事はしてやらない。
死ねないなら、せめて感情を殺してやろう。
無抵抗で無表情の、人形を抱いてなさい!
私は、全身の力を抜いて、ぼんやりと天井を眺めた。
これから、どんな事をされようと、もうどうでもいい。
どうせここで死ぬんだから……。
〝パム!〟
遠くで、呼びかける声が聞こえた気がした。
え? 誰? どこから聞こえたの?
「パム!」
今度ははっきり聞こえた。
「え……」
目を開けたら、リューンが心配そうに眉をひそめて、私の肩を抱いてくれてた。
「……リュー、ン……」
「良かった、目が覚めたか。うなされていたぞ……」
そうか……夢だったんだ……。
良かった。
リューンの顔を見て、声を聞いたら、なんだかほっとして涙が零れた。
「大丈夫か? あ、いや……大丈夫? お姉ちゃん」
「……うん……」
リューンはわざわざ言い直して、私の顔にかかる髪をそっと指でかきあげる。
「私……もしかして……声、だしてた?」
寝言とか聞かれてたら、ちょっとやだな。
でも、リューンは何にも言わずに首を振った。
これたぶん、気を遣ってくれてるよね。
「あ、リューンごめんね、ありがとう。もう、大丈夫だよ」
よく見たら、リューンは床に膝をついて、私の上半身を支えてる。
ちょっと……。
ねえ、顔近いよ? リューンの綺麗なご尊顔が、息もかかるぐらいすぐ傍にあるよ。
ああ、ずっとこうしてたいなぁ、だって安心するんだもん。
「じゃあ、朝まで、こうしとくね」
え? マジで!? いや、むりむりむりっ。朝までって、私幸せ過ぎて死んじゃうよ!!
あ……。
またやっちゃった……また無意識に声に出しちゃった。
「リューン……あの、それはそのっ、心の声っていうか、願望っていうか……」
「僕なら平気だよ?」
ああ、天使の笑顔、ごちそうさまです。ふにゃふにゃになりそうです!
でもね、お姉ちゃんの私が甘えてる訳にはいかないよねっ。
「顔色良くないよ、おねえちゃん。遠慮しなくていいから」
「えっと……」
じゃあちょっとだけ、甘えちゃおうかな……。
そう思って何気なく向けた視線の先に、白い壁が映った。
扉の正面の壁。
今、リューンは背を向けているけど……あれ? 何かおかしい。
あの壁って、入った時はたしか、女性のローレリーフが彫られてなかったっけ?
うん、見間違いじゃない、絶対あった筈。
「ねえ、リュー……」
その瞬間。
「くっ」
背後から伸びた白く透明な腕がリューンを絡め取り、鈍く青い光が包んだ。
「お、姉、ちゃん……」
リューンは、糸の切れた操り人形のように崩れ落ちた。
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