第5話 これから 1

 勇也の反応に驚きと警戒心を持ちながら、クランは勇也に話しかける。


「キリシマ殿はここが地球ではないと聞いても冷静だな」


 勇也はクランの言葉に内心焦りながら「いえいえ、かなり驚いていますよ ホント」と手をパタパタ振りクランの質問を否定する。


 いい歳したおっさんが、ラノベにハマって読みまくっているとは流石に言えない。


 内心焦りつつ話題を変えようとした時、クランの前に白衣を着たスタッフが勇也を囲っているケースを持ち上げる準備ができたと報告した。


 その報告を聞いたクランはひとつ頷くと、勇也に向かってケースを持ち上げる事を伝える。


 頷いた勇也を確認したクランは、白衣のスタッフに指示を出しケースを持ち上げる。


 ゴン!ウィィィンとクレーンが動く音と共に、透明なケースが持ち上がり始める。


 徐々に持ち上がるケースを見た勇也は、安堵の息を吐いてクランの元に歩き出すが、気が抜けたのか尿意が一気に持ち上がり顔が強張る。


「結構酷そうだな。今担架を用意しよう」


 勇也が歩き出した途端に顔をしかめたのを見て、クランは白衣のスタッフに声を掛けようとしたところを勇也が止める。


「担架は大丈夫です。その、本当に申し訳ないのですが、先にトイレを……」


 脂汗を額に光らせつつ訴える勇也に、異世界人も生理現象は同じなのだなと内心で苦笑いしつつ、誰かに付き添わせようと周りを見渡した時、今まで後ろにいたロッカが自分が連れていきましょうとケースの中に入り、勇也に肩を貸した。


 ロッカの肩を借りながらケースを出てきた勇也にクランが声をかける。


「キリシマ殿、今の状況に色々と混乱していると思うが、詳しい話は私の部屋で行うので用が済んだら来て欲しい」


「はい、わかりました。」


 勇也は相当我慢しているのか、神妙な顔をして肯く。


「ロッカ少尉すまんな。彼の用が済んだらそのまま私の部屋へ案内してくれ」


「了解しました」


 では、行きましょう。と勇也に肩を貸したロッカが入口へ向かったのを確認し、クランは残っているスタッフへ指示を出し始めた。



◇◇◇◇◇◇



 倉庫の様な建物 ー実際に倉庫なのだろうー の入口を出た先に、左右に分かれてに立っている兵隊らしき格好をした若い男が二人いた。


 その一人が勇也達に気が付き敬礼する。


「ロッカ少尉、お疲れ様です! そちらの方は……?」


 若い男性が、こんな人いたっけ?って感じで勇也を見て不思議そうな顔をする。


 その男性に、早くトイレに行きたい勇也は顔を引きつらせつつ笑顔で会釈をする。


「情報統制案件だ。これ以上の質問はなしだ」


 そんな勇也の気持ちを知ってか、ロッカ少尉は ー多分部下であろうー 端的に返答しつつ、勇也の足に負担がかからない様に気遣いながら、足早にその場を離れる。


「ありがとうございます。助かります」


 勇也はロッカの肩に腕を回しつつお礼を言うと、ロッカは首を振りつつ「後で詳しい説明があると思いますが、貴方の存在は国家機密扱いになりますので、彼らに教える事は出来ないのです」と教えてくれた。


「国家機密……ですか?」


「はい。その辺も、クラン部長が話されると思いますので……あ、トイレに着きました」


 倉庫を出て、直ぐ横にあるレンガ作りの建物へ入った先は廊下になっており、天井から裸電球の様な温暖色系の明かりが点々と繋がっている。


 トイレは扉から数歩行った先にあり、扉には『男性』『女性』とキリル文字みたいな文字で書かれている。


 うわぁお! 読めんじゃん!


 勇也は内心驚きつつも、先ずはトイレだと扉を開けて痛む足を我慢しつつ、いそいそと個室に入った。



◇◇◇◇◇◇



「どーも、ありがとうございました」


 悟りを開いた顔をしながらお礼を言う勇也に苦笑いしながら、ロッカは三階にあるクランの部屋へ勇也を案内する。


 エレベーターは流石に無いのか階段での移動となったが、尿意から解放されて緊張が解けた勇也は、ズキズキと痛み出す足首に脂汗をかき始める。


「痛みますか?」


 ロッカが肩越しに聞いてくる。


「えぇ、ちょっとキツいです」


 額から汗を滲ませる勇也を見て、ロッカは背におぶるかと勇也に問いかけるが、いい歳したおっさんのプライドが邪魔をして勇也は首を振り階段を登り始めてフト気が付く。


 ーーそうか、足を軽く持ち上げればいいのかーー


 勇也はロッカに気がつかれない様に、担がれている反対の手で痛む足首に手を向ける。


 ーー意識を足首に……柔らかく……そうだ、いい感じーー


 徐々に足にかかる荷重が減ってくる事で、地面に着いた時の鈍痛が弱くなるのを感じて勇也は安堵の息を吐く。


 ロッカの提案を断った勇也が下を向いて黙々と登り始める姿に、異世界人は我慢強いのか、それとも弱みを見せない為に無理をしているのか判断がつかないなと考えつつ、まぁ自分でも同じ状況ならそうするかと勇也の行動に共感を感じながら裕也と一緒に階段を登った。

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