四日目 やっぱり私たち愛されてるな~って、実感できました~!

資金調達の方法を考えました

 資金調達の決意表明の翌日、

「視聴者の皆様、春香で~す! 今日は、中華街に食べ歩きに来てま~す!」

 ドローンと、それに重ねてARの姿を表示したアキナに、私は話しかけました。

「先日ごみ屋敷に引きこもって、メンタル悪化させた反省を踏まえてのことですよね。なるべく外に出ることにしたのは」

 スマートグラスを通じたアキナの声を聞きながら、私は石畳の道を歩きます。両脇をいろいろな雑貨屋さんや食べ物屋さんに挟まれた、車一台分とちょっとくらいの通りを進みながら、

「その通り~。ずっとあの調子だと、どんどんお金なくなっていくだけだったので……。だからひとまず、以前の通りの動画のお仕事を再開しま~す!」

 そう意気込みを語って、ガッツポーズしました。そして映像だけの姿のアキナに腕を伸ばし、それがすかすかとすり抜けるのを確認してから、

「こっちも以前の通り……」

 私は少しへこみます。すかさずアキナが、

「だけど、先日も宣言しましたが――私のボディの修理と、私のニューラルネットワークに必要な追加の領域。それらに出すお金を、私とお嬢様は一か月で稼ぐつもりです。視聴者の皆様。私たちの成長を、今後も見守ってくださるとありがたいです」

 私にも笑顔を向けながら、そうフォローしてきました。それを聞いて、私も背筋を正し、

「だからいいアイディアを出すために、外に出ておいしいものを食べることも続けま~す! さっそく、そっちのお団子から――」

 そう言って、料理屋さんの店頭販売のお菓子めがけてスキップします。その後私は、

「ん~! ごまのぷちぷちした食感がお団子とあんこを包み込んでて絶品です~! アキナにも食べさせ――たいんですけど、それにはもっと高性能のボディが必要だそうです……」

 と、ごまをまぶしたお団子を味わってからへこんだり、

「このパン、もっちもちでしっとりしてておいしいです~! ……ねえアキナ~、今『そんなに食べてばかりいたら、あなたも余計もっちもちになりますよ』とか思ってる~?」

 と、蒸しパンを食べてからアキナに余計なことを聞いて、「お嬢様、私の思考を読みましたか?」というイエスを意味する答えにへこんだり、食べ歩きに飽きてきたら、雑貨屋に入って、

「なんかいいお土産ないかな~? ……んん~? このチャイナドレスなんていかがです、アキナさ~ん?」

 と、アキナに服をすすめ、「また家散かりますよ」と突っ込まれて「はっ!」と声を上げたり――まあ要するに、私が以前のように地元の魅力を満喫してから、

「えっと……。お嬢様自身も、一見以前の通りに見えますが……。これでも成長してるはずなので、今後もよろしくお願いします……」

 撮影の終わりを、アキナはフォローの言葉で締めくくりました。



 家に帰ってから、リビングのスクリーンに姿を表示したアキナと作戦会議です。

「さてお嬢様。資金調達の方法について、今日こそ本腰(ほんごし)を入れて検討しましょう。昨日みたいに寝ないでくださいね」

 と切り出してきたアキナに、

「大丈夫~! 食べ歩きで脳のエネルギー補給したし、帰りのタクシーでしっかりお昼寝したし、今日は頭動かすよ~!」

 と、私も強気な答えを返しました。

「それでアキナ。資金調達って言っても、具体的にどんな手段があるんだろ~?」

 私が尋ねると、

「そうですね。ぱっと検索して見つかったのが、このページですが――」

 そう答えて、アキナはそのページをスクリーンに表示します。そこではいろいろな手段が挙げられていて、

「まずは、昔オーソドックスだった手段ですが……。金融機関からの、融資(ゆうし)ですね」

 少し苦い表情をしながら、アキナはその説明のくだりまでページをスクロールしました。国の金融機関とか、信用金庫とか銀行とかいった、いろいろな金融機関からの資金調達手段や、それを受ける際の注意点が書いてあります。

「融資って、つまり借金だよね~。それって私たちが稼いだことにならない上に、後で返さないといけないし……。あと、国はもう財政破綻しちゃったし、銀行もどこもかしこも経営破綻しちゃってるってニュースで見た~。だから、あまりあてにできないんじゃな~い?」

 普段突っ込まれる側の私が珍しく突っ込むと、目を丸くしたアキナは「お嬢様、悪いものでも食べましたか?」と聞いてきました。「それはあの中華街のごちそうに失礼だよ~!」と切り返した私に、

「……おっしゃる通り、そういった従来の手段での融資はあてにできませんね。今も日本円の価値は暴落(ぼうらく)を続けていて、円建てでの日本政府の債務(さいむ)返済(へんさい)はなかなか進んでいません。銀行も、潰れた時の悪影響が大きい大手は実質国有化(こくゆうか)されて、地方の小さな銀行はどこも潰れたまま放置されています」

 そう答えてから、アキナは別のページを表示します。それは現在の主要な銀行の状況をまとめた一覧で、私も名前を知っている大手銀行や、あるいはまったく知らない地方の銀行は、アキナが言った通りの状況になっていました。

「だから『昔オーソドックスだった』と申しました。正直、おすすめはしません」

 そう続けたアキナに、

「悲しいけど、世の中変わったね~……。それで、他の手段は~?」

 私はそう尋ね、話を進めます。

「そうですね……。地方自治体の融資や補助(ほじょ)金(きん)や助成金(じょせいきん)もありますが、自治体も破産しているので論外(ろんがい)として……。クレジットカードも、今のお嬢様の稼ぎ、つまり返済能力への信用を考えると厳しいです……」

 とぶつぶつ言いながらページをスクロールするアキナに対し、私が「そんな~。私はなんて無力なんだ~」と自虐していると、

「まだ手段はあります。やはり今スタンダードなのは、クラウドファンディング、略してクラファンですね」

 アキナはそう言って、おすすめのクラファンサイトをまとめたページを表示しました。私も指ぱっちんしてから、

「それだ~! 私が小学校に入った頃には、クラファンってメジャーになってたよね~! ……どうしてそれを最初に思いつかなかったんだ~?」

 と、元気になったりへこんだりします。アキナも「私も、さっきのページにあった手段を順番に挙げてみました。とにかく話を進めましょう」と促してきました。

「やっぱりこのご時世、最後に頼れるのはネットだよね~! 私の知名度だったら、〇・四ビットコインくらい、楽勝で調達――できるのかな~? 今までも、お小遣い程度のお金でも稼ぐのに意外と苦労してきたし……」

 私がわくわくして、そして自信を失ってくるとアキナも、

「その通り、クラファンも基本的には商売です。短期間で、なおかつ借金なしでの資金調達をするには購入型というタイプが一番だと思われますが――それにはリターン、つまり支援者へのお返しをしっかり用意する必要があります」

 私の心配の内容を肯定(こうてい)してから、説明を続けます。

「お返し~? 具体的に、どんなのがいいかな~?」

 私が質問すると、アキナはクラファンプロジェクトのページをいくつか表示してから、

「商品やサービスの開発の経費を支援してくれた人たちに対し、その商品・サービスをお返しする例が多いですね。私たちの場合、そうした事業経費の調達には該当(がいとう)しませんが……」

 そう言ってから、腕組みしました。私は「それでもさ~」と返してから、

「今回の修理費やサーバー代だって、アキナのボディって言う仕事道具を使えるようにするためのお金! つまり、私たちにとっては立派な事業経費だよ~! だからそれで、私たちも何か新しい商品やサービスを作ろうよ~!」

 人差し指を立て、胸を張りながら答えます。眉をひそめ、「例えば、どんなものを作るおつもりですか?」と聞いてくるアキナに、

「ん~っとね~。例えば、支援者の人限定で見られる動画で、私とアキナのプライベートなラブラブ生活を――」

 と私が言いかけると、アキナは無表情で「却下(きゃっか)」と切り捨てました。私は肩を落とすものの、

「そうだよね~。正直それは、私も恥ずかしいから嫌~。……それじゃ~、アキナが支援者の人の家に訪問して、家事代行するサービスとか~!」

 気を取り直して、さらに提案してみます。アキナは首をかしげ、

「クラファンの支援は日本全国から、さらには海外からも集められますが……。遠くの支援者のところにも私が訪問すると、あなたの家事をする時間がしばらく取れなくなりますよ。それでもよろしいですか?」

 と、そんな意地悪なことを聞いてきました。私は散らかった部屋に目を移した後、両手で顔を覆い、

「正直、一日でもアキナに家事してもらえなかったら嫌だ~! ……それに、アキナばかりこき使うのも、なんか嫌だ~!」

 と嘆きます。「私も嫌ですね……いろいろと」とため息交じりに答えるアキナに、

「やっぱりお金を稼ぐのは大変だ~! もういっそ、お金を支援してくれる《ボランティア》とかないの~?」

 天井を仰ぎながら、私はさらに嘆きました。意外にも、アキナが「あるにはありますが……」と答えたので、私はがばっとスクリーンに目を戻します。

「……起業家が事業を軌道(きどう)に乗せるまで、資金面での苦労をなくしたい。そういう目的で運営されている《ボランティア》もあります」

 アキナが続けた説明に、私は「それだ! それ使わない手はないよね~!」と乗っかりかけますが、

「……しかしそれは要するに、『くれくれ』にただで応える仕事です。実際、有象無象(うぞうむぞう)の起業家たちの『くれくれ』に際限(さいげん)なく対応しているので……。その手の《ボランティア》はどこも大赤字で、新規の支援依頼に対応してるところはありませんね」

 彼女はさらに説明を続けてから、そういう《ボランティア》の人たちの暴露(ばくろ)のブログなどを表示しました。

「駄目か~!」

 私はまたも嘆いてから、頭を抱えます。そして、「はあ~。本当にどうしよ……」とぼやいてから、散らかった部屋に目を移しました。相変わらず、床一面に広がって地層を作っている服やらビニール袋やら段ボールやらに視界を占領(せんりょう)されていると、

「そもそも、家事もまともにできない私に、本当はどんな仕事も向いてなかったんじゃないの~? だから、資金調達なんかやろうとしてもうまくいくはずが――」

 と、私はうつむきながら、ぶつぶつとネガティブ発言を始めてしまいます。

「やっぱりあの中華街で食べたものに、悪くなってたのがあったんじゃないですか?」

 アキナにそんな横槍を入れられ、私は正気に戻りました。「あのおいしかったごちそうに誓って、それはないよ~」と反論する私に、

「しかし、それから得た気力は、尽きてきたようですね……。何か気分転換をされませんか?」

 アキナはそうすすめてきます。

「そうだね~。今日はもう、お仕事する気分でもないし……。久々に、純粋なお散歩でもしようかな~」

 彼女に私は同意してから、家を出ました。



「お~。今日もやってるね~」

 家の前の通りに出てから、私はそう言葉を漏らしました。

 周りには、《ボランティア》の手によるリノベらしい工事が入っている空き家や、あるいはそれが済んだらしく、入居者募集中との掲示がされた家などがまだあります。さらにはそれらを見て、「あの《ボランティア》に投げ銭して」と、AIに頼んでいるらしい通行人もいました。

「アキナ~、私も久々に投げ銭……は、今厳しいか~」

「私が止める前に気づいてくださって、何よりです」

 とアキナとやり取りしてから、私は歩き出します。

 少し歩いて、大きな川沿いの通りに出ました。川岸に作られた少し広い岸壁や、近くの駐車場を見回しながら、

「そう言えば二か月くらい前まで、この辺もホームレスで埋め尽くされてたよね~」

 と、私はアキナに話しかけ、そして川上のほうへ歩きます。

 アキナは「そうですね」と同意してから、私の視界の片隅にニュース記事の写真を表示しました。近くの岸壁や駐車場が、テントや段ボールハウスでいっぱいになっていた時の風景を私が見た後、

「しかし今や、財政破綻後にホームレスになった人の八割が、《ボランティア》が用意した新居や仮の入居施設に入っています」

 そう言ってアキナは、そのことを説明する別のニュース記事を表示します。その時私は、横断歩道の手前に差しかかっていて、

「八割の人が~? 仕事が速いね~。やっぱり今の世の中、《ボランティア》さまさま――」

 そこまで言いかけて、私は足を止めました。「お嬢様?」と声をかけてくるアキナをよそに、私はしばらく口をぽかんと開けてから、

「これだ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」

 道端で両拳を突き上げながら絶叫して、周囲の通行人の注目を集めてしまいました。

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