幼馴染を救いたい
キーンカーンカーンコーン–––––––––
本日最後のチャイムを聞いた俺はガヤガヤとした喧騒の中帰宅の準備をしながら今からすべき事を考えていた。
「それにしても、まだ顔赤いなぁ」
午前の授業の休み時間は俺のところに来ていたのだが、羞恥心からか午後の授業では一切こちらに来なかった紫乃は今もなお机に伏している。
授業中、チラッとこちらを見てきた紫乃の容貌は林檎のように真っ赤だった。
「ふぅ、よし!」
俺が今からしなければならない事は別々に帰宅する事だ。
俺は最寄りの駅から三駅離れたデパートに行かなくてはならない。
嫌だと駄々をこねるのは予想せずともわかる事だろう。
その前に俺の家に帰るという前提でおかしくないか?
紫乃の家は別にあるはずなんだが?
「紫乃、帰りだけど先に帰っててくれないかな?」
「いや、イヤ、嫌だ!!」
あんなに真っ赤にしてニヤけていたのに鬼の形相、いや鬼よりも何倍も怖い。
もう無理かも……でも、諦める事なんて出来ない。
「ごめんね。休んでた分友達に見せてもらおうと思って。紫乃も俺の看病で休んでただろ?」
「う、それはそうだけど……今日じゃなくても良いんじゃない?」
「後回しにしても結局同じ事になるだけだよ? だから、先に終わらせようと思って」
「うぅ…あ! 私も一緒に行けば良いんだ!」
頭の上で電球がピカッと光って見えた。
「いやいや、俺の友達が可哀想だからやめてあげて? イチャイチャしてるの見せられる気持ちを考えてあげて?」
イチャイチャしなかったら良いだけなのだが、俺の頭からはイチャイチャしないなどという言葉は消滅しているようだ。
「で、でも………」
ここで「イチャイチャしなかったら良いだけじゃない!」って言ってこない辺り、やはり紫乃の頭にもイチャイチャしないという言葉は無いらしい。
「本当ごめんね。すぐ帰るからさ」
「じゃ、じゃあギュってして?」
「分かった」
「んふぅぅぅ」
仮面を何枚も持っているのではないかと思うほどさっきまでの形相が嘘だったかのようにふにゃけた顔になった。
ーーーーー
「ねぇ? どうしても一緒に帰れない?」
「うん、どうしても」
もう大丈夫かと思っていた矢先、校門前で再び駄々を捏ね出した紫乃は目をうるうると潤ませて上目遣いで見上げて来た。
卑怯だ。
決心したはずの心が揺らいでしまう。
「お願い。一緒に帰ろ?」
「本当に駄目なんだ。ごめんな? その代わり家ではずっと一緒にいるからさ?」
「うぅぅぅ、わ、分がっだ……」
泣いてしまった。
こんなにも心が締め付けられる事は紫乃に無視をされた時でもならなかった。
こんな気持ちになるならいっそ……いや、駄目だ。
ここで折れてしまえば紫乃を救う事は出来ない。
「すぐ帰るから。美味しいご飯作って待ってて? 紫乃の夕御飯楽しみにしてるね」
「う、うん。美味じいの作って待っでる」
「ありがとう、じゃ行ってくるね?」
「バイ…バイ。早く帰って来てね?」
「うん、約束」
最後に指切りげんまんをしてデパートに向けて走り出した。
紫乃が待っている家に早く帰る事が出来るように。
ーーーーー
「お客様、何をお探しですか?」
デパートに着いた俺はとあるジュエリーショップに足を踏み入れていた。
ショーケースの中でキラキラとこれでもかと自身の姿形を主張しているジュエリーを見渡してみる。
「うーーん、あの、かの、えっと、心配性な友達にプレゼントしたいんですけど、どれが良いか分からなくて」
「ふふっ、そーですねぇ。此方などはどうでしょうか?」
差し出されたのはネックレスだった。
大人びた印象を漂わせているネックレスは紫乃にとても似合いそうであった。
でも、これでは確実に安心させる事は出来ないだろう。
「あっ!」
「? 此方ですか?」
一目惚れだった。
これを付けている紫乃を想像するのだが、頭の中にいる紫乃は「ありがとう」と飛びっきりの笑顔で俺の胸に飛び込んで来た。
妄想の中だというのにどれだけくっ付きたいんだよ。
いや、妄想してるのは俺だから俺がしたいのか………
俺は考えるのを止めた。
「此方でよろしいですか?」
「はい! これでお願いします!」
ジュエリーショップに入って五分も経っていなかったと思う。
「ありがとうございます。彼女さん喜んでくれると良いですね」
「えっと、あははは」
彼女と言った覚えは無いんだけどなぁ。
態度に出てたかな?
いや、まず友達にプレゼントする代物じゃないか、これ。
俺は今し
「喜んでくれると良いな」
そんな事を考えながら購入した物を大事に持ちながら帰路に就いた。
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