第2話 ここはどこ?

 地面に沈み込む瞬間に見た、雪菜と父親の顔を思い出して目が覚めた。

 

 足首と背中、そして後頭部がとても痛い。

 

 目蓋を閉じたまま、身体に異変がないか意識を向ける。


 痛み以外は特に変な感じはしない。


 痛みの原因は多分、上から落ちたのだろうと予想できるが、取り敢えず生きている事が確認できたので良しとする。

 

 フーッと大きく気を吐き、目蓋を開けてみる。

 

 目蓋を開けて瞳に映ったのは……暗闇だった。

 

 一瞬、失明したのかと血の気が引いたが、暗闇に慣れてきた瞳は、顔の前でヒラヒラしている軍手越しの自分の手が薄っすら見えた事で大きく息を吐いた。

 

 さて、これで意識はしっかりしている事が判った。

 

 次は記憶だ。

 

 俺の名前は、桐島勇也 三十一歳 結婚して子供もいる。

 

 子供の頃からある力が使えるが、世間に知られない様にしている。

 

 二十五歳の時に付き合った春香と三年前に結婚、長女の雪菜が生まれて去年郊外に二世帯住宅をローンで購入し、娘のため、家族のため、頑張って働いているところだ。

 

 よし、頭も正常だ。

 

 自分の記憶を確認してから、体を起こして胡座を掻いて手を握ったり開いたりして、感覚を確かめる。

 

 うん、特に異常なし。

 

 しかし、真っ暗過ぎて何も見えん。

 

 そこで、ウエストバックから携帯電話を取り出して電源を入れると、ホーム画面に圏外表示と今の時間、十時三十分である事を確認し、画面をひっくり返して辺りを照らしてみた。

 

「十分ぐらい気を失ってたのかな……」


 こちらに引き摺り込まれる前に聴いていたラジオの交通情報を思い出し、独り言を呟く。

 

 家族の事を思い出すと血の気が引くが、今は状況確認だと自分に言い聞かせ、改めて辺りを観察すると、床は石畳、天井は高いためか暗闇のまま、そして気になるのが、自分を中心とした四隅に、三脚に取り付けた大型のテレビカメラの様な何か不思議な機械。 


 「うーん?何だこれ?」


 痛む足首を気にしつつ、足を引きずりながら謎の機械に近づいて良く見てる。

 

 構造はビデオカメラの様な感じだが、レンズはなく、レンズの代わりに四角い板みたいな物が付いていて、その全てが何か壊れた様にヒビが入っていた。

 

 「うーん、良くわからんが、俺の知ってるテンプレとは違うな、ホントに異世界召喚なのか?」

 

 勇也は愛娘を中心に展開されたのは所謂魔法陣であり、召喚された先には「おぉ!勇者よ!」などと言っている王様やら何やらが居るものと考えていた。


 

 ここで読者諸兄はお気付きと思うが、勇也はその生い立ちのお陰で立派なオタクである。

 

 何てたって、生まれながらの超能力者なのだ。

 

 そんな荒唐無稽な能力を伸ばそうと思えば、必然的に「その手」のお話に精通する訳であり、その環境でオタクになるのは必然なのである。

 

 閑話休題


 

 勇也はそのオタク力を駆使して、今回の件が異世界召喚系の話だと思っていたが、それがどうだろう、真っ暗闇の中に変な機械がポツンとあるだけ。


 コレは所謂ダンジョン系?なのかと自分を納得させ、取り敢えず此処が何処なのか、調べてみようと痛む足を引き摺りながら手探りでソロソロと歩き出した。

 

 すると、四隅に置かれている機械から、二歩ほど離れた先にガラスなのか透明な壁にぶち当たり、そこからグルッと一周してみたが出入り口の無い透明な壁に囲まれた空間にいる事が判った。

 

「俺はレスター教授か!」

 

 思わず羊達が沈黙してしまうツッコミをしながら、この異様な空間に薄気味悪さを感じる恐怖を押さえ込むのであった。

 


◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「準備は出来たか?」

 

 クラン・ソルエルは、部長室の自席に座り、数名の部下と共に準備を進めていたユーリエル女史に話しかけた。

 

「警備部から先程、当直の責任者含め三名が到着しましたので、いつでも行けます」

 

 ユーリエルは、緊張で顔が硬っている部下を一瞥した後、クランに出発可能であると報告する。

 

「王宮への連絡は?」

 

「既に連絡済みです」

 

「医療スタッフは?」

 

「時間が時間なので、緊急性が無い限り、明日からの精密検査の準備と個室の手配までにしています」

 

 ユーリエルの回答に、壁掛け時計を見てみれば既に夜中の一時を回っており、思わず苦笑いをしてしまう。

 

「よろしい、では諸君、これから異世界人の迎えに向かおう」

 

 クランは部屋にいるスタッフへ声を掛けた後、先頭に立ち部長室の扉を開けた。

 

 扉を開けた先には、濃紺の警備用軍服に身を包んだ三名が立っており、その中の左肩に朱色のモールを付け、帯剣している若い将校が敬礼と共にクランの前に立ち挨拶をする。

 

「本日の警備主任であります、ロッカ少尉であります!」

 

「魔導省 遺産管理部 部長のクランです。本日は急な召集でご迷惑を掛けますが、よろしくお願いします」

 

 クランが警備主任に軽く会釈をすると、ユーリエルを含むスタッフ達も頭を下げる。

 

「こちらこそよろしくお願いいたします。 ところで、我々は遺産保管五号倉庫で異常発生と聴いており、危険性は低いとの事ですが……」

 

「ええ、爆発などの危険性はありませんが、何があるかは情報規制対象となりますので……失礼ですが、少尉の情報閲覧権限は?」

 

 ロッカ少尉と二人の部下が少し不安そうな顔をして聴いてきたので、クランに代わりユーリエルが質問に答える。

 

「自分の情報閲覧権限は……」

 

 ロッカ少尉は話しながら胸ポケットから身分証を取り出しユーリエルに手渡す。

 

 ユーリエルは身分証を一瞥し、クランへ確認。

 

 クランが頷いたのを確認してから身分証をロッカ少尉へ返却する。

 

「この時間帯で情報閲覧権限を持つ責任者がいて下さり、大変助かりました。詳しい話は向かいながら説明します。」

  

 そして、クランを筆頭に警備担当三名を加えた総勢七名は、問題の五号倉庫へ歩き出した。

 

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