第6話 これから 2
勇也が上がった先の三階は一階とは違い床に赤い絨毯が敷かれ、階段の踊り場から見て左右に通路が伸びている。
踊り場から左右を見てみると、右側は一階の通用口と同じ様に扉が見える。
ロッカはキョロキョロと左右を見ている勇也を通路の左側へ促し歩き始める。
勇也はそれにならながら通路の様子を伺うと、向かって左手には窓ガラスがはめられており、遠くに住宅の灯だろうか、人工的な光がポツポツと見て取れる。
また、向かって右側には、天井から吊るされていた裸電球の代わりに、装飾されたランプが壁際に等間隔に並んでいた。
如何にも重役がいるぞという雰囲気に、サラリーマンの習性か否応なしに緊張感が増してくる。
距離にして五十歩程度か、廊下の終わり間際に重厚な扉があり、ロッカがドアをノックする。
コンコン
「はい!ただいま開けます」
扉を開けたユーリエルは、ロッカに担がれる様に立っている顔色の悪い勇也に驚いた。
「ご気分が優れないのに、この様な場所までお越しいただき申し訳ありません」
ユーリエルは頭を下げ、勇也を来客用のソファーを勧める。
「もう足首が痛くて痛くて、ホント助かります」
勧められたソファーに腰掛けた勇也はフゥと安堵の息を吐く。
「ユーリエルさん、病院の方はいかがですか?」
「既に手配済みです。此方からの説明が終わり次第、病院へ向かいます」
「了解しました。では、私の方で担架と車の準備をしておきます」
勇也がソファに腰掛けて足首の様子を見ている側で、二人がこれからの段取りを話し合っている。
ーー聞いている限りでは安心かなーー
足の腫れ具合を確認しながら勇也は一先ず安心とばかりに息を吐いた。
勇也が姿勢を戻すのと同時に、話し合いが終わったのか、ロッカが勇也に話しかける。
「キリシマ殿 私は担架と車の手配をしてきます」
「色々と有難うございました……えーと、ロッカさん?とお呼びしても?」
「あぁ、そう言えば自己紹介がまだでしたね。 私は神聖リマール王国 王都守備隊 第二大隊所属、第一中隊 第三小隊 小隊長 ロッカ・スタインと申します。以後お見知り置きを」
ロッカは勇也に向かい直立し敬礼する。
勇也は慌てて立ち上がろうとしたが、足首の鈍痛に顔をしかめると、ロッカは手でそれを制する。
「スミマセン。私は桐島勇也と言います。〇〇生命保険株式会社で働いています。改めて有難うございました」
ソファーに座りなが頭を下げる勇也に笑顔を向けて、それではと、ロッカは部屋から出て行った。
お辞儀していた頭を上げて前を向くと、白衣の女性 ーーユーリエルさんと言ったかーー が、飲み物をテーブルに置いているところだった。
「時間が時間なので、大した物ではありませんが……」
「いえいえ、お構いなく。えっと、ユーリエルさん?でよろしですか? ところで、今何時なんですか?」2
テーブルに置かれたカップを見てみると、コーヒーの様な色合いの飲み物であり、香りもコーヒーなので多分コーヒーなのだろう飲み物に口に付けつつ、時計がないかと軽く辺りを見渡す。
「私は、神聖リマール王国 魔導省 遺産管理部の主任をしています、ユーリエル・アーバインと申します。今の時刻は夜中の1時を回ったところです」
自己紹介をしながら、ユーリエルが壁にかけてある時計を見ながら時刻を伝える。
その視線の先にある時計を見て、地球と同じ時間軸で動いている事を確認した勇也はお礼を言いながら、自分が思い描いている異世界とは時代背景が違う事に少し戸惑いを感じつつ、中世よりは近代に近い方がマシかなど考えていると、扉が開いてクランが入ってきた。
「キリシマ殿 お待たせして申し訳ない」
軽く挨拶をしつつ、勇也の座るソファーの対面に座ったクランは、早速ばかりに本題を話し始めた。
「先ほどロッカ少尉から貴殿の状態を聞いた。痛む足の中無理してここまで来ていただき申し訳ない。この部屋以外に防音措置がされている部屋がなかったのだ」
クランは座ったまま軽く頭を下げる。
「いえ、それよりも改めてお聞きしたいのですが、やはりここは地球ではないのですか?」
勇也の質問にクランは申し訳なさそうな顔をしながら頷く。
「そうだ、ここは貴殿たちが言う地球という惑星ではない。我々はこの星をエリーズと呼んでいる」
クランの説明に勇也は驚きつつ肝心な部分について尋ねる。
「えっと、クランさん、先ほど”貴殿たち”と言いましたが、私以外にもこの世界に来た地球人がいるんですか?」
「うむ、その通りだ。貴殿の様に地球、というか日本国以外から我々の世界に召喚されたものはいないのだが、貴殿も含めて56名、近年では30年前にエミ・ヨシオカとい女性が召喚されている」
「えぇ!? それ本当ですか!?」
マジかよという勇也の驚きに、クランは神妙に頷く。
「それで、その、召喚?というのは帰れるのですか?」
勇也の質問に、とうとう来たかとクランが顔をしかめ、鎮痛な面持ちで帰還した事実が無い事を話だす。
「その事だが……キリシマ殿には受け入れがたい事だと思うが、帰還の方法を書かれた書物も、帰還したという話も聞いたことが無い」
「え!? ウソでしょ?」
マジかよという勇也の失望に、クランは更に神妙に頷く。
それから数分、勇也がマジか…マジか…と譫言の様に呟く姿を、クランはユーリエルと共に辛抱強く待つ。
クランからすれば当然の反応であり、初対面でのあの反応がおかしかったのだ。
ーー彼も普通の人間かーー
茫然と天井を見上げブツブツ譫言を呟いている勇也を見つつ、彼への警戒を緩めた。
エスパー桐島は異世界で生き残る 猫山 にぼし @todofox
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