【第5話】初代魔王はショタでした!

「ご、ごめんなさあああいっ!!」


 我に返って男の子を離した。


 やだ、どうしようっ。思わず抱きしめちゃったけど、鼻も口も塞いでた!?


 ほぼ素肌だから、い、息、できなかったよねぇ……。


 なんだか額から汗が一筋……。


「……復活した直後に……窒息死する、ところ、だったぞ……」


「あ、はい、ごめんなさい」


 黒髪の男の子(超絶美少年)は、息を整えながら眉をひそめて、責めるような目で私を見つめてる。


「落ち着いたか?」


「はい、落ち着きました、ホントにごめんなさい」


 もう少しで窒息させるところだったけど、ほとんど条件反射なの……。


「謝る必要はない。ただ、ある程度の力はあると言っても、身体はお前と同じ人間だ、気を付けてくれ」


 優しい……。


 許してくれるの? 死にそうになったのに? 天使? もう天使だこの子。後光が射してると言っても過言ではないと思う。


 私と同じ人間? とんでもありません、君に比べたら、私なんてその辺の石ころです。むしってもむしっても生えてくる雑草です、日陰に生えてる変なキノコです。


 えっと、何か男の子(超絶美少年)がジト目で見てる。


「まさか、考えてる事、分かるんですか?」


「分からん、だが、表情がおかしい」


 あ、そういう事ね、うん、納得。


 でもね、そんな腐ったモノを見下げるような目も素敵。もっと見て。いっぱい見て。


 あ、いけない、また暴走しそうになった。


「あれ? でもさっきはたしか、頭の中に直接……?」


「契約前の事か? あの時は肉体の無い状態だったからな、お前の意識に直接干渉する事ができた。だが、 肉体を得た今の状態では難しいな。むろん、やろうと思えばできなくはないが」


「やらないんですか? けっこう便利な機能のような気がするんですけど?」


「四六時中、考えを知られたくはないだろう?」


 あ、それはたしかに嫌かも。


「……はい、そうですね、知られたくは、ないです」


 ヤバい人かと思ったけど、この男の子(超絶美少年)って、案外優しい?


「一つ聞きたいのだが、この姿はいったい……」


 男の子(超絶美少年)は両手を広げて、自分の姿をまじまじと確認している。


「天使ですっ」


 きっぱり答えたら、またあのジト目で見られた。


 ああっいいっ。もっと、もっとっ。


「話しを進めたいのだが、いいか?」


「あ、はい、ごめんなさい……」


 身悶えしてたら、冷静に反応された。ちょっと落ち着け私。


「もう一度聞くが、なぜ子供の姿に?」


 男の子はじっと私を見つめて答えを待ってる。怒ってる感じじゃないけど、不満、あるよねきっと……。


「……あの、言わなきゃダメ、ですか?」


 あの時……。


 この人の事をイメージしろって言われた時、私は……。


「いや、言いたくなければ別に構わん。少々動き辛くはあるが、そのうち慣れるだろうしな」


 あれ? 意外とあっさり引き下がってくれた。


 なんか、あんまり拘らない人なのかな……。


「それから、私に敬語は必要ない。封印を解いたお前が私の主だからな」


「え、は、はあ……」


 そういえば、封印を解いたんだっけ……。


「あの……封印されてたって、いったい何の封印だったの?」


 おそるおそる尋ねてみた。ヤバい人だったらどうしよう、ってか、封印までされちゃうって、何をやったんだろ、ちょっと怖い。相当ヤバい事やってないと封印とかされないよね?


 都市を滅ぼそうとした、とか、とんでもない危険な魔法を開発した、とか?


 とにかく、何百人も犠牲になるような事よねきっと。


の封印だ」


「はぁ、なるほど秩序の……」


 え、待って、秩序の……女神……?


「私は、魔王だ」


 ぎゃあああああああ!!


 一番ダメなのきたああああっ!!


 滅ぼすの都市じゃなくて世界だったああああっ!!


 犠牲何百人じゃなくて何万人だったああああ!!


 聞かなきゃよかったああああ!!


 終わったよねこれ!? 私終わったよね、これ?


 ダメじゃんっ、とんでもない人蘇らせちゃったじゃん!!


 魔王だよ魔王!!


 魔族の長にして、人を含む世界の敵。


 殺戮と破壊と混乱をもたらす破滅の王だよ!


 私、聖女見習いなのにっ!


 魔王を倒すのが、聖女と勇者の使命なのにっ。


 秩序の女神様の祝福を受けて、聖女になるはずだったのに……。


 ……や、っていうか……。


 これで私も人類の敵確定ですか!? 討伐対象にめでたく認定ですよねっ!? めでたくないけどっ! 


 めでたくないよっ!!


 ……お父さん、お母さんごめんなさい。パムは世界の敵になりました……。


「や、やだ……もう、泣きそう……」


 いえ、実際もう泣いてますけど。涙が止まらないですけど。


「安心しろ、私が魔王だったのは千年も前の話だ」


「え? 千年……?」


「ああ、私は初代魔王。憎む相手も、殺したい相手ももうこの世にいない。それに、お前が生きている間、 あくまでも私の主はお前だ。お前が望まない限り、世界をどうこうする気はない」


「じゃあ……私が、死んだら?」


「その時はその時だ。当代の魔王もいるだろうしな。まあ、好きにさせてもらう」


「なるべく、大人しくしてくださいぃぃぃ」


 同じ時代に魔王が二人なんて最悪だ。もう、世界滅亡の未来しか見えないよ。


「……さて、では私に名前を付けてくれ」


 やだ、魔王様、切り換え早い。


「あの、でも、元々の名前があるんじゃ……」


「あるにはあるが、勇者に敗北して封印された名など、二度と名乗る気はない。主であるお前に付けてほしい」


「じゃあ超絶美少……」


「却下だ」


 はやっ、聞き終わる前に断わった?


「えっと、じゃあ……『リューン』は、どうかな?」


「リューンか、なかなかいい名だ、気に入った。それで、お前の名は?」


「お姉ちゃん」


「……いや、名前を聞いたのだが……」


「お姉ちゃんはお姉ちゃんよ。他に名前なんていらないの! 美少年のお姉ちゃん呼びは正義!!」


 あ、ヤバい。心の声が漏れちゃった。


 もしかしてリューン、ドン引きしてる?


 うん、してる。だってめっちゃ冷めた目してるもの。


「えっと、ホントは、パーミット・エクレンシア……でもでもっ、お姉ちゃんって呼んでっ!」


「お、お姉、ちゃん? それは……命令、か?」


 リューンは顔をしかめて、なんか嫌そう。でもね、ここは心を鬼にして大きく頷いて見せる。


「……了承した……お姉ちゃん」


「ふあぁぁぁ」


 いい、いいっ、何かね、もう蕩けそう。


「あれ? 了承って……?」


「私は主であるお前に服従する。それが私たちの契約でありお前の命令は絶対だ、勿論どうしてもできないものは拒む場合もあるが」


 えっと……え?


 私の命令は……絶対!? それって、あんな事やこんな事も? や、やだ、どうしよう、想像だけで私、どうにかなっちゃいそう。


「お姉ちゃん? 顔がおかしいぞ」


 んんん~、惜しいっ、美少年のお姉ちゃん呼びに、その喋り方はちょっと……。


「あの、もう一つ命令します」


「なぜ敬語になった?」


「弟になってください」


 もう一か八か言うだけ言ってみる。なんとなく恥ずかしいけど……。


「私は、お姉ちゃんの肉親にはなれない」


 うん、もちろん分かってる。そうじゃなくって……ね。


「肉親になってほしいんじゃないの。そのふりでいいの。だから、喋り方をもっと少年っぽくして」


「……それも……命令、か……」


「はい。命令ですっ」


 リューンは大きく溜息を零して目を閉じた。


 本当に嫌な事は断るって言ってたし……嫌、なのかな? うん、普通は嫌だよね……私、ちょっと我儘だったかも。


「……弟が……?」


「え?」


 真っすぐ向けられたリューンの瞳は、私の心を見透かすように光を映す。


 リューンは、『いたのか』と、過去形で言った。


「はい……」


 けっこう勘が鋭いんだ、魔王様。


「だが、それだけでもなさそうだな……」


「え……?」


 なんだろう、ホントにいろいろと見透かされてるみたい。


 暫くじっと考えていたリューンは、不意に顔を上げ諦めたように笑った。


「……なるほど、了承した……」


「え、ホントに、いいの?」


 おそるおそる尋ねてみたけど、リューンは嫌そうな顔もせずに、優しい目で私を見つめている。


「特に拒否する理由もない。では、こんな感じでいいか? お姉ちゃん。これから、よろしくね、僕いっぱい役に立つよ」


 リューンは、満開の花のように笑った。


 あ、これ……心臓止まったかも……。

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