クラファンやることにしました

「この調子じゃ、そのうち潰れちゃうよね~」

 ということを率直に認めてから、私は宅配弁当のオムライスを一口ほおばりました。

「そうですね……。どうにかして、最小限のコストと労力で可能な方法を考えませんと……」

 アキナも腕組みしながら、同意します。私はオムライスを飲み込んでから、

「ん~。なんかさ~、もう一気に全部片づけちゃいたいよ~。そのために不要品いっぺんに配る、フリマ的なイベントやれないかな~」

 と、ぽろっとこぼしました。そしてすぐに「……それもお金の面では厳しいよね~。言ってみただけ~……」と撤回(てっかい)しますが、

「……それ、やってみましょう。お嬢様」

 アキナは力強い笑顔を浮かべながら、後押ししてきます。

「え~? そんなことしたら、会場を借りたりとか、スタッフさん雇ったりとかで、余計にお金かからな~い? 無理だよ~」

 と、私は渋るものの、

「そのお金は、クラファンで調達しましょう。必要経費は、私が可能な限り抑えます。どうかお任せください」

 アキナはなおも、ぐいぐいと来ました。その自信満々な言葉を聞き、力強い笑顔を見て、私もちょっとできそうな気がしてきたので、

「ん~。正直、クラファンで上手くいく可能性ってどれくらいあるの~?」

 と、腕組みしながら、ちょっとだけ乗り気な質問をアキナにしてみます。

「目標金額の二割を、募集開始から一週間以内で集められれば、成功率は高いです。その二割は、鷹谷さんやなつきさんにお願いしてみましょう」

 という彼女の答えに対し、私はまたも、

「う~ん。だけど、椿さんをこれ以上頼るわけには……。なつきちゃんにも、迷惑かけるのは気が引けるし……」

 と渋りますが、

「残り八割は、お嬢様と私が努力する分です。それでも、ご納得いただけませんか?」

 アキナは、さらに一押ししてきました。よって私も、少し考えてから、

「このままじゃ、明らかに駄目だし……。よ~し、クラファンでイベントやろ~、アキナ~!」

 と、親指を立てながら、彼女に同意します。そして、

「本当に、頼もしい相棒に育ってくれたね~! これ、一口あげるよ~!」

 なんて言いながら、思わずオムライスを一口、スプーンでアキナに差し出しました。そしてすぐ「……ごめ~ん。今のアキナは、食べられないよね~……」と気づいた私に、

「……それを食べられるボディも、資金集めが予想より成功したら手に入りますよ」

 と、アキナは苦笑いしながら答えました。



 不要品のうち、まだ注文を受けていないものの出品をアキナに取り下げてもらってから、私たちは椿さんと夏希ちゃんをグループ通話に誘いました。応答してくれた二人に、クラファンのことを説明してから、

「……そういうわけで、残りは私たちの努力で稼ぎます~! どうか私たちに、清き? 資金をお願いします~!」

 私はお願いします。それに対し、

『むー……。私としては、もうあまり君を甘やかすつもりはないなー……』

『そうだなー……。リアルの知り合いと、商売で金をやり取りするってのは、あまり気分がよくねーなー……』

 椿さんも夏希ちゃんも、そんな渋い答えを返してきました。

「ただでお金出してくださいとは言いませんよ~! 納得してもらえるリターン、ちゃんと作りますから~! どうかお願いします~!」

 そう私が食い下がると、

『……なーんてな! 自力で資金調達しようと努力してる分、成長したじゃないか! いいリターンを期待してるぞ!』

『そうだな。そこまでお願いされて断るほど鬼じゃない。リターンしだいじゃ出してやるよ』

 二人は、若干温度差はあるものの、いい返事をくれます。私が「やった~! ありがとうございます~!」と、ばんざいしながら喜ぶと、

『それで、どんなリターンを考えてる?』

『そうそう。金出す側としては、そこは外せないぞ』

 椿さんも夏希ちゃんも、そう突っ込んできました。私が笑顔のまま固まると、

「正直に申し上げると、まだイベントに参加する権利くらいしか考えてません。しかし、お嬢様が考えるのを、私がしっかり補佐します。どうか二人とも、ご安心願います」

 割り込んできたアキナが、そう説明したので、

「も~う! 私の台詞、横取りしないでよ~!」

 私は、ぷりぷりと文句を言いました。



 翌日の午前に、

「さて、お嬢様。参考になりそうなプロジェクトから、リターンを考えましょう」

 そう言って、アキナはいろいろなクラファンプロジェクトのページをスクリーンに表示しました。

 それらを見て、私は「頼もしい~! さすがアキナ~!」と喜んでから、アキナと議論を始めます。例えば、

「あ、トークショーに参加する権利とかいいよね~。ファンの人とリアルでお話しするのも楽しそう~」

 と提案したら、

「そうですね。お嬢様が万一まずいことを言っても私がフォローするので、ご安心を」

 なんて、アキナに頼もしいようなけなしているようなことを言われたり、

「あ、イベントで不要品をもらう権利とかどう~? それがメインなんだし~」

 と言い出したら、

「それ、お金を出してもらう見返りにやったら、商品の販売になります。つまり《ボランティア》になりませんよ。服はあくまで、ただで配布しましょう」

 とアキナに突っ込まれたので、私は肩を落としながら「は~い……。じゃあやめる~……」と素直に撤回したり、

「私とアキナの、なれそめから現在までのスペシャル動画とかどう~? きっと売れるよ~!」

 なんて提案すると、

「……スペシャルな動画自体は、何か作りましょう」

 と、渋い顔をしたアキナに、部分的には賛成してもらえたりしました。



 私はアキナに、リターンの内容と、必要経費を基にしたクラファンの目標金額をまとめてもらってから、クラファンサイトでプロジェクトページも作ってもらいます。それをクラファンの運営会社の審査に出す前に、椿さんと夏希ちゃんだけに見せると、

『いいね! 楽しそうだ! ぜひとも出資しよう!』

『んー……。ま、たまにはこういう、わいわい騒がしいのもいいか』

 と、二人は出資に応じてくれました。

 そしてプロジェクトを審査に出した後、私たちは動画でも、イベントのことを告知します。

『春香で~す! 視聴者の皆様~、不要品をお譲りする《ボランティア》を中断して、ご心配おかけしました~!』

 私がカメラに向けて、顔の前で両手を合わせながらお詫びをした後、

『ですが私たちは、その《ボランティア》をさらにパワーアップさせることにしました』

 動画の中に姿を表示したアキナが、そう説明しました。彼女の話を引き継いで、

『そうなんです~! 私の不要品を一まとめにしてお譲りするイベントを、近いうちに駅前で開催しま~す! 私とアキナのトークショーもついてきま~す! 必要なお金はクラファンで集めるので、ご支援くださったかたには、スペシャルなお返しをします~!』

 と、私は笑顔で説明を続けます。それから『例えば……。え~っと、アキナ~、どんなリターン考えてたっけ~?』と、説明に詰まったのでアキナにヘルプを求めました。彼女は一度呆れ顔をしてから、笑顔を作り、

『購入してくださったリターンにもよりますが、主にトークショーの座席確保や、集合写真に入っていただく権利、それと遠方(えんぽう)のかたのために、イベントのライブ動画を視聴する権利などを用意いたします。プロジェクトページを近日(きんじつ)公開しますので、詳しくはそちらで』

 と、すらすらと説明します。彼女の手をわずらわせて、私が気恥ずかしそうに後頭部をかいていると、

『こんな人ですが――こんな人であることもお嬢様の魅力なのは、皆様もご存じの通りですよね。お嬢様の、そして私の挑戦に、お力を貸していただけると幸いです』

 そんな、私を一応フォローするようなことを言ってから、アキナは頭を下げました。私も、

『ん~、複雑な気分ですけど……。満足してもらえるリターン用意して待ってま~す! ご支援よろしくお願いしま~す!』

 そうお願いしてから、頭を下げます。そこで動画は終了しました。



 動画の公開と同時に、アキナはSNSでの告知もしてくれていて、

『不要品をただで配布するフリマっぽいことって、珍しいですね! 応援してます!』

『春香さんやアキナさんとイベントで直接お会いできるのは嬉しいです! クラファン頑張ってください!』

『ちょっと遠いですが、春香さんにお会いできるなら喜んで行きます! 待っててください!』

 という、普通に嬉しいコメントや、

『春香さんとアキナさんとリアルでお会いできる、貴重な機会! 許される範囲で、できるだけお二人を感じたいです!』

 なんて、ちょっと反応に困るコメントなどが殺到しました。それらを見て、

「こんなにたくさんの応援をもらえるなんて、私たちも偉くなったね~」

 と、私は喜んで、

「そうですね。私たちも、今ではそれなりに影響力を得てきました。この調子なら、きっとクラファンも成功します」

 と、特に釘を刺さずに同意してくれたアキナに、少し驚きます。よって、

「だ、大丈夫~? アキナがそんなに素直すぎると、またエラーじゃないかって心配だよ~!」

 と私が心配すると、

「励ましくらい、素直に受け取ってください」

 と、ほっぺたをふくらませたアキナに突っ込まれて、「ごめ~ん……」と反省しました。



 翌日にはプロジェクトの審査が通ったため、プロジェクトページをアキナはさっそく公開してくれました。すぐに、椿さんと夏希ちゃんからの支援が入ってきて、

『楽しいイベントを期待してる。グッドラック!』

『出した金の分、せいぜい盛り上げろよ。まあ頑張れ』

 という、応援のコメントもつきます。

 その二人の支援で、目標金額の二十パーセントを達成したので、その後は順調に支援が集まりました。資金が増えていくたびに、

『たった三日で、目標金額の三十パーセント達成しました~! ご支援ありがとうございます~!』

 などといったお礼の動画を、私はアップします。それ以外では、ほとんどアキナに任せっきりでお金が集まっていったので、

「私はほとんど手放しなのに、こんなにお金集まってすご~い! 正直、怖いくらいだよ~!」

 と、私は浮かれました。それに対しアキナは、

「そうですね。つくづく思いますが、お嬢様のような人がお金を稼げる、いい時代ですね」

 と、受け取りかたに困る答えを返してきます。私が「どういう意味~?」と聞き返すと、アキナは少し間を置いてから、

「その……。あなたのように、面倒な作業は上手く人に任せて、自分の魅力の発信に集中できる人が成功する時代、という意味です」

 と、乾いた笑顔で答えます。「つまりなまけ者って言いたいの~?」なんて私が抗議して、そして「まあ否定はしないけど~……」とへこむと、

「つまり長所は短所の裏返しです、お嬢様」

 なんて、アキナはしれっと答えました。

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