エスパー桐島は異世界で生き残る

猫山 にぼし

第1話 プロローグ

 桐島勇也はエスパーである。


 嘘じゃ無いよ? ホントだよ。

 

 桐島勇也 年齢三十一歳、中肉中背、顔面偏差値は平均であるが、中堅どころの保険会社に務め、結婚し二歳になる娘もいる、普通のサラリーマンである。


 そんな世間一般的な普通の彼であるが、生まれ持った才能をひめていた。


 それが超能力である。


 そんな彼の出生は劇的であった。


 出産直前の心停止、五分以上行った心肺蘇生の甲斐もなく、医師が両親に向かって死亡宣告をする直前に自力で息を吹き返す。


 その時慌てた看護師が、彼の頭に医療機材を落した事は良い思い出である。


 心停止か、それとも頭に落ちた医療機材が原因なのかは不明だが、彼が一歳の時に超能力が開花した。


 当時、一人遊びをている我が子を横目に洗濯物を干していた母親は、息子がおもちゃを浮かせて遊んでいる姿に驚愕する。


 慌てた母親は父親に連絡をしたが、荒唐無稽な話に父親はまともに取り合わず定時に帰宅。


 帰宅した後、母親の話を適当に返事をしながら晩酌をしている父親の目の前で、息子はお気に入りのおもちゃを浮かばせてキャッキャと遊びだし、それを見た父親がビールを吹き出した。


 そんな息子に対して、当時、昭和50年代はイジメが社会問題になっていた事もあり、両親は息子の将来を心配して目立つことがない様に彼の教育を始める。


 ただ、彼の両親が素晴らしかったのは、単に隠すだけでは無く、彼の能力がいつか日の目を見る事があるかもしれないと、当時のサブカルチャーである映画、漫画、小説等を読み漁り、彼に超能力の使い方を教え続けた事かもしれない。

 

 それから三十年

 

 桐島勇也は両親の期待通り立派な『一般人』となり、三歳下の彼女と結婚、二歳になる愛娘と美人な妻と共に、日々充実した毎日を送っていた。

 

 そうした日々の中で、日の目を見る事の無かった彼の能力であるが、ついに日の目を見る事となる。


 それが日本で無かったとしても……。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 


 今日は花の金曜日、時間は二十時を少し過ぎた頃、何時もの様に残業し、一時間半の通勤時間をスマホ片手に時間を潰て郊外にある二世帯住宅へ帰宅する。

 

 両親の援助もあるが、三十台で一軒家を購入出来たことに勇也は満足しており、ここ最近は飲み会にも参加せず、週末は庭の手入れや近所に借りた家庭菜園の世話を、愛娘と定年退職した父親の三人でするのが日課となっており、勇也は明日の予定を考えながら足早に自宅までの道のり歩いていた。


 玄関を開ければいつものとおり、食事をしながら妻と今日あったことの話をし、子供を寝かしつけて、動画配信サイトを見ながら軽く一杯ひっかける。

 

 こうして勇也の日常は過ぎていく、いつものように……。


 翌朝、朝食の後、愛娘に長靴を履かせて父親と共に家を出る。


 今日は雑草とりと、先日植えたきゅうりの収穫だ。


 天気は快晴、気温もそれほど高くなく大変過ごしやすい。

 

 勇也は愛娘の手を握り、父親と次に何を植えるか話をしながら畑に向かう。

 

 畑に到着し、何時もの様にラジオのスイッチ入れてから、娘と一緒に雑草を抜き始める。

 

 ラジオからはFM局のパーソナリティーが軽快な口調で地元の情報を流している。

 

 すぐに飽きた娘が遊び出したのを視界に置いて、勇也は残り少なくなった雑草をヒョイヒョイと抜いていく。

 

 ザッザザ ザーーーー!

 

 不意にラジオに雑音が入り、何事かと勇也が立ち上がると、しゃがんで遊んでいる娘を中心に円を描く様に変な模様が浮かび上がっている。

 

 それが何か判らないが、とにかく娘から遠ざけようと、娘を抱き上げてその場から離れようとした時、勇也の足が模様の中に沈み込み始める。

 

「うぉ!?」

 

 勇也が驚いて声をあげた事で、父親が気付き勇也の方へ慌てて駆け寄ってくる。

 

「勇也!どうし……」 

 

 父親がみた時には膝まで地面に沈み込み、今も結構な速さで沈んでいく勇也の姿であった。

 

「オヤジ! 雪菜を!」

 

 勇也は、この状況に呆然としている父親に、びっくりしてしがみついてる娘を引き渡す。

 

 この時点で腰まで沈み込んでおり、そのスピードはどんどん速まって来ている。

 

 勇也は沈んだ先の感覚が全く無い事を直後から感じており、その衝撃が大き過ぎて逆に冷静になれ、娘を助けられた事に感謝した。

 

「オヤジ、娘と嫁さんを頼むな」 

 

 その一言を残し、勇也は地面に沈んで行った。

 


◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 


 神聖リマール王国

 

 総面積七百万Km2 大体オーストラリアと同じ大きさのローレシア島を統治している王政国家である。

  

 大陸とは最新の魔導船を持って一週間、帆船ならばその倍以上は掛かる距離にあり、他国からの脅威も低く至って平和な国の中にあって、魔導省遺産管理部では深夜の中、厳戒態勢が敷かれていた。

 

「状況はどうなっている」

 

 次年度の予算会議が長引き、先程自宅に帰宅した途端に緊急事態として呼び戻された、クラン・ソルネル部長は、ため息を吐きながら疲れた感じで担当主任である、ユーリエル女史に問いかけた。

 

「はい、三十分ほど前ですが、異世界召喚陣より急激な魔力上昇を確認しました」

 

 ユーリエルは、計測結果をまとめた資料をクランに手渡す。

 

「今の封印では、召喚陣の起動を抑え込めなかったか……」

 

 手渡れた資料からは、召喚陣から発せられた魔力を封印が抑え切れずに崩壊した状況が良くわかった。

 

「それで、召喚自体は終わっているのか?」


「はい、部長が到着される十分ほど前に終了しています」


「そうか……転移された方は気の毒だな……」

  

 ユーリエル女史の返答にクランはため息を吐き、気持ちを切り替え、手近にいるスタッフへ指示を出す。


「本件を王宮に連絡、それと警備兵と医療スタッフに至急来る様に連絡してくれ」 

 

 クランの指示にスタッフ達が慌てて動き出したのを見渡して自席に座り、差し出されたコーヒーを啜りつつこれからの事を思案した。

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