【第6話】ショタ魔王は天使でした!

 神様、私は今真っ白に燃え尽きました。


 私は、これ以上ないくらい幸せです。


 神様、お許しください。私はあなたを裏切ってしまいました。世界を裏切ってしまいました。


 でも私は幸せです。


 たとえ封印を解いた彼が、初代魔王だとしても。


 そして、彼に罪があるとすれば、それは彼が超絶美少年だった事。


 美少年のお姉ちゃん呼びは正義です! 


 なにものにもかえがたい、そして、尊いものです!


 そしてそして、私の罪をお許しくださいっっ!!


「お姉ちゃん?」


「はっ」


 やばっ、別の世界に飛んでた。


「お姉ちゃん、これからの話をしてもいい?」


「はうっ」


 現実に戻ってきた私だったけど、また意識が飛びそうになった。


 だって、天使みたいな美少年が、つぶらな瞳でじっと見つめてくれるんだよ。


 どんなご褒美って感じじゃない?


 あ、いけない、えと、これからの話ね。


「とりあえず、ここから出たいかな、あと服もほしい……」


 申し訳程度に残った下着を指先で摘まんでみる。人に会ったら、めっちゃ恥ずかしいよ。


「そ、そうだねっ、先ず服を探そうっ。僕が魔法で出せれば良かったんだけど、まだ力が戻ってなくって……」


 リューンが頬を染めて顔を背けた。あれ? 照れちゃったのかな、魔王様かわいい。


「リューンのせいじゃないよ、大丈夫だから」


「うん……」


 天使がはにかみながら笑った。


 はあぁぁぁん……もうダメ、私、ここから生きて出られるかしら。


「とりあえずここを出て、上の階に行こうよ、お姉ちゃん」


「え、あ、は、はい、そうね」


 あれ? 今の言い方、まるで……。


「リューンって、ここが何処だか知ってるの?」


「もちろん、ここは昔僕が使ってた宮殿だよ」


 昔使ってた宮殿って事は、ここって魔王宮? 


「じゃあ宮殿ごと封印されたの?」


「うーん、っていうか、封印されたのは僕だけで、宮殿は仮想空間に飛ばされたみたい、よくわからない」


 リューンはぷいっと顔を背けた。眉間に皺をよせて、口を真一文字にむすんでどこか悔しそう、あんまり話したくはないのかな? それはそうよね、勇者に負けて封印されちゃったんだから。


 グラシアレスのダンジョンとこの魔王宮の関係とか、聞きたい事はあるけど、今はやめとこう。リューンにこんな顔されると胸が痛む。


「あ、でも、ここがリューンの宮殿だったのなら……さっきのミーノータウロスって、やっぱりリューンの部下だったりするの?」


 それだと、自分の仲間を殺させた事になるよねやっぱり。


「違う、私は魔物を使ったりしない!」


 リューンは声を荒げて、少し怒った顔になった。それに、話し方も大人に戻ってる。


「ご、ごめんねっ、私、そんなつもりじゃ……」


 反省。


 魔王は魔物を使役するものって、勝手に解釈してた。今の魔王がそうだからって、リューンもそうだとは限らないものね。


「ホントに、ごめんね……リューン」


 リューンは目を閉じて首を振った。


「いや、おま……お姉ちゃんに怒ったんじゃないんだ……僕は、あんな、見境なく女性を凌辱するような下衆は大嫌いだ」


 原型をとどめていないミーノータウロスの死体を睨みつけて、リューンは拳を握った。


「あの……もしかして、だから助けてくれたの?」


 無言のままリューンが頷く。


 えっと、リューンって魔王なんだよね? 世界の破壊者で、混沌と殺戮をもたらす悪しき存在……なのよね? 


 私はなぜか自然とリューンを抱きしめていた。今度は感謝の気持ちを込めて、そっと優しく。


「お姉ちゃん?」


 伝説の中に語られる魔王とは、ちょっとイメージが違う。ううん、過去はどうか分からないけど。


 でも今のリューンは、単なる殺戮者ではないような気がする。


 ゆっくりと手を離すと、リューンは頬を染めて俯いた。


「お姉ちゃん……」


「なあに?」


「服……早く、探しに行こう……あの、それ……」


 遠慮がちに差したリューンの指先を目で辿る。


 うん、私の胸だね、む、ね……!?


「みやぁぁぁ!!」


 下着がずれて、ギリギリになってました。


「ご、ごめんねっっ、リューン!」


 いやああん、いたいけな少年に変なもの見せちゃった!? 教育上よろしくないよねっこれ!


 でもでも、私のせいじゃないの、私は被害者なのっ! 誓って、見せたかったんじゃないからねっ。お姉ちゃん変態じゃないから、お願い引かないでっっ!!


 あ、でも待って。姿は超絶美少年だけど、リューンって魔王だったのよね? 大人だよね中身って。咄嗟に謝っちゃったけど。


 あれ? 何でリューンが恥ずかしそうにしてるの? 普通は見られた私がその位置じゃないかなぁ。


 えっと……魔王様って、案外うぶ? うん、間違いなくうぶです。最初に私を見た時も顔赤かったし。これはこれで……めっちゃカワイイ!


 だめだめ、落ち着け私。続きはここから脱出してからね。延々とこんな事してる場合じゃないぞ私。


「じゃあ、上の階に行ってみようかリューン。いつまでもこんな格好じゃ、恥ずかしいし」


 ずれた下着をさりげなく戻す。でももうこれ、ほとんど意味ないけど。


「うん、じゃあついてきて」


 リューンの先導で廊下に出たら、いきなり残りのミーノータウロスが襲ってきた。


「目障りだ、消えろ」


 顔色一つ変えないリューンの攻撃で、ミーノータウロスはバラバラの輪切りになった。何度見ても怖い。腕を振り下ろしただけに見えるけど、いったいぜんたいそれはなんなのでしょうか……。


 一階に湧いてたやつも、みんなその調子で肉片に変えて、二階へ上がる崩れた階段の前でリューンは立ち止って振り返る。


「ちょっと我慢してね、お姉ちゃん」


「ひゃう」


 私よりも小さな身体にもかかわらず、リューンは軽々と私をお姫様抱っこで抱き上げ、そのまま二階へと飛び上がった。


 もうね、さすがは魔王様ってかんじ。身体能力すごっ。


「怖くなかった?」


 私をおろしながら、優しい目で尋ねてくれる、この気配り。


 何か、ホントにお姫様になったみたい。


「う、うん、大丈夫、怖くなかったよ」


 もう、君の優しさが怖いです。

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