【第9話】思い出の品
うん、まあ、ギリギリの超ミニメイド服だけど、無いよりはマシな訳だし、これはこれでかわいいかも。
「どうかな? リューン」
左手を腰に当てて、ちょっと身体を傾けてポーズをとってみる。
「うん、大丈夫。見えてないよ」
えっと……そっちじゃあ、ないんだけど……。
「あ、そ、そう? 良かったぁ」
ここは話を合わせておこう。鈍感さんな美少年……あ、ダメ、萌えるかも。
「あとは、靴だね……う~ん、どうしよう」
リューンが困ったように眉をハの字にして、首を捻っている。
「あ、靴は大丈夫よ。私って田舎育ちだから、子供の頃は裸足で遊びまわってたし、足は丈夫なの」
「でも……」
リューンは少し悩んだ素振りを見せたけど、すぐ納得したように頷いた。
「うん、分かった。じゃあ、危ない所歩く時は、さっきみたいに僕が抱っこしてあげる」
え? さっきって、二階に上がった時?
や、やだ、うそ……ホントに? お姫様抱っこなら、もう今すぐでもって感じだよ?
「中身の確認、していい?」
「え?」
な、中身、って……そ、そんな……いきなり?
それって……ちょっと背徳的じゃないかな? あ、背中がぞくってきちゃった。えっと、恥ずかしいけど……どうしてもってリューンが言うなら……。
「何か役に立つ物があるかもしれないし」
リューンは収納箱と、その前に並べられた箱の中身を指さした。
「あ、はい」
そっちかぁぁぁ!! 盛大に勘違いしたよ!! 良かった口に出さなくてっ、またジト目で見られるトコだったよっっ。いえ、それはそれで、ご褒美かなって思うけど。
だいたい、さっきまでほとんど裸だったんだから、もう十分見てるわよねっ。ってかリューンってば、ずっと目を逸らしてたじゃないっ。いきなり見せてなんて言う筈ないじゃないっ、アホか私っ。
心の中で一人ツッコみやってるうちに、リューンは座り込んで、床に並んだ小箱を確認し始めた。
一つ箱を開ける度に、リューンの表情が変わっていく。
眉をひそめてみたり、驚いたように目を丸くしたり。
懐かしむように目を細める事もあれば、楽しそうにふっと笑ったり。
一つ一つに、思い出が詰まってるんだろうな。
その姿は、とても人間を恐怖に陥れた魔王だとは思えない。
「あ……」
小さな声を漏らして、リューンは開けた箱の中から、白いティーカップを取り出した。
同じデザインのカップが二つ。ひとつは空色の模様で、ひとつはピンクの同じ模様。
きっとペアカップだ。
魔王様にしては、かわいい感じのカップ。ひょっとして、相手の人が選んだのかな?
リューンは掠れた声で短く何か呟いたけど、私には聞こえなかった。
ううん、これはきっと聞いちゃだめだ。
ピンクのカップを目の前に掲げて、身じろぎもせずに見つめ続けるリューンは、今にも泣きそうな顔をしてる。
大切な人だったんだね……。
〝最後の一人〟
それが、その人だったの?
見られたくないかもしれないけど、何故かちゃんと見ててあげないといけない……そんな気がして、私はリューンの横顔を静かに見つめていた。
やがて、すんっと小さく鼻をすする音がして、リューンはカップを元の箱に入れた。
それから、私の方を見上げて、
「ごめんね……ありがとうお姉ちゃん」
と、囁くような声でほほ笑んだ。
「ううん、ゆっくりでいいよ」
リューンは首を振って、最後に残った細長い化粧箱を手に取った。
一旦床に置いたその箱を開けた途端、思い出に浸るようだったリューンの顔が、まるで獲物を狙う肉食獣のように凛々しくなった。
「残しおいて……くれたのか……」
リューンはゆっくりと箱の中身を掴み、革製のホルスターから抜いた、白い短剣のようなおそらく武器を、裏表を確かめるように目の前で返した。
長さは30cm程度。
暫くそれを見つめた後、リューンは手に持った白い短剣を、腕を伸ばして水平に構える。
何となく、空気が緊張してゆくのを感じた。でも、けっして怖いようなものじゃない。
リューンが、グリップを握る右手にぐっと力を込める。するとグリップの先、シースとの間に埋め込まれた赤い大きな宝石が、まるで鼓動を始めたかのように輝き点滅する。
「リューンの意志に、反応してるの?」
「そうだ」
独り言みたいに呟いた筈の私の言葉に、リューンは軽く頷いて答えてくれた。
話し方が元に戻ってるのは、昔の気持ちを思い出したからかな。
「これは魔剣『エミュレーン』、訳があって預けておいたのだ……」
エミュレーン……それって聞いた事がある。
初代魔王とともにあった、伝説の魔剣。
刀身は闇夜に妖しく輝き、全てのものを切り裂く月光を撃ち放つ大剣。
あれ? 大剣?
えっと、どう見てもリューンの持っているの短剣だよね? それに魔剣っていうほど禍々しい感じじゃないし、どっちかっていうと白くてかわいい、赤いラインもお洒落だし……。
「そのうち見せてあげる。お姉ちゃんを守ってこのダンジョンを出るには、これが絶対必要だから」
リューンはにこっと笑って、ホルスターに戻したエミュレーンを腰のベルトに装着した。
でも、魔剣の力なんてリューンに必要なのかな? ミーノータウロスと戦った時だって、ただ腕を振っただけに見えたし、圧倒的な蹂躙だったよね?
私がその疑問を口にしたら、リューンは嫌な顔一つせずに答えてくれた。
「僕の力はまだ半分も戻ってないんだ。復活したばかりっていうのもあるけど、僕はお姉ちゃんと魂を共有してるからね。実際、あと何度か魔力を使ったら、戦えなくなると思う」
「え……そうだったの……?」
それにしては、随分余裕があるみたいだけど……。
「うん、でもね、いざという時は、お姉ちゃんが戦えばいいんだよ」
さらりと言い切っちゃったねリューン。
うん、できればね、お姉ちゃんそうしたいの。でもでも、ごめんなさい。お姉ちゃんね、非力だし攻撃魔法使えないし、魔物のエサになるのが関の山だよ、いろんな意味で。
「大丈夫だよ、ステータスを確認してみて」
清々しい笑顔。うん、その笑顔に騙されても私、後悔しないって誓える。
でも……。
ステータスビュワーを展開して、リューンの言う通りスキルを確認したら……心臓が止まりそうになった。
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