【第10話】ぱわーあっぷ!

 名前:パーミット・エクレンシア

 年齢:17歳

 魔力:103(+1000)⇒1103

 魔力量:520(+5000)⇒5520

【スキル】

 魔法  聖系[治癒、回復、支援、補助]

     火系、水系、土系、風系、闇系、錬成系


     無詠唱


 剣術、槍術、弓術、体術


 称号:闇堕ちの聖女見習い

 魔王を統べる乙女


 え、ええっ? 何これ……。


 魔力と魔力量がほぼ十倍に増えてるし、魔法は攻撃系の火水土風に加えて闇系まで? あと錬成って、もうほとんど完全制覇なんですけど? しかも無詠唱!?


 それに、ぜんっぜん見込みなしだった剣、槍、弓に体術までっ。


 これってもう聖女じゃなくて勇者じゃない? あ、光系が使えなくて闇系が使えるから、どっちかっていうと魔王っぽいね。うん、称号にも『魔王を統べる乙女』ってあるし。アレかな、新女魔王誕生! って感じかな? 世界よ魔王をも統べる私にひれ伏せ! みたいな? これもう私自身が人類の敵だね。


 しかも『闇堕ちの聖女見習い』だよ、極めつけだね。ま、落ちたけどね、闇の中に落ちたけど、ね……あれって、そういう意味、なの?


 ……マジで泣きそう……うん、もう泣いてるんだけどね。


 たしかに私、勇者候補のジークに仕返ししたいって思いました。


 聖女見習いのセラフィーナも、死ぬほど辱めてやりたいって思いました。


 私を犯そうとした元仲間たちも、ええ、ええ、切り落としてやるって思いましたとも。


 思いましたけど……。


 やだあああああ!! これ完全に討伐対象じゃん! たしかに何か強くはなってるけど、なに? 返り討ちにしろって事なの? やだやだやだっ、勇者とかと戦いたくないですっっ!!


 私は……私は……。


「リューンを愛でながら、のんびり暮らしたああぁぁーいっ!!」


 泣きながら叫んでました。だってそれが本音なんだもん。


 あ、ちょっと鼻水も出ちゃった。見えないように拭いとこ。


「お、お姉ちゃん……?」


「異議は認めません!!」


「いや、あの、復讐は?」


「そのうちっ、お、落ち着いたら考えますっっ!」


 契約って、守ってやるって言っただけだよね。


「とにかくっ。ここから出ようリューン! 話はそれからだよ!」


「うん、そうだね」


 リューンは納得した表情で頷いてくれた。


 よし、とりあえず問題を先延ばしにできた、えらいぞ私。


 リューンの先導で部屋を出て、崩れた階段までやってきた。


「我慢してね」


 少しはにかんだ笑顔を向けて、リューンは私をふわりと抱えた。


 やったっ、お姫様抱っこ。ちょっとくらい抱きついてもいいかな?


 私はさりげなさを装って、リューンの首に両腕をまわす。


「お姉ちゃん?」


「あ、ごめん、ダメだった?」


「ううん、大丈夫、平気だよ、じゃあしっかりつかまってて」


 私は顔を伏せたまま頷く。ちょっとあざといかなぁとも思うけど、これくらいは許してほしい。


 すとんっと、たいした衝撃もなくリューンは一階へと着地した。


「門を潜って来たんだよね?」


「うん、そう」


「じゃあ、門に行ってみようか」


 あれ? ちょっと待って……。


「リューンって、ここから出る方法知ってるの?」


「ううん、知らないよ。僕ずっとここに封印されてたから。それに、この宮殿が仮想空間に飛ばされたのって、僕が封印された後みたいだし」


 そうか、そうだよね。封印されてたんだもんね。


 リューンの話だと、ここがダンジョンと繋がっている事だけは分かるらしい。ただ、このグラシアレス遺跡が、現在ではエルカード王国にあるって事は知らなかったみたい。


 門の手前で立ち止まって、リューンはふっと宮殿を振り返った。


 まっすぐに見つめる瞳はまるで、ここに置いてゆく景色たちを焼き付けるかのように見開かれている。


 リューンの唇がゆっくりと動いた。



 さ・ら・ば・だ。



 声は聞こえなかったけど、たぶんそう言ったんだと思う。


 いろんな想いに、きっとお別れを告げたんだね。


「リューン……」


「……すまない……では……じゃあ行こうか」


わざわざ言い直して、リューンは私の手をぎゅっと強く握った。


「しっかり握ってて、何が起こるか分からないから」


「は、はい」


 私は握った手に力を込めたけど、ちょっと不安になって、反対の腕でリューンの腕を抱いた。


「行くよ」


 リューンの澄んだ声が響いて、私たちは門を潜る。


 同時に、来た時と同じ碧の光が……と思ったら、今度は赤い光の魔法陣だった。


「え? 何? どうなってるの!?」


 怖くなってしゃがみ込んだ私は、リューンにしがみついてしまった。


「大丈夫だから、目を瞑ってて」


 リューンは優しい声で囁いて、私をしっかりと抱きしめてくれる。


 うん、何かこうしてると安心。言われた通り目を瞑る。


「着いたよ」


 ほんの数秒の筈だけど、ずいぶん長かったように感じた。


 目を開けて周りを見渡してみる。


 あれ、何処ここ? 


 来た時は、太い石の柱が並んだ神殿の回廊みたいな所で、篝火の焚かれた白い壁で、その壁も所々崩れてて、破片が転がってて……。


「違う場所、だ……」


 ここは、それほど広くない小部屋って感じで、壁の色も石材剥き出しの灰色。飾り気も何にもないけど、真ん中が一段高い立ち台になってて、私とリューンは今その上に立ってる。


「魔法陣は……無いわね」


 そこだけは共通していた。


「条件によって発動するタイプみたいだね」


 リューンも私と同じ見解だった。条件は分からないけどね。


「とりあえず、出てみようか」


 リューンが、正面にある扉を指差した。


「攻撃系の魔法、使い方分かるよね?」


 無詠唱で発動する魔法なんて、聞いた事ないけど、頭の中に勝手にイメージが浮かんできた。


「うん、大丈夫……たぶん」


 ちゃんと戦える。もう逃げるだけじゃない。


「じゃあ行こう、リューン」


 でも、怖いから扉はリューンに開けてもらった。


 いいじゃないっ、それくらいっ! 怖いものは怖いんだもん!!




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