第214話 第三勢力について
1
十月最後の土曜日。
結局、未夜のブロックは金曜日まで及び、朝華がいない平日のうちに勝負を決めるというあたしの作戦は失敗に終わった。
未夜を引きずり込んで膠着状態に持ち込むという朝華の策が上手くハマったわけだが、未夜の強みを考えると、これは朝華にとっても強大な壁になることは間違いない。
未夜の武器は勇にぃとの距離感。
今のところ勇にぃからは妹みたいな扱いのため意識されていないものの、いつでも何かを仕掛けることができるポジションにいるのは未夜の大きな武器となる。
これを崩すには、あたし一人だと厳しい。
「――ってわけなんだけど」
「ふふ、大変そうだね。眞昼ちゃん」
未夜を引きずり込んだ張本人、朝華は微笑を浮かべてコーヒーを一口飲んだ。
場所は〈ムーンナイトテラス〉ではない。イ〇ンにあるカフェだ。土日に帰省してくる朝華と富士宮駅で待ち合わせをし、その足でここにやってきたのである。〈ムーンナイトテラス〉に寄る前に朝華と話をしたかったのだ。
「言っとくけどね、朝華が思ってるよりも遥かに未夜はヤバいよ」
「知ってる。でも、私としては今の状況はとても理想に近いものだよ。箱根では眞昼ちゃんに出し抜かれちゃったから、ここらでリセットしないとね」
「リセットどころか、チェックメイトの危険もあるかもね」
「……?」
朝華はまだ直に未夜の動きを見ていない。未夜の危険性を認識できていないのだ。今はまだ妹分の未夜を勇にぃが女として意識したら……
だが、あえてまだ朝華にはその危険性を言わないことにする。それはあたしだけが知っている、あたしだけのアドバンテージだからね。
未夜をぶつけることであたしの動きを止めようとした朝華。おそらく、こっちの場が膠着している間に勇にぃを落とす新たな策を考えるのだろう。だが、未夜の危険性を知らずに計画を立てれば、必ずどこかで読み違いが起こる。
その時初めて、朝華は未夜を参戦させたことを後悔することになるだろう。
「あと、あたしのライバルが一人増えるってことは、朝華のライバルも増えるってことだからね」
「過程がどうあれ、最後に勝つのは私だもん」
「あたしも全く同じ気持ちだね」
「ふふふ」
「あはは」
勇にぃを手にするのはあたしだ。
未夜や朝華には絶対に負けない。
2
「うおお」
「どうしたの? 勇にぃ」
「いや、なんか急に寒気がな」
店内はほどよく暖房が効いているのだが、この悪寒はいったい……?
「もうちょっと厚着すれば?」
「仕事中だし大丈夫」
「でも手はあったかいじゃん」
未夜が俺の手を取り、ぎゅっと握る。
「ねぇ、あとでご飯食べ行こう?」
「昼の休憩になったらなー」
3
眞昼ちゃん、この一週間は苦労したんだろうなぁ。
未夜ちゃんのポテンシャル、そしてその恐ろしさは私が一番よく知っている。
未夜ちゃんの持つ一番大きな武器、それは天然だ。
時や場所など構わず突然発動し、場の状況を一転させてしまうあの天然はまるで運命に愛されているかのような気さえする。
キャンプや湘南旅行のビーチバレーなど、天然で場を動かしてきた未夜ちゃん。それ以外でも、振り返ってみれば天然が力を発揮した場面がいくつもある。
だから、未夜ちゃんの相手は眞昼ちゃんにお願いするよ。
眞昼ちゃんの行動力と未夜ちゃんの天然がかち合えば、上手いこと均衡が保てるはず。その隙に私は……
「そういえば眞昼ちゃん、話は変わるけど来週から春高の予選でしょう?」
「ん? ああ」
「応援に行くね」
「へへ、ありがと」
大事な親友だけど、絶対に負けられないライバルでもある。
不思議な関係だなぁ。
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